第34話 神様はまったり?

 お風呂に浸かってリラックスしながら、まったりとした時間を過ごす。疲れた体が癒されるのはもちろん、少女たちが他愛もない話で笑っている光景は、精神的にも癒される。まさに楽園だ。だが、何事にも終わりはある。この地上に顕現した楽園にも、ついに終焉の時が訪れた。


「そろそろ出ましょうか」


「あーしお腹空いたー」


 いい加減疲れも取れたよねということで、お風呂を出ることになった。ディアネットの魔法で体を乾かしてもらい、浴室から出る。


「ふー、さっぱりしたー」


 脱衣所で服を身に着けていく。私はパンツを穿いて、ベビードールを着てパパッと完了だ。服を着終えた私は、周りを見渡す。皆が服を着る姿を見ると、ちょっと惜しい気持ちになるな。その美しい裸体を隠すなんてとんでもない、という気持ちだ。


 だが、服を着た彼女たちも、それはそれで魅力的である。それぞれの個性が出て面白い。例えば、ディアネットは黒が好きなのか、黒の下着と黒い服を身に着けている。その新雪のような白い肌との対比が美しい。リリムがけっこう攻めた下着を着ているのには驚いた。エレオノールがブラジャーを着けるのに少し手間取っているのは微笑ましい気持ちになる。


「エル、私がホックを留めてやろう」


「お願いできますか」


 エレオノールが私に背中を向ける。華奢な背中だ。私より背が高いというのに、背が小さく見える。


「留めたぞ」


「ありがとうございます」


 ふむ、ブラジャーがずれているな。直してやろう。


「エル、少し屈んでくれないか?」


「?わかりました」


 疑問を抱きながらも素直に従ってくれるエレオノールは、良い子だと思う。


 私は、エレオノールの背後に回ると、上からブラジャーに手を突っ込んだ。もにゅっと温かくて柔らかいエレオノールの胸をダイレクトに感じる。至福。


「なにを!?」


「ブラがずれている。正しい着け方を教えてやろう」


 ブラジャーの位置を直して、ブラジャーに入りきらなかったエレオノールの胸を、胸周りの肉を、ブラジャーのカップの中へと寄せていく。その際に、エレオノールの胸を大胆に触ることになってしまうが、これは仕方のないことである。役得、役得。


「いいか?このように、すくい上げるように寄せて上げるのだ」


 掌に感じるエレオノールの蕾を摘まみたい欲求に耐えて、ブラジャーの着け方を伝授していく。


「なんで、あなたがそんなに詳しいのよ……」


 おっぱいないのに、と呆れた目で見てくるミレイユ。これでも何度か女として生きているからね。ブラジャーの正しい着け方、美しい着け方なども当然知っているのだ。


「このすると、より美しくなるぞ」


 我ながら良い仕事をしたな。エレオノールの胸はとても美しいラインを描いている。胸も一回り大きくなったように見えるほどだ。


「その、ありがとうございます…」


 エレオノールが消え入りそうな声で言う。その顔は耳まで赤くなっていた。同性とはいえ、直接胸を触られたのは恥ずかしかったらしい。初心うぶな娘だな。そこがまた良いのだが。



 ◇



 お風呂を上がったら、リビングでまったり……と思いきや、これからが大変なのだ。


「エルエル、化粧水とってー」


「どうぞ」


「あんがとー」


 お風呂を出たら、お手入れの時間である。化粧水を塗ったり、香油を髪に馴染ませたり、女の子はいろいろと大変なのだ。綺麗はこうした努力の積み重ねでできている。それはこの体も例外ではない。今はまだ作ったばかりだから綺麗なこの体だが、手入れを怠れば、その美しさは容易に霞んでしまうのだ。まぁそうなったら体を作り直せばいいだけだけどね。


 化粧水を手に取り、顔はもちろん、首から鎖骨辺りまで塗る。この辺りはよく人目に触れるからね。しっかりケアしておきたい。


 それが終われば、今度は髪だ。香油を手に取り、髪に馴染ませていく。石鹸で洗ってキシキシになった髪を、とぅるとぅるにしてくれる。髪から良い香りがするのも良い。


「手櫛じゃダメよ。もー、私がやったげるわ」


 そう言ってミレイユが櫛で髪を梳いてくれる。ミレイユは世話好きな一面があるな。なにかと私の面倒を見てくれる。


「助かるよ、ミレイユ」


 そんなミレイユに私はついつい甘えてしまうのだった。


「だが、アレはよいのか?」


 私の視線の先では、ディアネットがその長い黒髪に香油を馴染ませていた。ディアネットの髪は長いし、毛の量も多いので大変そうだ。世話好きのミレイユなら放ってはおけない状況だろう。


「アレは大仕事だから、先にあなたをやっちゃうのよ」


「ミレイユはもう自分のことは終わったのか?」


 他人のことばかりで、自分の手入れはいいのだろうか?


「もうとっくに終わったわよ」


「早いな」


「毎日のことだもの、嫌でも慣れて早くなるわっと、できたわよ」


「ありがとう、ミレイユ」


 髪を触ると、とぅるとぅるサラサラだ。意味も無くふぁさっと髪をなびかせたくなる。


「さて次は……」


 ミレイユの視線がディアネットへと向く。


「私も手伝おう」


 ミレイユ1人では大変そうだからな。


「そう?ありがとう」


 ミレイユと2人でディアネットの元へと向かう。


「ディア、手伝うわ」


「私もだ」


「あり、がとう…」


 近くで見ると、ディアネットの髪はすごいことになっていた。爆発とまでは言わないが、もさもさである。


「香油貸して」


 ミレイユと2人してディアネットの髪に香油を馴染ませいく。私たちが担当するのは、主にディアネットの後ろ髪だ。手で香油を髪に塗り込み、櫛で梳かしていく。


「前にも言ったけど、髪、切るのはどう?」


 ミレイユがそう言いたくなる気持ちも分かる。ディアネットの髪は、座った状態で床に髪が届くほど長い。毛の量も多いし、少しくらい切っても良い気がする。手入れも大変だろうし、香油代もバカにならないだろう。


「触媒、だから…」


 ディアネットが呟くように答える。触媒か。たぶん魔法の触媒として髪を使うということだろう。髪を精霊に捧げて、魔法の威力を高めるつもりか。魔法使いによくある考え方だ。だからなのか、魔法使いは長髪であることが多い。


 しかし……実は、この考えは間違っている。


 ちょっとややこしい話になるのだが、髪を触媒にすると、確かに魔法の威力は上がることもある。だがそれは、髪に限った話ではないのだ。


 まず触媒という言い方が誤解を生んでいる気がする。正確には、精霊へのプレゼントと考えるべきなのだ。


 精霊にも人と同じように心がある。プレゼントを貰ったら嬉しいのだ。だから、プレゼントを貰ったお返しに、魔法を行使する時ちょっぴりオマケしてあげる。これが、触媒を使うと魔法の威力が上がる原理である。


 人間の魔法使いが考えるような、髪に含まれるオドがどうだの、魔力が作用してこうだのという面倒な法則は無いのだ。


 そして、精霊へのプレゼントという側面で見ると、髪というのはちょっと微妙だよね。精霊も引いちゃうよ。プレゼントなのだから、精霊が貰って嬉しいものを贈るべきだ。その方が、魔法の威力も上がると思うよ。例えば、風の精霊に贈るなら、風車とか風鈴とか良いんじゃないかな。


「しょくばいってはよく分からないけど、ディアにとって必要なものなのね?」


「そう…」


 じゃあ仕方ない。そう言ってミレイユがディアネットの髪を梳いていく。


 実は必要なものじゃないんだよなー…。ディアネットに髪よりも良い触媒があると教えてやりたい。しかしそうすると、なぜ私がそんなこと知っているのかという話になってしまう。むぅー、ここは口を閉じるか……すまんな、ディアネットよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る