第41話 神様とニワトリ
ダンジョンの第七階層の草原を進んでいると、初見のモンスターに出くわした。
鳥だ。初めて鳥型のモンスターを見た。しかし、その茶色の体はずんぐりと丸っこく、翼は小さい。とても空を飛べるとは思えない体をしている。頭部の真っ赤なトサカが特徴的だ。おそらくニワトリ型のモンスターだろう。
ニワトリも私たちの存在に気付いたのか、こちらに向かって走って来る。けっこう速い。
「ニワトリ!?ルー、早く倒してください!」
エレオノールが焦った様子で声を上げる。どうしたんだろう?
疑問に思うが、私はニワトリを倒そうと弓を構える。だが、一歩遅かった。
「コケコッコ―!」
ニワトリは、急に立ち止まると、翼を広げて大きな声で鳴く。まだ距離が離れているというのに、うるさく感じるほど大きな鳴き声だ。
「コケッ!?」
ニワトリを射抜くと一撃で煙へと変わる。弱い。なぜエレオノールは焦っていたんだ?
「遅かった…」
エレオノールは、その綺麗な双眸を歪めて苦い表情を浮かべている。
「敵、たくさん…!」
ディアネットが珍しく慌てた様子で声を上げる。それに、そんな報告初めて聞いたぞ。敵がたくさん来るということか?なぜだ?
「2時、5時、6時、7時、10時…!」
「わたくしは5、6、7時の敵を止めます!ルーは2時、リリムは10時の敵を!ディアとミレイユは、援護してください!」
疑問は横に置き、まずは迎撃を優先する。弓を構え2時方向を見る。
遠くから、こちらに向けて迫る3体のモンスターを視認する。オオカミが2匹、ヒツジが1匹だ。オオカミとヒツジが徒党を組むとは…自然界ではありえないことだな。
まずは、一番近い左のオオカミに狙いを定め、矢を放つ。速射だ。可能な限り早く、矢を次々と放っていく。この階層のオオカミは一矢では倒れないのだ。
久しぶりの速射に、指が熱を持って痺れる。もしかしたら、皮が剥けたかもしれない。だが、速射の甲斐あってオオカミが1匹倒れて白い煙となった。残すはオオカミとヒツジが1匹ずつ。
私は矢をオオカミに放つと、弓を手放した。もう弓の間合いじゃない。私は右手で短剣を、左手でタスラムを抜く。
アリスに貰った宝具『魔弾タスラム』。実戦での使用は初めてだ。こんな時なのに、少し心が躍る。
オオカミは首に矢を受けても怯まずに突っ込んできた。ダンジョンのモンスターは、基本怯まず、逃げたりもしない。人数差や戦力差なども勘案せずに人を見たら襲いかかってくる。そのありさまは、生物というより、アンデットに近いかもしれない。
まずは脅威度の高いオオカミから始末する。私は、オオカミに向けてタスラムを放つ。
タスラムは、私の狙い通りオオカミの額に突き立つと、カッと光って爆発する。思ったより大きな爆発だ。オオカミの横を走っていたヒツジが吹き飛ぶほどの爆発。私の全身にも爆風が襲いかかり、とっさに腕で目を庇う。爆風で飛ばされた石や砂が体中にぺシぺシと当たった。
爆風がおさまり目を開けると、オオカミが居た場所は、ぽっかりと茶色い地面が露出していた。爆発によって地表が生い茂る草ごと吹き飛ばされたのだろう。
オオカミは、爆心地から少し離れた所に転がっていた。首から上の無い死体が、煙となって消える。
◇
『魔弾タスラム』は、魔力を籠めて投げると爆発する投げナイフだ。
魔法が使えない者向けの、魔法の劣化版だと思っていた。爆発させるためには、魔力を籠めないといけないし、投げて敵に命中しなければ意味が無い。面倒な手順が必要だ。魔法ならば、精霊に魔力を渡してお願いするだけで済んでしまうのに。
だが、面倒な手順を踏む価値はあった。この威力は魅力的だ。さほど魔力を籠めていないのに、この爆発力。魔法を使うのと遜色ないほどの魔力効率だ。しかも、タスラムには事前に魔力を籠めておくことができるし、魔力のつぎ足しも可能だ。魔力をつぎ足すことによって、自身の最大魔力を超えた量の魔力をタスラムに籠めることができる。魔力はタスラムの爆発力だ。魔力をつぎ足し、タスラムに籠め続ければ、とんでもない威力のタスラムができるかもしれない。楽しみだ。
良いこと尽くめのようなタスラムだが、欠点も存在する。それは、最大4本までしか持てない点だ。
爆発する投げナイフという性質上、タスラムの回収は不可能。使いきりの宝具だ。だが、『魔弾タスラム』の宝具の本体は、タスラムが収まっているベルトの方なのだ。
ベルトには、タスラム生成の機能が付いているので、タスラムは消費を気にせずに使うことができる。だがしかし、タスラムを生成するのに時間が掛かり過ぎる。1日当たり、1本しか生成されない。しかも、タスラムの上限は4本と決まっているらしく、それ以上は生成しないようだ。
なので、一度の冒険で使えるタスラムは、4本ということになる。4回しか使えないとなると、よくよく切りどころを考えないといけないな。
◇
ガサリと音を立てて、草むらからヒツジが立ち上がる。そうだった。まだコイツが残っていたな。
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