第12話 神様と宝具
女王会議も終わり、ようやく待ちに待った宝具の閲覧会だ。
アリスがマジックバッグから宝具を取り出し、テーブルの上へと並べていく。その様子を、リリムとミレイユが目を輝かせ、ワクワクとしながら見守っていた。
「ほう、5つも入ってたのかい」
アリスの言葉の通り、宝箱に入っていたのは、5つの宝具だ。マジックバッグ、百足の槍、白いローブ、地図、黒い紐の5つが、アリスの手によってテーブルに並べられた。
「触って良い?触って良い?」
「私も触りたい!」
リリムとミレイユが、もう我慢できないと騒ぎ出す。ディアネットも、騒ぎはしないが、その手をワキワキと動かし、宝具に触りたそうだ。
「お待ち!まず最初に、言っておきたいことがある」
そんな3人に、アリスが鋭く待ったをかける。何か危険な宝具でもあったのだろうか?私はマジックバッグと地図、黒い紐の宝具しか詳細は知らないからな。槍とローブのについては、その効果は分からない。
「この宝具は全部、アンタたちにやる。自由に使いな」
「「えっ!?」」
「マジ!?」
これには私も驚いた。冒険者ギルドでの冒険者の反応を見れば、マジックバッグがとても貴重な物であるのは分かる。それを他の宝具も含めてくれるというのは驚きだ。ディアネットも、そのいつも眠たそうな目を大きく見開いて驚いている。
「ただし!」
驚きの声を上げるエレオノールたちを、アリスの一喝が制する。やはり何か条件があるか。
「ちゃんと冒険に役立てることが条件だ。売り払ったりしたら承知しないよ!(もう、あのバカ共の二の舞は嫌だからね)」
悲しげに小さく呟かれた最後の言葉が、なぜだか耳に残った。バカ共?二の舞?何のことだ?
エレオノールたちには聞こえなかったのか、特に反応は無い。ただ、ディアネットが少し悲しげに見えたのは、私の気のせいだろうか。
「さ、あたしゃ洗い物してくるよ。宝具をどうするかはアンタたちが決めな。ケンカするんじゃないよ」
そう言ってアリスは奥へと行ってしまった。
残された私たちは、宝具を前に迷っていた。
「どうしましょう…。本当に頂いてしまって良いのでしょうか…」
「でも、突き返すのもおばちゃんに悪くない?」
「そうねー…」
突然高価な物を貰うと、人は困惑するものらしい。やれやれ、ここは私が口火を切るか。
「何を迷っているのだ?使えば良いではないか」
「ですが、万が一壊してしまったら…」
エレオノールの言葉に、3人が頷く。
「構わんだろう。物はいつか壊れる。アリスも冒険者だったのだ、それくらい承知のはず。むしろ壊れるまで使い倒してしまえ。その方が宝具もアリスも本望だろう。そしてアリスに語ってやるのだ。アリスに貰った宝具がいかに役に立ったかをな。たぶん喜ぶぞ」
4人が変な顔をしている。
「そういうものでしょうか?」
「そういうものだ。アリスに確認してやってもいいぞ?」
◇
結局、せっかく貰ったんだし、使わないともったいないよね、という結論に落ち着いた。だが今度は、誰が何を使うのかと言う問題が出てくる。
宝具は5つ、私たちも5人。1人1つで、と言いたいところだが、それぞれの適正や役割に合った宝具でなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
「とりあえず、この槍はリリムで良さそうですけど…」
「そうね」
この中で、槍使いはリリムしかいない。まずは順当なところだな。
「良いの?やりぃー!」
リリムが槍を手に取り、宝具の詳細を確認する。
「うおっ!?頭になんかきた!スゲー!これが宝具!」
初めて宝具に触れたのか、リリムのテンションが高い。
「なるほどねー。めちゃ強じゃん!」
リリムが槍を構えたり、軽く振ったりして重心を確かめている。その顔を見ると、どうやら気に入ったらしい。その深い青の瞳をキラキラと輝かせて、ニコニコだ。
「でもかわいくなーい」
ミレイユが不満そうに言う。たしかに、槍の見た目はかわいくはないな。百足がモチーフだし。
「かわいさより強さっしょ!よく見るとキモかわいいし、イケるイケる」
キモかわいいって何だ?どこにかわいい要素があるのか謎だ。
「どんな能力だったんだ?」
私は槍の能力を知らないので訊いてみた。めちゃ強って言ってたし、期待が持てるな。
「皆も触ってみて」
リリムが槍を皆の前に差し出した。私は手を伸ばして槍に触れる。
触れた瞬間、頭に槍の情報が流れてきた。
この槍、攻撃した相手に麻痺と毒を付与する能力を持っているようだ。麻痺で相手の体の自由を奪い、毒で相手の体力を奪う。その見た目に違わず、えげつない効果だ。長期戦になればなるほど輝く効果だろう。リリムがめちゃ強と言うのも分かる。
「これは、なんとも見た目通りの能力だな」
「そうですね。百足の毒がモチーフになっているんだと思います」
「嫌らしい力ね」
なんだかミレイユのこの槍への当たりが強いな。パーティの回復を担う彼女からすると、たしかに嫌らしい効果に映るのだろうが…。槍の見た目がかわいくないからだろうか?
「槍は決まりとして、後はどうしましょう?」
残された宝具は4つ。白地に赤の刺繍が入ったローブ、マジックバッグ、地図、黒い紐だ。
「とりあえず、能力の確認をしましょうか」
エレオノールの言葉に、私はローブへと手を伸ばす。
なるほど。このローブ、着た者の気配が薄くなる効果があるようだ。ローブだし、後衛用の装備だろう。
これで、全ての宝具の効果が分かったな。
槍は、攻撃した相手に麻痺と毒の付与。
ローブは、着用した者の気配を遮断。
ポシェットは、マジックバッグ。
丸まった羊皮紙は、ダンジョンの地図。
黒い紐は……。
「何よこれ!?」
突然、ミレイユの甲高い声が響き渡る。その手には、黒い紐が握られていた。
突然上がったミレイユの悲鳴に、皆の視線が集まる。
「ミレイユ、どうしました?」
「どうしたもこうしたも、これよ!」
ミレイユが、黒い紐の宝具をエレオノールに押し付けるように渡す。その顔は少し赤くなっていた。
「なっ!?」
黒い紐を受け取ったエレオノールも絶句して動きを止めてしまった。その顔がどんどん赤くなっていく。
「どったの?」
その横からリリムが、黒い紐をエレオノールの手から摘まみ上げた。
「へー、これってそういう…。はい、ネトネト」
リリムが黒い紐をディアネットに渡した。渡されたディアネットは、黒い紐を広げる。黒い紐は、Hの形をしていた。
「そんなハレンチな物広げないでよ!」
ミレイユが叫ぶ。ハレンチな物って……まぁたしかにハレンチかもしれんな。この黒い紐、実は装備なのだ。名をビキニアーマーと言う。
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