第76話 神様とリリム④

「弄ばれた……」


 明かりの消された室内。窓から差し込む淡い月明りだけが唯一の光源となった濃い暗闇の中に、リリムの声が響く。なにやらこちらを責めるような響きを持った声だ。


「弄んだとは人聞きが悪いな」


 たしかに愉しませてもらったがね。リリムがあまりに反応が良いから、ちょっとやり過ぎた気がしなくもないが……。


「あんなとこ舐めてくるし、お尻も叩いてくるし、おっぱい抓るし、おもちゃにされた……」


 たしかにそうだけど……。


「リリムも悦んでいただろ?」

「別に喜んでなんて……」


 口では否定するが、その声は弱弱しい。リリムも本当は分かっているのだ。体は正直だなというやつである。


 リリムは……俗に言うM、マゾヒストだ。しかもドの付く本物である。


 私も最初は優しくしようと思ったんだよ?でも、強めに責めた方がリリムが悦ぶのだ。お尻を叩いた時なんて「んほぉお!」とか言って絶頂したくらいだ。あれには私も驚いた。そして確信した。リリムはドMであると。


「嫌だったか?」

「………」


 リリムからの返答は無かった。嫌ではなかったのだろう。


「はぁー…。あーしさ、自分がリードしなきゃって思ってたんだけど」

「そうなのか?」

「そりゃまあ、お姉さんですし」


 意外にもリリムは私をリードするつもりだったらしい。まぁ年上なら普通はそう思うものだろうか。


「でも泣いちゃうし、慰められちゃうし、結局ルールーにリードされちゃうし、情けないとこばっか見せてる気がする」

「かわいかったよ?」

「んー……なら良し?」


 暗闇の中、2人の小さな笑いが響く。


「それにしても少し意外だったな。リリムはもっと遊んでいるのかと思っていた」


 勝手な印象だが、リリムは経験があるのかと思っていた。だが、意外にもリリムは初めてだった。


「わーそれすっごい偏見。遊びでこんなことしないし」


 リリムはこう見えて意外にも純情らしい。


「だが、あのハートを見れば遊んでいるのかと思うぞ?」


 リリムの下の毛は、綺麗にハート型に整えられている。誰かに見せるためでもなければ、あんなことしないと思うのだが……。


「あれはおしゃれだし。かわいくない?」

「かわいいよ」


 もう長いこと生きているが、未だに乙女心というか、女の子の感性というのはよく分からないな。永遠の謎だ。



 ◇



「うーん……」


 こいつの加護は没収だな。強い加護を得たことで天狗になっている。それだけならまだ良かったのだが、加護を得たことを笠に着て、自分の意思は神の意思と言ってやりたい放題だ。いくつもの犯罪に手を染めている。こんな奴に加護を与えたまま野放しになっていたとは……恥じ入るばかりだ。


 やはり、ランダムで加護を与えるのは問題が多いな。他の神のようにカルマ値を導入してみるか?だが、あれは初期設定が面倒なんだ。何が善で何が悪かを細かく決めないといけないし、その一つ一つに数値を割り振らないといけない。例えば、盗みをしたら-1ポイント、殺しをしたら-10ポイントみたいな感じだ。逆に良いことをしたら+のポイントが付く。


 でもカルマ値も問題がある。先程の例で言えば、罪人を裁く処刑人などの職業の人間のカルマ値が、悪いことをしていないのに下がってしまう。それに、善悪なんてその時々で容易くひっくり返るからなー……。不変的な善悪など存在しないのだ。


「他の神に相談してみるのも手か……」


 ふと気が付くと、下界はもう朝になっていた。そろそろ起きる時間だな。ルーの体も十分休息が取れただろう。


 下界の様子を見ると、リリムがもう目を覚ましており、ルーの頬をつついて遊んでいた。


「今日はこんなところにしておこう」


 神界での神の仕事に一段落つけて、私はルーの体へと戻ることにした。



 ◇



 ルーの体に入ると、体が覚醒を始める。この重力に縛られたひ弱な身体。ルーの体に入ったのだなと実感する。頬をつつかれる感覚を感じながら、私は重い瞼を開けた。


「お!起きた。おはよー」


 リリムが笑顔で言う。なんとも爽やかな笑みだ。清々しい朝に相応しい。仕事に疲れた心が癒されていくようだ。


「おはよう、リリム」

「それは、おっぱいじゃなくて顔見て言ってほしいなー」


 そうは言うが、これは目を奪われても仕方ない光景だ。朝日に照らされて白く輝く双丘。その色素の薄いピンクのいただきは、ツンと上向きで、なんだかこちらを挑発しているようにも感じられた。思わず手が伸びる。


「やんっ!」

「おはよう、リリム」


 今度はリリムの顔を見て挨拶を返す。


「ルールーってぇっ!見かけ、にぃっ、よらず、エッチ、だよねっ…!」


 リリムが言葉を詰まらせながら言う。


「そうか?」


 手の中でだんだんとその硬度を増していく蕾。それをキュッと強く摘まみ、転がす。


「あんっ!それっ、らめぇ…ッ!」


 リリムが体を捩じらせる。リリムは、少し痛いくらいの強めの刺激の方が反応が良い。今だって頬を上気させ、明らかに感じている。口ではダメと言いつつも、私の手を振り払わないあたり、リリムも望んでいるのだろう。


 私はそろりとリリムの下腹部へと、ハート型に整えられた茂みの奥へと手を伸ばした。



 ◇



「ルールーのエッチ……」


 リリムが布団を抱いて体を隠しながら私を責めるような視線で見ていた。


「エッチで何が悪い!」

「開き直った!?」


 結局、リリムと朝からしてしまった。明るいからか、リリムがやけに恥ずかしがったのが、余計に私を熱くさせた。もしかしたら私はSなのかもしれないな。リリムはMだしつり合いが取れていいかもしれない。


「もう。ルールーって見た目クールなのに、中身は不思議ちゃんのヘンタイだよね」


 リリムが、ため息を吐きながら言う。


「嫌いになったか?」


 ちょっと調子に乗り過ぎただろうか?


「ううん。好き」


 リリムの言葉が胸に刺さる。ここまでストレートに気持ちを伝えられると、その……なんだ……なんだか少し照れくさい。


「照れてる?」


 ニヤニヤ人の悪い笑みを浮かべて訊いてくるリリム。


「ちょっとな」

「ちょっとかー…よっと!」


 そう言いながら、リリムがベッドから立ち上がる。リリムの健康的な美しい裸体が朝日に照らされて白く輝く。裸婦画にして後世まで伝えたいほどの美しさだ。本人は嫌がるかもしれないが。


「んじゃ、あーしはそろそろ行くね。朝ごはんの時間だし」


 リリムが昨日着てきたゴスロリ服を腕に抱えて言う。そのまま服を着ずに行くつもりらしい。


「裸で行くのか?」


 この館には女しかいないから問題にはならないだろうが、ちょっとはしたないマネだ。服があるのだから着ればいいのに。


「パーッて行っちゃえばすぐだし。それに……」


 リリムが少し顔を赤らめて言う。


「この服着てるとこ見られるのは恥ずかしいっていうか……」


 どうやらリリムにとって、ゴスロリ服を着ることは、裸を見られること以上に恥ずかしいらしい。これも乙女心というやつか?私にはよく分からない心理だ。


「あーしがこの服着るのはルールーの前でだけっていうのもエモくない?」


 たしかに、私の前でだけかわいい服を着るリリムというのも独占欲が満たされて気持ちの良いものがある。


「じゃあ、ソレ用にかわいい服をたくさんリリムに贈らないとな」

「えー…。ルールーえっちだからなー…」


 リリムがおどけて怖がってみせる。そうだね、わざとエッチな服を贈ってリリムに着てもらうのもアリだね。私ならやりかねない。というかやる。絶対やる。


「んじゃ、またあとでねー」

「ああ。またあとでな」


 どんな服をリリムに着せようか。そんなことを考えながら、私はリリムを見送った。

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