第30話 神様と初めての戦闘

「どうしますか?このまま階層ボスを倒しに行きますか?それとも……」


「それはもちろん…」


「宝箱っしょ!」


 というわけで、私たちはダンジョンの攻略そっちのけで、宝箱の場所へと向かっていた。宝具の地図が本当に正しく機能しているのか、確認することにしたのだ。確認は大事だからね。まぁ宝に目が眩んだとも言えるが……。


 聞けば、エレオノールたちも宝箱を発見したことは無いらしい。宝具の地図が正しければ、これが初めての発見となる。皆、期待を隠し切れないほどウズウズしているのが分かった。


「ここまま真っ直ぐ…」


 目印になるような物が何も無い草原をナビゲートしてくれるのは、宝具の地図を持っているディアネットだ。ディアネットの消え入りそうな気だるげな声に耳を傾け、草原を進んで行く。ディアネットの声は、聴いているとなんだか落ち着くな。良い声をしていると思う。


「左、敵…」


「…?敵!?」


 そんなナビゲートの時と同じテンションで言うなよ!一瞬耳を疑ったぞ。


 ともあれ、ダンジョンでの初戦闘だ。私はパーティでの連携を思い出しながら、弓を引き絞る。ファーストアタックは、遠距離攻撃のできる私がもらうとしよう。


 左と言っても範囲が広いな。何時方向みたいな言い方が良いだろう。戦闘が終わったら提案してみよう。


「ん?」


 視界の端に、何か動くものを捉えた。見ると、小さくて茶色い丸っこい何かがこちらに接近している。けっこう速い。


 あれって、ウサギか?ウサギが飛び跳ねるようにこちらに全力疾走してくる。もしかして、敵ってウサギのことだろうか?


 なんとなく期待外れのような気持ちを抱きつつ、矢を射る。


 矢はウサギに命中し、ウサギは草原に倒れると、ポンッと煙となって消えた。


 これが、このダンジョンの仕様らしい。


 このダンジョンに現れるモンスターは、非常に好戦的だ。本来、臆病で人を見たら逃げるはずのウサギも、ここでは人を見たら全力で襲ってかかってくる。


 ダンジョンのモンスターは、倒すと煙となって消えてしまう。そして、稀にモンスターにちなんだアイテムをドロップすることもあるらしい。なんだかゲームみたいな仕様だな。




「事前に聞いてはいたが……納得がいかんな」


 せっかくウサギを仕留めたというのに、皮も肉も手に入らなかった。


「仕方ありません。今回は運が悪かったということで」


「二時、敵…」


 パスッ!


 ポンッ。


「お?」


 放った矢を回収しに、ウサギが倒れた辺りを行くと、丁度ウサギが消えた所に、赤い物が落ちていた。だいたい私の拳くらいの大きさの肉だ。これがアイテムのドロップというやつか?


 たぶんウサギの肉なのだろう。それにしても、肉が直接地面に落ちてる光景は、なにか変な感じだ。見た目は新鮮な肉に見えるが……食べて大丈夫なのだろうか?


 肉を拾ってパーティメンバーの元に戻る。


「何かありましたか?」


「あぁ、肉があったが……」


 私は拾ってきた肉を皆に見せる。


「ウサギの肉ですね。生モノですから、ミレイユのマジックバッグに入れておきましょう」


「これ、食べて大丈夫なのか?」


 突然現れた得体の知れない肉だ。本当にウサギの肉かも怪しい。地面に落ちていたし、衛生面でも気になるところだ。


「大丈夫です。ルーも食べたことありますよ」


「そうなのか!?」


 聞けば、タルベナーレで食べられている肉の8割はダンジョン産のドロップアイテムらしい。私も知らないうちに何度も食べていたようだ。食べた感じ普通の肉となんら変わらなかったから気が付かなかった。そうかぁ……この謎の肉を私も食べていたのか……。


「そうだったのか…」


 軽いカルチャーショックを受けた気分だ。食肉以外にも、さまざまな物がダンジョン産だと言うエレオノール。ダンジョン都市タルベナーレは、ダンジョンが無いと立ち行かないほど、ダンジョンに依存しているようだ。




「3時、敵…」


 パスッ!


「1時、敵…」


 パスッ!


「9時、敵…」


 パスッ!


 その後も現れるウサギを、パスパスと射っていく。まるで射的ゲームでもしているような気分だ。獲物は全てウサギ。聞いてはいたが、本当に第一階層にはウサギしか出ないようだ。


「ルールーが居ると楽チンでいいねー!」


「そうですね。小さくてすばしっこくて、剣で相手をするのは大変ですから。放っておいても大した害にはならないのですけど……」


 まぁ所詮はウサギだからね。しかも、ここのウサギは、随分と小柄なようだ。ますます放っておいても無害だ。


「剣より蹴り殺した方が早いわよ」


「アリスおばちゃんも蹴ってたねー」


 ダンジョンというのは、思ったよりもヌルい場所らしい。パーティメンバーも、まるでピクニックでも楽しんでいるかのような緊張感の無さだ。もっと、命の危険があるスリリングな冒険を想像していたのだが……まだ第一階層だからかな?今後に期待だな。


「11時、敵…」


「うむ…」


 パスッ!

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