第81話 神様と夜会

 私は夜、一人では寝ない。必ず誰かと一緒に寝る。ハーレムができてからは、ハーレムメンバーの所をローテーションで巡っている。今日はディアネットの日だ。ウキウキした気分でディアネットの部屋に向かっていると……。


「ねえ……」


 手を繋いで歩いているリリムから声をかけられた。今にも消え入りそうな、か細く不安に満ちた声だ。いつもハキハキとしゃべるリリムらしからぬ震えた声。見れば、その体は小刻みに震えていた。繋いだ手からも震えが伝わってくる。


「ほんとにあーしも行っていいのかな……?」


 今日ディアネットの部屋に呼ばれたのは、私だけではない。リリムとミレイユも呼ばれていた。


 今日はディアネットの日なので、本来ならば私とディアネットが2人っきりで愛し合う日なのだが、ディアネットがリリムとミレイユに「一緒に…」と声をかけたのだ。このように、その日私と眠る娘が、他の娘を呼んで一緒に楽しむことを私たちは『夜会』と呼んでいる。今日はディアネットが夜会を開いたのだ。


「心配しなくても大丈夫よ。私だっているし、ディアはとっても優しいわよ」


 不安そうなリリムにミレイユが励ますように言う。ミレイユはもう何度か私とディアネットの夜会を経験しているからね。最初はひどく緊張していたけど、慣れたのだろう。もしくは、ハーレムの先輩として後輩を気遣っているのかもしれない。先輩風を吹かせるミレイユはとてもかわいい。幼い子どもが背伸びしているかのような、とても心がほっこりする光景だ。


「不安がることはないよ、リリム。ディアはリリムのことが大好きだからね」


 ディアネットは、リリムのことを愛している。より正確に言うのならば、彼女はパーティメンバー全員を愛している。だから私にハーレムを作れと持ち掛けた。彼女はパーティメンバーともっと深い仲になりたかったのだ。


 言い方は悪いが、ディアネットは私を利用して自分の望みを叶えようとしているとも言える。ディアネットにとって、私を介してリリムやミレイユと関係を深めることが出来たのは、喜ぶべきことだ。あとはエレオノールがハーレムに入れば、ディアネットの望みは完全に叶うのだが……果たしてどうなるか。


 そんなディアネットだから夜会を開くことに積極的だ。彼女は皆と仲良くなりたいのである。まぁ私と2人っきりを望む時もあるけどね。だいたい2回に1回は夜会を開いている。かなりの頻度だ。


「でも……」


 リリムはまだ不安そうだ。彼女にとって初めて複数人でするのだし、不安は当然かもしれない。


「大丈夫だよ、リリム」


 私はリリムの手をキュッと握り、背伸びしてリリムの唇を奪った。驚きに目を丸くするリリム。だが、すぐに私のキスを受け入れてその目を閉じる。


「んっ……んんっ!?」


 私は舌をリリムの口内へと侵入させた。


「はぁ…ちゅ……ん……」


 舌でリリムの中を蹂躙する。リリムの舌を弄び、上顎を舌でなぞると、リリムが手をキューッと握り返してきた。ちょっと痛いくらいだ。廊下にぴちゃぴちゃと小さく水音が響く。


「ぁ……」


 リリムから口を離すと、リリムが切ない声を上げて、彼女の舌が私の舌を追いかけてきた。口の外で舌だけで繋がる私とリリム。しかし、私が背伸びを止めると、その舌も離れてしまう。私の舌とリリムの舌の間には、銀の橋が架かっていた。


「もっほ……」


 リリムが舌を出したまま、目をとろんとさせて、私におねだりをする。リリムはわりと自分の欲望に忠実だ。そこがまたかわいらしい。


「後でね」

「う~……」


 小さく唸るリリムの手を引いてディアネットの部屋に向かおうとしたら、今度は反対側の腕が引っ張られる。ミレイユ?


「わ、私もなんだか不安になってきたわー……」


 ミレイユが、まるでセリフを棒読みしているかのように抑揚なく言う。いや、言いたいことは分かるけどさ。さっき先輩風吹かしてたじゃん。


「はいはい……」

「んっ……」


 ミレイユとちゅっとキスを交わす。唇を触れ合わせるだけのキスだ。


「……え?」

「さ、行こっか」

「ちょっと!私の扱い雑じゃない?」

「あまりディアを待たせるのも可哀想だろ?」

「そうだけど……もー!」


 ミレイユの不満の声を聞き流して、私はリリムとミレイユの手を引いて夜の廊下をディアネットの部屋目指して進んで行く。広い屋敷だが、私たちの部屋はお互いに近い所にある。すぐにディアネットの部屋に着いた。


 コンコンコンとノックをすると、いつも通りすぐにガチャリとドアが開く。ディアネットは、今日もまたドアの前で待機していたのだろう。彼女も夜会が楽しみで仕方なかったようだ。


「お待たせ」

「待ってた…」


 ディアネットと軽くキスを交わして、私はリリムの手を引いてディアネットの前へと誘う。


「ネトネト…その……」

「心配は要らない…」


 そう言ってディアネットはリリムの頭を優しく撫でた。リリムの体の震えが治まっていく。


「入って…」


 私たちは、ディアネットに誘われるままにドアをくぐった。

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