第84話 神様のお買い物②

 家具や部屋に飾る物をあらかた買い漁った私が、次に向かったのはランジェリーショップだ。一口にランジェリーショップと言っても、乙女通りにはランジェリーショップがたくさんある。今日は見れる限りのランジェリーショップを見て回るつもりだ。


「いらっしゃいませ」


 まずは1店舗目。店内はカラフルなランジェリーが所狭しと並んでいて鮮やかだ。明るい淡い色が多いかな。でも暗い色、例えば黒なんかも豊富にある。ありとあらゆる全ての色があるのではと錯覚するほどの品揃えだ。柄や形も様々な下着の博覧会みたいだ。しかも、並んでいるのはブラジャーやショーツだけではない。ベビードールやネグリジェなんかも並んでいる。


 さすがはランジェリーショップ。専門店なだけはあるな…!


「店員よ!」


 私は店員を呼んで尋ねることにした。これだけの量を全て見ていられない。店のことは店の人間に訊くに限る。


「はい。どうかなさいましたか?」


 呼べば笑顔ですぐに来る店員に好感を覚える。よく教育されているらしい。さすがは乙女通りという激戦区に店を構えているだけあるな。従業員の質が高い。


「この店で一番過激な下着が欲しい」

「過激…でございますか?」

「そうだ。恋人が思わず襲いたくなるような、魅力的な下着が欲しいのだ!」



 ◇



「ふぅー…」


 何軒目かのランジェリーショップを出て、私は熱い息を漏らした。


 いやー、探せばあるものだね、エロ下着。


 私は、各店を回ってエッチなランジェリーを買い漁っていた。もちろんディアネットやミレイユ、リリムに着てもらうためだ。一応私の分とエレオノールの分も買ってあるが、それは今はいいだろう。とにかく、私は3人にエッチなランジェリーを着てほしいのだ。


 断じて3人に飽きたわけではない。皆かわいい良い娘だ。ただちょっと刺激が欲しいだけなのだ。


 3人のがエッチなランジェリーを着てくれるなら、私は匹夫の労さえ厭わぬ覚悟だ。


「ふへへ……」


 3人がエッチなランジェリーを身に纏う様子を妄想すると、自然と笑みが零れる。今の私は気持ちの悪い笑みを浮かべているだろうなぁ……だが顔がニヤケるのが止まらない。


「だが……」


 3人とも素直に着てくれるだろうか?


 ミレイユは、かわいいかわいいとおだてたらいけるか?まずはかわいい系のランジェリーを着せて、そこから徐々に過激な物にシフトさせていく。この作戦でいこう。


 リリムは、よほどの物じゃない限り着てくれると思う。彼女は義理堅い性格だから、私からプレゼントしたら、たぶん着てくれる。ゴスロリ服も着てくれたしね。


 ディアネットはどうだろう?正直断られるところが想像できない。何を渡しても淡々と着てくれそうな気がする。でもなー……そうじゃないんだよなー……。エッチなランジェリーを恥ずかしそうに着てくれるディアネットが見たい。この『恥ずかしそうに』というのがポイントだ。私は恥ずかしがるディアネットが見たいのだ。


「我ながらこじらせているなー……」


 これが性癖と呼ばれるものだろう。神である私には無縁のものだとばかり思っていたが……私にもあったらしい。新しい自分の発見だ。


「ん?」


 次のランジェリーショップへ行こうと歩いていると、なにやら怪しい看板の店を見つけた。黒地に紫の看板の店だ。ポップで明るいパステルカラーのお店が多い乙女通りでは、明らかに浮いている店構えだ。その名も『夜の蝶』。これはもしかすると、もしかするか?


 私は誘われるように店へと入っていく。


「おぉ…!」


 そして店に入ると愕然とした。まさか、実在するとは…!


「いらっしゃいませー。あら?」


 どこかにあるはずだと思っていた。しかし、こんな所にあるとは……。


「お嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんの来るような所じゃ、あ!ちょっと!」


 店員の言葉には耳を貸さずに、私は商品の置かれた棚へと直行する。並んでいるのは、いわゆる大人のおもちゃの類だ。ふむ。いろいろな種類があるのだな。大きさも様々だ。


「お嬢ちゃん。興味があるのは分かるけど、お嬢ちゃんにはまだ早いわ」


 そう言って私の肩に手を置く店員。


「さ、出ましょ。大人になったらまた来てね」


 そう言って私の肩を押して店の外に出そうとする店員に足を踏ん張って抵抗する。


「待て待て。私はもう大人だ」

「そうなのね。でも、ちゃんと成人しないとダメなのよ」


 私の言葉を信じようとしない店員。たしかに今の私の見た目は10歳くらいの幼女だけれども!この姿で成人してると言い張るのは、さすがに無理があることは私も分かっている。だが、ここで諦めるのはあまりにも惜しい。なにかないか?私が成人していると証明できるものは……。


「そうだ!これを見よ!」


 私は、首から下げていた革の冒険者証を店員に見せる。


「それは?」

「これは冒険者証だ。冒険者に登録できるのは成人してから。つまり、冒険者証を持っている私は成人している」

「これがねー……」


 店員は私の冒険者証を物珍しそうにしげしげと見つめる。初めて見たような反応だ。まぁ一般人にとってあまり馴染みが無い物かもしれないな。


「どうだ?裏にちゃんと冒険者ギルドの紋章も入っている。本物だぞ」

「うぅーん……はぁ…。分かりました。成人していると認めます。失礼しました、お客様」


 しぶしぶだが信じてくれたようだ。やったね!


 店員に成人と認められて、あらためてアダルトショップの中を見て回る。小さな店だが、品ぞろえは豊富だ。それこそ所狭しと商品が並んでいる。これだけ多くのアダルトグッズが並んでいる光景は、なんだか凄みのようなものを感じた。


 あまり流行っていないのか、客は私1人だけのようだ。まだお昼の明るい時間帯だからだろうか?せっかく見つけたアダルトショップだ。潰れてほしくはない。ここは私が買い支えるべきかもしれないな。欲しい物は片っ端から買っていこう。


 客が私1人だけだからか、店員が私に付いて来る。ついでだから商品の説明もしてもらおう。


「ちょっとよいか?」

「はい。何でしょう?」

「これなのだが……」


 私が手に持ったのは、2つの張子だ。この2つ、作りは似ているのに、価格が全く違う。何が違うのだろう?


「こちらは普通の張子ですね。そしてこちらは、ここを押すと……」


 店員がボタンを押すと、張子の中ほどにあるイボイボの部分が勝手にくるくるとゆっくり回転し始めた。


「こちらの張子には中に宝具が内蔵されていて、動くんです」


 なんとこの張子、中に宝具が入っているらしい。まさかアダルトグッズの宝具があるとは……リアレクトは意外とスケベなのかもしれない。いや、この場合スケベなのは人間の方か?宝具をアダルトグッズに改造するとは、まさしく神をも畏れぬ所業だ。人間は欲深い生き物だと知ってはいたが……まさかこれほどとは……すごいな人間。あっぱれだ。私は称賛するよ!


「では、こちらの動く方を貰おうか」

「お買い上げ、ありがとうございます」


 まさか動くアダルトグッズがあるとはなぁ……これは他の品も期待できるな!


「これは何だ?」


 私が次に手に取ったのは、卵のような形をした楕円の球体だ。これは何に使うのだろう?


「こちらは、ここを捻ってみてください」


 言われた通りに捻ってみると、卵が振動し始めた。これローターだわ!


「さらに捻ると、振動が強くなりますよ」


 しかも強弱の調整ができる!まだ電気の無い時代にまさかローターが作れるとは…!


「まさか、これも宝具か?」

「はい。宝具を使用しています」


 まさか自分の創った宝具がアダルトグッズになるとは考えもしなかっただろうな……リアレクト、君は泣いていいよ。


「これも買うよ」


 まぁ使うんだがね。


「お買い上げ、ありがとうございます」



 ◇



 その後も店内を回ってアダルトグッズを買い漁っていく。中には、大人のおもちゃだけではなく、エッチな衣装もあった。もう隠すことを放棄した、むしろ見せつけるかのようなエッチな衣装だ。もちろん購入した。


 私は相当な額を店の売り上げに貢献し、ホクホク顔で店を後にするのだった。

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