第29話 神様と地図
扉の向こうは、一瞬目が眩むほど明るかった。
光に目が慣れると、今度は目に映る景色に愕然とした。草原だ。どこまでも続く平坦な草原が見える。だが、私が驚いたのはそこじゃない。空だ。上を見上げればどこまでも高い青空が広がっている。雲も浮かんでいれば、太陽だってある。ここは地下のはずなのに。
話には聞いていたが、まさかこれほど大きな規模で異空間を展開しているとは……。ダンジョンを創ったリアレクトの本気具合が窺い知れる光景だ。
「ふふっ。驚いたでしょ?」
思わず口を開けて呆然としてしまった私を見て、ミレイユたちが笑う。アホ面を晒してしまったようだ。少し恥ずかしい。
「あぁ驚いた。まるで地上に居るかのようだ。ここは地下なんだよな?」
「たぶん、そのはずです。詳しくは分かっていませんが、ここはダンジョンの第一階層で間違いないですよ」
紺のロングスカートに白銀の鎧を着こんだエレオノールが答える。左手に盾を持ち、油断無く佇む姿は、パーティの守りの要、聖騎士に相応しい凛々しさだ。
「ほんと、ビビっちゃうよねー。神様スゲー」
そう言うリリムの格好は、ちょっとセクシーだ。黒のスクール水着の様な軽装な鎧を身に着けているのだが、白いフリルがあしらわれていたり、腰にピンクのスカートの様な前方が開いたパレオが付いていて女の子らしいかわいらしさが溢れている。鎧とニーハイの厚手の靴下が形作る絶対領域の白い太ももが眩しい。
「不思議…」
そう呟くディアネットも不思議な格好をしている。ディアネットはなぜか黒いドレス姿だった。しかも夜会に出るような、胸元が大胆に開いたドレスだ。コルセットで絞められた腰は、触れば折れてしまいそうな程細く、逆に胸の大きさを強調しているようだ。しかし、なぜダンジョンでドレス?
残ったミレイユは、白地に赤の刺繍が施されたローブを着ている。<開かずの宝箱>に入っていた宝具のローブだ。大きなローブを縫い上げて、無理やり着ているので、ブカッとしている。ローブを着ていると言うより、ローブに着られていると言った方が良いかもしれない。小さな体のミレイユが、よりチンチクリンに見える姿は、微笑ましい。
「あ!今のうちに地図を確認しませんか?」
エレオノールの言葉に、宝具の地図があったことを思い出す。ダンジョンの第一階層は、地図を見なくても攻略できるほど単純な階層だが、地図がどのように描かれるか興味があるらしい。
「もしかしたら、新しい発見があるかも!」
「それは…どうでしょうか…」
ミレイユの言葉に、エレオノールが曖昧に頷く。ダンジョンの第一階層は、過去の冒険者の手によって、その隅々まで調べ尽されている。今更、新しい発見が見つかるとは思えないのだろう。
「いいじゃんいいじゃん。早く見よ―よ」
皆の視線が、地図を持っているディアネットに集まる。ディアネットはコクリと頷くと、胸の谷間に指を差し込み、そこから丸まった羊皮紙を出してみせた。
「「おぉー」」
私とリリムが感心の声をあげてしまうのも仕方ないだろう。まさか、あんなところから出てくるとは思わなかった。
「楽だから…」
ディアネットはそう呟き、羊皮紙を広げる。そうだね、楽なら仕方ないね。ミレイユが羨ましそうにディアネットの胸を見ていたことは、気付かなかったことにしよう。
羊皮紙を広げると、羊皮紙には無数の赤い点が浮かび上がっていた。数えるのも億劫なぐらいだ。
「この中心の緑の点は私たちでしょうか?」
「赤い点は何だろ?敵?」
「見て見て!ここ!宝箱のマークがある!」
「緑が現在地、赤は敵、青は宝箱…」
皆の疑問に、ディアネットが断言してみせる。
「なぜ言い切れる?」
「触れば分かる」
羊皮紙に触ると、地図の見方が情報として頭に流れてくる。それによると、地図上の緑の点が現在地、赤い点はモンスター、一際大きな赤い王冠マークは階層ボスの部屋、青い宝箱マークはそのまま宝箱らしい。地図の見方まで教えてくれるとは…宝具って親切設計だな。
「これは…!」
「ねぇ、これって…」
「めっちゃ便利じゃね!?」
リリムの言う通り、すごく便利だ。いや、便利なんてものじゃない。これさえあれば、道に迷わないどころか、モンスターに奇襲される心配もなくなる。しかも、普通は探してもなかなか見つからない宝箱の位置まで丸分かりだ。
「これは…気を付けて扱わねばならんな…」
冒険者の常識すら破壊するほど、ズルいほど凄まじい宝具だ。特に、宝箱の位置が分かるのはチートと言って良い。冒険者は皆、宝箱を見つけようと必死なのだ。なぜなら、宝箱の中には必ず宝具が入っているから。宝具はダンジョンでした手に入らない、まさしくお宝だ。
宝具と一口に言ってもピンキリだが、有用な宝具は天文学的な高値で取引されることもある。宝箱とは、まさに一獲千金のビッグチャンス。その宝箱の位置が丸分かり……。
もし、他の冒険者の知るところとなったら、命の危険すらありえる。殺してでも奪い取るという輩が出てくること間違いなしだ。
私の言葉に、皆が真剣な表情で頷いた。
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