第14話 神様の宝具

 宝具を誰が持つのかも決まり、私たちはテーブルに着き、お茶を片手にまったりとした時間を過ごしていた。


 槍はリリムに、超マイクロビキニアーマーはエレオノールに、マジックバッグとローブはミレイユに、地図はディアネットにと決まった。


 ミレイユがマジックバッグを持つ理由は、彼女がパーティで使うポーションや毒消しなどの薬品も管理していて、荷物が嵩張るからだ。

 それに、前衛の体はできる限り身軽にしておきたい。後衛である彼女が、前衛の荷物もマジックバッグに入れて持つ予定である。


「ルールーだけ宝具がないね…」


 リリムが申し訳なさそうに言う。


「このローブ、やっぱりあなたが使う?」


 ミレイユが白いローブを差し出してくる。


「いや、構わんよ。私はすでに自前の宝具を持っているからな。これだ」


 私は腰に吊るした小さな鞄を叩いてみせる。


「へぇー。どんな宝具なの?」


「マジックバッグだよ」


「「「えっ!?」」」


 エレオノール、リリム、ミレイユの驚く声が重なる。ディアネットも大きく目を見開き、驚きを示していた。


 マジックバッグは、私の想像以上に下界では貴重品みたいだからな。皆が驚くのも無理はないだろう。


「まぁ入る容量は少ないのだがな。時間停止も付いていないし、ミレイユの持ってるマジックバッグの方が高性能だよ」


「それでも、マジックバッグを個人で持ってるのには驚きよ」


 普通は、1つのマジックバッグを団体で共有するものらしい。個人で持っているのは、一部の大金持ちくらいだとか。


「そうです。ルーには驚かされ続きです。か弱い女の子かと思ったら、暴漢を倒してしまいますし、あの<開かずの宝箱>を開けてしまいますし、マジックバッグまで持っているなんて。今度は何が出てくるのか、楽しみなような、恐ろしいような……」


 エレオノールがしみじみとした口調で言う。


 エレオノールには、いつの間にかルーと呼ばれるようになっていた。それだけ距離が縮まったということかな?もしくは、正式に同じパーティの仲間になったからかもしれない。お客さんから仲間にクラスチェンジだ。

 

 戦闘中や、咄嗟の時に、いちいちちゃん付けで呼んでいたら、間に合わないかもしれないからね。そういう意味でも、呼ぶ名前は短い方が良いに違いない。


「ルールーはビックリ箱みたいだね」


 ビックリ箱か、そんな評価をされたのは初めてだ。私としては、どこにでもいる普通の少女を目指してるのだが……なかなか難しいな。




「ルールーも今日は泊まっていきなよ」


 そろそろお茶も飲み終わるというところで、リリムからありがたい申し出があった。


「いいの?」


「全然いいよー。ルールーも【赤の女王】なんだから、ここは自分の家だと思っていーの。あーしら家族みたいなものだし」


「リリムの言葉を補足すると、ルーは【赤の女王】のパーティメンバーですから、この家に無料で住むことができるんです。もちろん、住む住まないはルーの自由ですよ。ですけど、一緒に住んで頂けると、なにかと便利ですからオススメです」


「そゆことー」


 なるほど。それはありがたいな。


「私もこの家に住むことにしよう。賑やかで楽しそうだ」


 まだこの街に来たばかりで宿も取っていないからね。住む場所が決まるのはありがたい。


「お引越しとかは明日やっちゃおー!」


 おー!と腕を振り上げるリリムは楽しそうだ。私がここに住むことを喜んでくれるというのは嬉しいものだな。


「引越し?」


「あなたも宿屋かどこかに荷物が置いてあるでしょ?それの移動よ。あとは、あなたの部屋になる場所を掃除したりとか、かしら」


「私の荷物なら今持っているので全てだよ?」


「えっ!?あなた、着替えとか道具はどうしてるのよ!?」


 しまったな。着替えや旅の道具を持っていないのは不自然すぎるか…。だが、無いものは無いのだからしょうがない。ここは正直に言う他あるまい。


「持っていない」


「あなたどうやって生活してるのよ?盗まれでもしたの?」


 ふむ。盗まれたということにしてお茶を濁しておくか。


「うむ、ちょっと目を離した隙に荷物が無くなっていてな」


「えっ!?マジ!?」


「そう…。大変だったわね…」


「それで、矢もピッキングツールも持っていなかったんですね…」


「かわいそう…」


 私の嘘にコロッと騙される娘たちが少し心配になる。信じてくれるのは嬉しいが、もう少し人を疑うことを覚えても良いと思うぞ。


「ルーにはお引越しよりも、お買い物の方が必要ですね。明日はお買い物に行きましょう」


「そうだな。まだこの街に来たばかりだ。色々と案内してくれると助かる」


「まっかせない。腕が鳴るわね」


 買い物で腕が鳴るって何だ?


「アンタたち、風呂の用意ができたよ。さっさと入っちまいな」


 部屋の奥、おそらくキッチンからアリスの声が響く。風呂か、最後に入ったのはいつだ?少なくとも100年は入っていないな。私は風呂が好きだからな。わくわくする。


「ルールーから入りなよ。一番風呂、気持ちーよ」


「はい。ですが、色々と説明しないと。案内する人が必要ですね」


「じゃあ、私がルーと一緒に入ってくるわ。そっちの方が色々と都合が良いし」


 ミレイユが一緒に風呂に入ってくれるらしい。今日会ったばかりの女の子と一緒にお風呂に入る。しかも、相手はかわいらしい美少女だ。わくわくというよりドキドキしてしまう。


「こっちよ、ルー。お風呂に案内するわ」

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