第54話 神様と指名依頼
ダンジョン第十一階層を攻略した私たちは、第十二階層へと進まず、第十階層を周回することにした。理由は前にも聞いたが、資金集めの為だ。結局、第十一階層ではゴブリンのドロップアイテムである棍棒が15本しか手に入らなかった。言うまでも無く、儲けは無いに等しい。しばらくこの状態が続くとなると、金策についても考えないといけない。
一応宝箱から宝具も手に入ったから、そこまで悲観する程ではないんだけどね。小さな銀の髪飾りは、小さいが銀製だ。見事な銀細工だったし、なにも特別な効果が無いとはいえ宝具だ。そこそこの値段で売れるだろう。他にも2つ、宝具の石鹸を手に入れたが、それは自分たちで使ってみることになった。髪が芯からしなやかになるらしい。皆がその効果に期待している。私もちょっと楽しみだ。
第十階層を2回周回し、モンスターのドロップアイテムである肉を手に入れて、本日の冒険は終了となった。ボスドロップである牛の肉塊も手に入ったし、こちらもそこそこの儲けになるだろう。こんな感じで、しばらくはダンジョンの攻略と金策を両立させていくらしい。
夕日ももう沈みかけた頃、私たちはタルベナーレの街へと帰ってきた。私たちの他にも、冒険を終えたパーティの姿がいくつか見える。皆の行く方向は同じだ。冒険者ギルドで本日手に入れたアイテムを換金してもらうのだ。
冒険者ギルドは、相変わらず賑わっていた。カウンターには何人も人が並び、併設された食堂では、大勢の冒険者たちが酒盛りをしている。賑やかな笑い声に混じって、怒声が響くのもいつものことだ。もう慣れた。
相変わらず他と比べて空いているアッガイのカウンターへと並ぶ。他は皆、美人の受付嬢なのに、なぜアッガイのような不愛想な大男がカウンター業務をしているんだろう?謎だ。
「嬢ちゃんたちか。今日は何だ?」
「お肉と宝具の買取をお願いします」
「宝具もか、運が良かったな」
普通は、宝具はよほど運が良くなければ手に入らない。その入手経路が、ボスドロップと宝箱しかないためだ。階層ボスが宝具をドロップすることは稀なことだし、宝箱を見つけることは、もっと稀だ。そのため宝具は、狙って手に入れる物ではないと言われている。頑張った者への神からのご褒美と考える冒険者はけっこう多いらしい。
まぁ私たちには、宝箱の場所が分かる地図の宝具があるから別だけどね。これさえあれば、宝箱を開け放題、宝具を手に入れ放題だ。他の冒険者たちからすれば、喉から手が出るほどを通り越して、殺してでも奪い取りたい物だろう。そのため、地図の宝具の存在は内緒だ。トラブルに巻き込まれたくないからね。
いつものように肉の売値を査定してもらっていると、アッガイが私を見て話しかけてきた。
「そうだった。嬢ちゃんに依頼が来てるぞ」
「私にか?」
「そうだ。指名依頼ってやつだな」
「「「「おぉー」」」」
指名依頼と聞いて、【赤の女王】の面々が揃って感嘆の声を上げる。
「指名依頼とはそれほどのものか?」
「何言ってるのよ。だって指名依頼よ?」
指名依頼とは、読んで字のごとく、誰かが私を指名して冒険者ギルドに依頼を出したということだ。そこには、私なら依頼を達成できるだろうという信用がある。この信用というのが肝要だ。冒険者とは、ただ強ければ良いというわけではないらしい。
ダンジョンのあるタルベナーレの街は少し事情が異なるが、冒険者には信用が必要不可欠だ。冒険者ギルドからのクエストを受けるのにも信用が必要だし、昇級にも必要になってくる。
冒険者ギルドも極力クエストは成功させたい。だから信用できるパーティにしかクエストを回さないし、信用できるパーティは厚遇され、昇級の話が出る。
通常は、コツコツと地道に冒険者の活動をして、冒険者ギルドからの信用を勝ち取り、クエストを回してもらう。そして、クエストを成功させることで信用を上げていくしかない。
指名依頼とは、誰かが私のことを「依頼を出すほど信用してますよ」と公言しているに等しい。当然、冒険者ギルドの私への評価も上がる。依頼を達成すれば更に上がる。良いこと尽くめだ。今回の指名依頼は、私が冒険者ギルドから信用を勝ち得る最初の一歩になるとのことだった。
まぁ誰が依頼を出したかにもよるらしいけどね。冒険者の身内が出した依頼なら大して上がらないし、逆に大貴族からの依頼を達成して、一足飛びに昇級した冒険者も居るようだ。だから皆、感嘆の声を上げたのだろう。私はあまり昇級には興味は無いのだが……まぁ貰えるものは貰っておこう。どこかで役立つかもしれんからな。
「それで、どこの誰が何の用だ?」
私はこの街に来たばかりで、パーティメンバーやアリスを除けば、知り合いなんてほとんど居ない。そんな私に、誰が何の用で指名依頼を出したのだろう?
「聞いて驚くなよ。相手はなんと【穿つ明星】だ」
「「「えっ!?」」」
エレオノールたちの声がハモる。その顔には驚きがあった。ディアネットだけ「誰…?」と言わんばかりの表情なのがちょっと面白い。安心しろディアネット、私も知らないよ。
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