第31話 神様と初めてのボス戦

「どー?見つかったー?」


「まだだー」


 地図を頼りに宝箱を目指して進むこと20分程。ようやく、地図に示された宝箱の場所まで来た私たちは、宝箱の捜索をしていた。パッと見たところ、宝箱らしき物が見つからなかったためだ。


 草をかき分けて、探してみるが、それらしき物は見つからない。これは地図の信憑性も怪しくなってきたなと思い始めた時だった。


「ねぇー!何か見つけたんだけどー!」


 ミレイユの声だ。何かって、何を見つけたんだ?


 ミレイユは、一本だけ生えた木の近くに立っていた。皆がミレイユの傍に集まる。


「何を見つけたんだ?」


「これ」


 ミレイユの手の中には、拳ほどの大きさのクリーム色のゴツゴツした何かがあった。


「何それ?石?」


 たしかに石のようにも見える。


「私も最初そう思ったんだけど……」


 ミレイユが石?に触ると、石に見えたそれは、クシャリと形を変える。


「紙、でしょうか?何かを包んでいるようですね」


「開いてみる?でもこれって……」


 ミレイユの言いたいことは分かる。これはどう見ても宝箱じゃない。まず箱じゃないじゃん。


「危険はないでしょうか?」


「では、私が開けよう」


 こういう時こそ盗賊の出番だろう。ミレイユから紙の包みを受け取る。


「気を付けてね」


「ああ」


 何もないと思うが、一応調べておくか。私は紙の包みを押したり、匂いを嗅ぐフリをして息を吹きかけ、風の力も使って包みを調べた。結果は白。罠の類は無い。


「開けるぞ」


 安全を確認した私は、無造作に紙の包みを開く。


「ちょっと!?そんな強引に…」


 いきなり包みを開き始めた私に、ミレイユたちがビクッと体を震わせるのは、ちょっと面白かった。


「心配ない、心配ない。ん?これは…?」


 紙の包みの中から出てきたのは、木製の素朴な小さなホイッスルだった。私は、ホイッスルを手にすると同時にがっかりする。


 <兎呼びの笛>

 吹くと周囲のウサギ型モンスターを呼び寄せる笛。使用回数1。ダンジョン内でのみ有効。


「何だったの?何だったの?」


 私は笛に興味を失くし、興味津々に訊いてくるミレイユに笛を渡す。


「はぁー…」


 ミレイユも笛を手に取ってため息を吐き、エレオノールに笛を渡した。


「これは……使い道に困りますね」


 笛を受け取ったエレオノールが困ったように言う。そう、この笛は使い道が無い。


 わざわざ敵であるウサギ型モンスターを呼び寄せてどうするんだ?ドロップアイテムを狙って狩るのだろうか?それなら、わざわざ笛を使わなくても、大声を出せばいいだけの話だ。ダンジョンのモンスターは、人を見つけると、襲いかかってくるのだから。


「これは売りに出しましょうか」


「売れるのか?」


 こんな物、買う奴が居るとは思えないが……。ダンジョンの外でも使えるのなら、狩人などウサギを狩る者たちに需要はあっただろうが……残念ながら、この笛の効果はダンジョン内限定だ。


「売れますよ。宝具ですから」


 一見無価値に思える宝具でも、宝具というだけで需要はあるらしい。宝具というのは、魔法の道具でもある。その効果を問わず、珍しい品として需要はあるようだ。中には宝具コレクターなる人々も居るらしい。


 たしかに、ダンジョンでしか取れない、頭の中に情報が流れ込んでくる、不思議な魔法の道具というだけで需要はあるのかもしれない。


 期待外れの効果の宝具にガッカリとしながら、私たちは次の宝箱を目指して草原を歩き始めるのだった。まぁこの後も発見した宝具も無意味な効果の宝具だったとだけ記しておこう。ガッカリだ。



 ◇



「これがボス部屋への扉か……」


 私の目の前には、草原にポツンと大きな両開きの扉がある。なんだかちょっと滑稽な光景だが、この扉の向こうが、階層ボスの居る部屋になっているらしい。きっと空間を捻じ曲げて、扉の先をボス部屋に繋げているのだろう。神ならば造作もないことだ。人間には……ちょっと難しいかもしれない。


「そそ。この向こうがボス部屋。どうなってるか訳分かんないよねー」


 リリムが扉の裏に回ったり、扉を叩いたりしている。リリムが動くたびに、丈の短いピンクのパレオが、まるで私を誘っているかのようにフリフリ揺れるのを、目で追ってしまう。悔しい。でも、見ちゃう。チラチラ。


「リリム、準備はいいですか?」


「いつでもいいよー」


「ルーも準備はいいですか?」


「うむ」


 私は矢筒から矢を取り出して、弓に番え答える。皆も準備はいいようだ。


「では、いきますよ」


 いよいよボス戦か。ちょっとワクワクしている自分がいる。事前にボスが何かは皆に教えてもらって知っているので、過度な期待はしていない。だが、ボス戦という響きだけで心躍るものがあった。


 エレオノールが扉を開ける。扉の向こうは、草原ではなかった。薄暗い、周りを石で囲われた通路だった。ダンジョンと言われて真っ先に想像するような光景だ。


 エレオノールに続き、石の通路を進む。石の通路は短かった。すぐに明るい出口が見える。


 出口の先は、明るく広い空間だった。地面は踏み固められた平坦な土、周りを石の壁でぐるりと大きく丸く囲われている。どことなくコロッセオのような円形闘技場を思わせる空間だ。観客はいないが。


 闘技場の中にボスの姿はない。闘技場を挟んで、通路の向かい側には、石の壁ではなく、鉄格子がはめられている部分があった。たぶん、あそこからボスが現れるのだろう。


「いきましょう」


「ういういー」


 私たちが、闘技場の中に入ると、鉄格子がゆっくりとギイギイ音を立てながら上がっていく。鉄格子の向こうで、モゾリと何かが動く気配がした。




 鉄格子が半分程上がると、その隙間から白い何かが飛び出してくる。闘技場の明かりに照らし出されたその姿は、普通の倍はあるだろう大きな白いウサギだ。


 ダンジョンの第一階層はフィールドのモンスターもウサギ、階層ボスもウサギという、ウサギオンリーの階層だ。徹底しているな。リアレクトの奴は、ウサギが好きなのだろうか?


 そんなことを思いながら、私は矢を放つ。私の指から離れた矢は、こちらに迫るウサギの額へと吸い込まれる。確かな手応え。


 矢を受けたウサギは、躓いて転んだかのように地面を転がり、そのまま倒れ伏した。


 ポンッと音を立てて、ウサギの体が煙となって消える。


 うーん……たしかに、良い手応えはあったが、まさか一撃とは……。ボス貧弱すぎないか?まだ第一階層だから弱いだけだろうか?

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