第55話 神様と指名依頼②

 【穿つ明星】知らない子ですね。


「誰だ?」


「知らないの!?」


 知らないことに驚かれてしまった。エレオノールもリリムも目を丸くして私を見ている。ついでに言えばアッガイもだ。そんな顔をしてもアッガイはかわいくないぞ?


「【穿つ明星】は、タルベナーレでは有名な老舗冒険者パーティです。たしか100年以上続いているパーティですよ」


 100年以上パーティが続いているって、【穿つ明星】はエルフかドワーフのような長寿な種族のパーティなのだろうかと思ったら、違うらしい。【穿つ明星】というパーティ名を代々受け継いでいるようだ。私たちの【赤の女王】と同じだね。こちらは三代目で、あちらは六代目だという。かなりの先輩になるね。この何代目というのは、パーティリーダーが変わったタイミングで、代を重ねるのが一般的らしい。


 このパーティ名を受け継ぐというのは、よくあることなのだという。もちろん、新規のパーティも多いが、有名どころのパーティは、名前を受け継いだ老舗のパーティが多いらしい。


 実は、パーティ名を受け継ぐのは、メリットが多いのだ。


 第一に、受け継ぐのは名前だけではない。その功績や信用も一部受け継がれる。先程の信用の話でもあったように、冒険者ギルドからある程度の評価受けた状態でスタートを切れるのは大きい。クエストを回してもらいやすくなるし、その分昇級は早くなる。だが、【赤の女王】はこの恩恵に与れていない。冒険者を休業していた期間が長すぎて、その功績も信用も風化してしまったらしい。


 第二に、技術や情報、知恵も受け継がれる点がある。これは【赤の女王】も恩恵に与れている。アリスにいろいろと教えてもらったらしいし、現在も稽古をつけてもらっている。先人が導いてくれるのは大きなメリットだ。その分、早く成長できる。


 第三に、装備も受け継げる点が挙げられるだろう。【赤の女王】もマジックバックや地図、ミレイユのローブに、リリムの槍、タスラムなど、有用な装備をアリスから受け継いだ。これも大きなメリットだ。


 このように、パーティ名を受け継ぐことはメリットが多い。有名どころのパーティが、いくつも代を重ねた老舗のパーティが多いというのも頷ける。


 【穿つ明星】は、その老舗のパーティの中でも上位のパーティらしい。100年以上パーティが続いているというのも驚きだが、当代の【穿つ明星】は、ものすごい勢いでダンジョンを攻略しているらしく、かなり期待されているらしい。


 そんなこの街の冒険者の代表格。【穿つ明星】からの私への指名依頼。依頼者の格としては十分だろう。冒険者ギルドの私への評価もかなり上がるに違いない。できれば依頼を受けたいところだが……まぁ内容次第だな。


「それで、内容は?」


「嬢ちゃん冷めてるなー。普通は跳び上がって喜ぶもんだぜ?」


 アッガイの言葉に、なるほどと頷く。相手はこの街の冒険者の憧れのような存在。言ってしまえばアイドルだ。そんな有名人から声が掛かったら普通は喜ぶものらしい。私としては、そんな存在がいったい何の用だと警戒感が先にくるのだがなぁ……。もしかして、神だとバレただろうか?


「それで、嬢ちゃんへの依頼だが……」


 見ず知らずの有名人から、いきなり何の用かと思えば、宝箱の解錠の依頼だった。私が『開かずの宝箱』の1つを解錠したと知って、依頼を出したらしい。


「成功報酬は……金貨500枚だ」


「「「ごひゃっ!?」」」

「っ…!?」


 金貨500枚か。かなりの大金だな。エレオノールとリリム、ミレイユは、驚きのあまり二の句が継げないようだ。ディアネットも目をみはって驚いている。


 鍵開け一つにそこまで大金を払うとは……なんとも太っ腹な話だ。さすがは100年以上続く老舗のパーティだ。その資金力も凄まじい。アリスも昔、大金を稼いだらしいし、冒険者って儲かるんだな。


 まぁ儲かるのは、ダンジョンの深層を潜れる一部の冒険者だけなのだろう。ダンジョンの表層では、大した稼ぎにはならない。事実、私たち【赤の女王】は今、資金難だ。


「500枚か。失敗の際のペナルティーは?」


「嬢ちゃん本当に冷めてるなぁ…」


 うまい話には裏があると相場が決まっている。こういったことは、ちゃんと確認しておかないとな。


「ペナルティはない。ノーリスクだ。それどころか、失敗しても金貨100枚貰える」


「うそっ!?」

「マジ!?」

「なんだか驚くのに疲れてしまいますね…」


 依頼を受けた時点で、前金として金貨100枚。宝箱の解錠に成功すれば更に金貨400枚。合計金貨500枚。依頼に失敗しても、前金の金貨100枚は、返金の必要は無いらしい。手間賃として貰えるようだ。


 話がうますぎる。だが、アッガイの話では、本当に裏は無いらしい。【穿つ明星】にとって、金貨100枚など端金はしたがねにすぎないということだろう。


「ふーむ……」


「なに悩んでるのよ!受けるだけで金貨100枚よ?受けるでしょ!」


「まぁな」


 ミレイユの言葉に頷く。この依頼を蹴るという選択肢は無い。問題は、この依頼を受けた後だ。


 宝箱を解錠する自信はある。これでも私は盗賊の神でもあるからね。こういったことは得意だ。私に解錠できない鍵などないだろう。私が悩んでいるのは、解錠するか、しないかである。


 というのも、今の私は注目を浴びすぎてる気がするのだ。特徴的な容姿に、歳に不釣り合いな解錠スキル。とても悪目立ちしている。この間も、何人もの人間にパーティに誘われて、断るのが大変だったほどだ。


 その上更に、優秀と噂されている老舗のパーティでも解錠できなかった宝箱を開けるというのは……。


 また冒険者たちがパーティに誘ってくるだろう。いちいち断るのも面倒だが、それだけならまだいい。問題は、私を神だと見抜ける者に見つかることだ。人間の中には、時折そういう目を持つ者が生まれるのだ。まぁそういった者は、神殿に囲われて滅多に外に出てこないだろうがね。一応注意する必要がある。


 だから、あえて依頼を受けて、宝箱を解錠しないという手もある。そうすれば、私が『開かずの宝箱』を解錠できたのはマグレだと思われ、私への注目も和らぐだろう。


 だが、金貨400枚は惜しいな。


「うーむ……」


 悩ましい。

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