第13話 神様とビキニアーマー

 私たちの前に置かれた黒い紐みたいな装備、ビキニアーマー。いや、正確には超マイクロビキニアーマーと言ったところか。ほとんど紐みたいな物だ。これでは隠すべき部分も隠せないだろう。


「ほんと、信じらんない。誰が着るのよ、こんな変態装備」


「でもちょー強いよ?」


 そうなのだ。このビキニアーマー、見た目はこんなだが、すごく優秀な装備だ。防御力は大きく上がるし、『毒』や『麻痺』などの状態異常への耐性も付いている。


「そうだけど、こんなの着るくらいなら裸の方がマシよ!」


 裸の方がマシと言いきるのはすごいな。まぁ分からんでもないが。こんな装備を着て外を歩けば、間違いなく痴女だと思われるだろう。逮捕待ったなしだ。


「上に服着れば良いんじゃね?」


 リリムの言葉に、なるほどと思った。たしかに、上に服を着れば問題は無いな。痴女だと通報されることもないだろう。しかし、それでは面白味もへったくれもない。


「それは、そうかもしれないけど……私は嫌よ、こんなの」


 ミレイユがキッパリと拒否する。その顔には嫌悪感すら浮かんでいた。


「まぁ、着るとしたら……」


 リリムの言葉に、皆の視線が一つに集まった。


「わ、わたくしですか!?」


 エレオノールだ。


「ま、待ってください。わたくしも嫌ですよ!」


 エレオノールが顔を真っ赤にして首を振る。


「上に服着ればイケるって。ちょー強い装備だし、使わなきゃもったいないっしょ」


「それは、そうですが……でも……」


「それに、使った方がおばちゃん喜ぶだろうなー」


「くっ…!」


 リリムの言葉に、エレオノールが苦し気に息を吐く。今にも「くっ殺」しそうだ。


「私としても、エルに着てほしいわ。この中で一番敵の攻撃を受けるのはエルだし、状態異常耐性が付くのも良いわね」


 自分が着ることは無いと分かって安心したのか、ミレイユがエレオノールに着ることを勧める。あるいは、このままエレオノールに押し付けてしまおうという考えなのかもしれない。


「そんな……」


 エレオノールが絶句し、救いを求めるようにディアネットを見る。


「ディアは……」


「着るといい……」


 ディアネットがエレオノールの言葉を遮り、エレオノールに着ることを勧めた。珍しく反応が早いディアネットに驚きだ。


「そんな……神は居ないのですか……」


 ここに居るよ?




 結局、ビキニアーマーはエレオノールが着ることになった。エレオノールは死んだ魚のような目をして黄昏ている。半分口を開けて、魂が口から「こんにちは」していそうだ。


「んじゃ、残りもパッパと決めちゃおっか!」


 エレオノールに変わって話を進めるのはリリムだ。エレオノールは……しばらくそっとしておくか。


「どれからにしよっかなー。このローブからにしよっか!」


 リリムが手に取ったのは白地に赤い糸で刺繍が入ったローブだ。白に赤という目立つ色合いをしていながら、着用した者の気配を薄くする効果のあるローブである。


「はい!はい!私着たい!」


 そう元気に声を上げたのはミレイユだ。ぴょんぴょんと跳ねて自分をアピールしている姿は、幼い子どものようでかわいらしい。ツインテールが跳ねて、まるで兎みたいだ。


「はいはい、ネトネトはどう?」


「ミレイユでいい…」


「ルールーはどう?あーし、ルールーが着ても強いと思うんだよねー」


「私か?」


 たしかに気配が薄れる効果は魅力的だが……。


「止めておこう。ローブだからな」


 ローブでは動きにくそうだからな。盗賊は身軽さが命みたいなところがある。


「んじゃ、このローブはミユミユで」


「やったー!」


 ミレイユが嬉しそうにローブを受け取って広げ、自分の身体にあてがう。


「でっか!」


 ローブはミレイユには大きかったようだ。ローブの裾が床に広がっている。


「止めとく?」


「大丈夫よこれくらい。折れば余裕だから」


 ミレイユは、どうしてもこのローブを着たいようだ。かわいいデザインだし、気に入ったのかもしれない。


「んじゃ、次もちゃっちゃと決めちゃお」


 そう言ってリリムが次の宝具へと手を伸ばした。

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