第63話 神様と過去からの訪問者④
「ふいー、さっぱりしたー」
「良いお湯でした」
リビングでディアネットと寛いでいると、リビングの扉がガチャリと開き、リリムとエレオノールが姿を現した。風呂から上がったばかりなのだろう。2人ともほんのりと赤く染まった肌が艶っぽい。
「ルールーとネトネトは、ほんと仲良いね」
「まぁな」
私は今、ディアネットの膝の上に座って、後ろから抱きしめられている。ディアネットにだっこされている形だ。ディアネットを抱いた日以来、ディアネットは、それまで以上に私とくっつくようになった。隙さえあれば抱きつかれる。私も、ディアネットに抱きつかれるのは気持ちが良いので、大歓迎だ。ディアネットの体は柔らかくて、温かくて、最高の抱かれ心地なのだ。
「ミレイユはまだ戻ってないんですね。少し遅い気がします。大丈夫でしょうか……」
エレオノールが眉尻を下げて、心配そうに呟く。
そう言われれば、まだミレイユは帰ってきていないな。もうすぐ夕食の時間だ。たしか今日は神殿に行くと言っていたが、これほど遅くなるとは聞いていない。少し心配だな。
心配になった私は、ミレイユの様子を見てみることにした。ミレイユの居場所を特定し、その様子を見ることなんて、私にとっては容易いことだ。
ミレイユは街外れの倉庫街に居るようだ。なぜこんな所に?
倉庫街でも外れの
恥ずかしさからか、あるいは屈辱からか、真っ赤に染まったミレイユの顔が、一点を睨み付けている。そこに居たのは、あの3人の女たちだ。二代目【赤の女王】、冒険者崩れの女たち。
しかし、他にも人の気配があった。倉庫に居るのは、ミレイユと女たちだけではない。
視点を変えれば、ミレイユを挟んで女たちと向き合うように、3人の男の姿が見えた。武装して冒険者のような恰好をしているが、いずれも脛に疵を持つ者特有の暗いじめっとした空気を纏う者たちだ。おそらく、彼らも冒険者崩れなのだろう。よく見れば、彼らの顔には見覚えがあった。タルベナーレの街に初めて来た日、私を襲った暴漢たちだ。
「なぁ、これじゃ生殺しだぜ。ヤッてもいいだろ?」
「そうだ。そうだ」
暴漢たちが、ミレイユを舐め回すように見ながら声を上げる。興奮しているのか、その目は血走っていた。
「ヤッたら売値が下がるだろ!せっかくの
「そうそう。これ見てマスでも掻いてな」
そう言って女の一人が、ミレイユの体を足で転がす。これまで、男たちに背中しか見せていなかったミレイユの体が、正面から男たちの目に晒された。
「嫌っ!見ないで!見ないでよ!」
ミレイユの哀願を無視して、男たちの視線がミレイユの胸に股間に突き刺さる。
「これじゃあ本当に生殺しだぜ。触るくらいならいいだろ?」
「仕方ないねぇ」
「いいのかい?」
「暴発されたら、たまったもんじゃないからね。ただし!挿れるのはナシだよ」
男たちは不満そうな顔を浮かべたが、不承不承頷いた。
「チッ。わーったよ」
「あんたたちには豚箱から出してもらった恩があるからな」
「それにこの女、オレたちを豚箱送りにした女たちの仲間なんだろ?せいぜい楽しませてもらうさ」
そう言って目をギラつかせた男たちがミレイユへと迫る。
「いやぁああああああああああああ!」
ミレイユの絶叫が倉庫に響いた。
私は、勢いよくディアネットのだっこから抜け出して立ち上がる。
「ルー…?」
ディアネットが、私の急な行動に疑問を持ったようだが、今は説明している時間も惜しい。
「ミレイユを迎えに行ってくる!」
それだけ答えて走り出す。
「どうしたんでしょう?」
「さぁ?」
エレオノールとリリムの会話を背に、私は自室へと急いだ。まずは、武器が要る。相手は、こちらに悪意を持つ武装した男女6人。素直にミレイユを解放してはくれないだろう。ミレイユを取り戻そうとすれば、必ず戦闘になる。
自室で手早く武装を済ませると、私は庭の片隅へと向かった。塀と植物に囲まれた、周りからは見えない場所だ。
これから行うことは、誰にも見られない方が良い。そのために、出来る限り人目を避ける。
ミレイユは、タルベナーレの街の外れの倉庫街に居る。ここは街の中心部。だいぶ距離が離れている。普通に走ったのでは時間が掛かりすぎる。その間にミレイユがどうなるか分かったものではない。
私は、自分に課していたルールを破ることに決めたのだ。ミレイユの心と、下らない自分ルール。どちらが大切かと言えば、ミレイユの心に決まっている。
私は、現在地とミレイユの居場所の座標を割り出し、ルーの体を転移させることにした。転移など、人間の魔法使いにとっては難しいことだろうが、神である私なら造作もないことだ。転移は一瞬で完了する。
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