第64話 神様と過去からの訪問者⑤
「おいこら、暴れんな」
「胸ねーなー。これじゃあ揉んでるって言うより摘まんでるだぜ」
「おい、こっちの穴は使っていいんだがひゅー……」
ミレイユのお尻を揉んでいた男の首の動脈を斬り裂く。ブツリと太い糸を断つ手応えを感じ、そのまま返す刀で、ミレイユの胸を弄んでいた男の首に短剣を突き立てる。
「ガグッ…!」
短剣を捻り、傷を広げると、ブツブツと糸を千切るような手応えを返してくる。男の体が、電気でも流されているかのようにビクビクと震え、短剣を抜くと、喉から大量の泡混じりの血を噴き出して倒れた。
「てめぇは!?どこから沸いてきやがった!?」
残ったミレイユを取り押さえていた男が、慌ててミレイユから跳び退き剣を抜く。
「ルー!?」
ミレイユが、私を見上げてポカンとした表情で驚きの声を上げる。その顔は真っ赤に染まり、幾筋もの涙を流していた。ミレイユが泣いている。たしかに、少女には耐え難い仕打ちを受けた。この報いは必ず奴らに払わせてやろう。
「もう大丈夫だ、ミレイユ。私が来たからな」
ミレイユを安心させるように笑顔で応える。ミレイユの手足を縛る縄を短剣で断ち、腰にぶら下げたマジックバッグから服を取り出して、ミレイユへと渡した。
「てめぇ!よくも仲間を!」
男がいきりたって吠えた。私の傍には、男が2人倒れている。どちらも首から血を流し、致命傷を負っていることは明らかだ。
「待ちな!」
今にも跳びかかってこようとしていた男を制したのは、野太い女の声だ。冒険者崩れの女たち。ここには彼女たちも居る。
女たちは、腰の剣を抜く様子も見せずに、男の傍に並ぶ。
「腰のそれ、マジックバッグだね?今回はそれで手を打ってやる。それを寄こしな」
この女は何を言っているんだ?
「知ってるよ、アンタのこと。アンタ盗賊なんだってね。不意打ちや鍵開けは得意でも、正面からの戦闘はどうかねぇ?」
「4対1だ。諦めな」
なるほど。女たちは、どうやら私のこと舐めているらしい。自分たちの優位を疑ってもいない。
「アンタ有名人なんだってね。みーんなアンタのこと知ってたよ。『開かずの宝箱』を開けた天才盗賊さま?まったく、有名人は辛いねぇ」
アンタの情報はすぐに集まったよ。そう言って嗤う女たち。
「しかもアンタ、本来の得物は弓らしいじゃないか。短剣もできるようだけど、弓ほど得意じゃないんだろう?苦手な短剣で4人を相手にするのは厳しいんじゃないかい?」
「さあ、早くそれを寄こしな。金貨700枚もその中に入ってるんだろ?」
「貴女だって、こんな所で死にたくはないでしょう?」
「聞くに堪えんな」
女たちの嘲りは、とても不快だ。
「はあ?」
「いっぺん死んどくか?小娘!」
私は、左手をタスラムに伸ばす。使うのは上から4番目、一番下のタスラムだ。指で挟むと同時に投げる。
「ばっ!?」
タスラムは、中央に立っていた女、おそらくリーダー格の女の胸に命中した。女は、ろくに反応することもできずにタスラムをその身に受ける。
タスラムがカッと光った。
ズドォォオオオオオオオオン!!
凄まじい閃光と爆音を響かせ、タスラムが爆発した。熱を持った爆風に、体が攫われそうになりながらも、なんとか耐える。
爆風が治まり、顔を覆った腕の隙間から覗くと、倉庫の壁にポッカリと大穴が空いているのが見えた。大穴からは、暗闇の中、月明りに照らされた草原が見える。
あの不愉快な4人の冒険者崩れの姿はどこにも無い。どうやら消し飛んだみたいだな。
タスラムの爆発は、前方に指向性を持った爆発らしい。地面に大きくU字を描くように爆発の爪痕が刻まれていた。爆発の規模の割に私たちの被害が無いのは、この指向性によるものだ。
それにしても、タスラムの威力は私の予想以上だな。タスラムの4番目、一番下のタスラムは、ディアネットに魔力を注いでもらった特別製だ。魔法使いであるディアネットの魔力をふんだんに注いだタスラムは、その威力を存分に発揮した。いや、しすぎたと言ってもいい。タスラムの破壊の爪痕は、倉庫の壁に留まらず、草原を抉るように広がっていた。こんなの危なくて街中で使えたものじゃないな。ここが街の外れで、隣がなにも無い草原で良かったよ。
ミレイユは大丈夫だろうか?
後ろを振り返ると、ポカンとした表情のミレイユが居た。あまりの驚きに涙も引っ込んだみたいだ。呆然とした表情で固まっている。着ている暇が無かったのか、私の渡した服を握ったまま、裸で座っていた。
月明りに照らされたミレイユの裸体は白く輝き、神秘的な美しさすら感じさせた。まるで月の妖精のような儚い美しさだ。男たちが色に狂うのも無理はないかもしれない。まぁミレイユを泣かせたことは許さないがね。
「ミレイユ、大丈夫かい?」
「………」
ミレイユが無言で私を見つめる。その顔がだんだんと赤くなり、くしゃっと歪んだ。
「ルー…私、私……」
「もう大丈夫。大丈夫だから」
私はミレイユを優しく抱きしめる。そしてその背中を宥めるように撫でる。
「わた、私…男たちに、さわ…こわ、怖くて……」
「大丈夫。もう大丈夫だ」
「あぁ…ああ…あぁぁぁあああああああ!」
ミレイユが私の胸で慟哭を上げる。私は、ミレイユが泣き止むまで彼女の背中を撫で続けた。
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