第4話 神様と暴漢と少女
職務に忠実な門番に冒険者ギルドの場所を訊くと、案外近くにあるらしい。早速、冒険者ギルドへと向かう。
早くダンジョンに行ってみたいが、あまり人々の作ったルールを無視するわけにはいかないからな。そんなことをしていては、人間の社会から爪弾きに遭ってしまう。
道の端を歩いてると、突然左手首を掴まれた。なんだ?と思っている内に、小さな路地の暗がりへと引きずり込まれてしまう。気が付くと羽交い絞めにされ、首にナイフを突きつけられていた。
「シ―ッ、静かに。騒げば殺す」
なんとも見事な手際だな。感心してしまうほどだ。
「ヒヒッ、怖くて声も出ねぇってか?」
何も答えずにいる私を見て勘違いしたのか、男たちが低く嗤う。男たちは3人いるようだ。
「遠目に見ても分かっいたが、これはとんでもねぇ上物だな。ちと若いが」
「良い子にしてたらすぐ返してやるからな。オレたちと遊ぼうぜ」
男たちの手が私の胸を股間を尻をまさぐる。遊びとは、つまりそういうことだろう。
「うーむ……」
男たちに体をまさぐられながら、私は考える。さて、どうしたものか?
つまり男たちの遊びに付き合うか否かである。
肉の体を得たことで、私には肉欲も生まれていた。ここで男たちに付き合って、肉欲を解消するというのも一つの手ではある。
「貴方たち!そこで何をしているのです!」
悩んでいると、大通りの方から鋭い声が聞こえた。
そちらを見ると同時に驚いた。美しい…!
煌めく金髪を靡かせた美しい少女だ。その綺麗に整った双眸を怒らせ、意思の強そうな大きな青い瞳が、男たちを鋭く睨んでいる。
「その子を放しなさい!」
どうやら少女は私助けようとしてくれているようだ。ここは乗ろう、このビックウェーブに。
「あっ?」
私は男たちの手からするりと抜け出すと、少女の元に駆け出す。もちろん顔を歪めて涙も忘れない。今の私はどう見ても悪漢に襲われて泣いてしまった哀れな女の子だろう。そのまま少女の胸へと飛び込むように抱きつく。わーい、ぱふぱふだー。
「えーん(棒)」
少女の胸に顔を埋めて、存分に胸の感触を楽しむ。ほんのりとミルクの様な甘い良い香りがする。やっぱり抱くなら女の子だな。男に抱かれるか迷うなんてどうかしてたわ。
「よしよし、怖かったですね。わたくしが来たからにはもう安心ですよ」
少女が私の頭を優しく撫でると、私の肩を掴み、優しく体を離す。あぁおっぱい……。
「離れていなさい」
そうだね、抱きつかれていたら邪魔だね。これから悪漢共と戦うつもりなのだろう。少女が腰に佩いていた剣を抜く。
「てめぇ、なに逃がしてやがる」
「わりぃわりぃ」
「落ち着けって。見ろよ、アイツも上物だぜ。こりゃたんまり稼げそうだ」
男たちは、私に逃げられたというのに、まだ諦めていないようだ。それどころか、少女も獲物するつもりらしい。それぞれ剣やナイフを抜くと、ゆっくりと距離を詰めてきた。
「お嬢ちゃん、剣を捨てな。そしたら優しくしてやるぜ?」
「3対1だ、諦めな」
ふむ、たしかに数の上では不利だな。ここは私も加勢しよう。私は背中に吊るしていた短弓を手に取る。ついに私の弓の腕を見せる時がきたようだな。少女の目もあるから、かっこよく決めたいものだ。
私は弓を構える。男たちが私の弓を見て動きを止めた。
「チッ」
私の弓を警戒しているらしい。だが、動きを止めるのは良くないな。それでは良い的だぞ?
私は矢を射ようとしてハタと気付く。あれ、矢はどこに?
背中や腰を手で確認するが、どこにも矢筒が無い。しまったな、弓だけ用意して矢の用意を忘れていたらしい。仕方ない、短剣を使うか。
私は弓を手放して腰の短剣を抜く。
「アイツ、何やってんだ?」
「さぁ」
くっ、とんだ間抜けを晒してしまった。少女も見ているというのに恥ずかしい。久しぶりに恥を感じたぞ。顔が熱い。
「もしかして、矢を忘れてきたんじゃないか?」
「あぁ、そういう…」
「ダハハ、マジかよ」
ぐぬぬ、男たちに気付かれて笑われてしまった。
「そんな間抜け居るわけ…ここに居たか。ダハハハ」
「プフフ、そんなに笑ってやるなよ。可哀想だろ、プフフ」
こ、こいつらー!
「あの、無理はしなくても……」
くっ、少女が哀れな者を見るような目でこちらを見る。そんな目で私を見ないでくれ。
「ダハハ」
「プフフ」
「ガ―ハッハッハ」
男たちの笑い声が、思いのほか気に障る。悪いのは矢を忘れてきた私自身なのだが、男たちが笑うたびに恥ずかしさが込み上げてくる。
「だまれー!」
私は堪らず男たちに向けて、短剣を片手に駆けだした。きっと今、私の顔は真っ赤だろう。演技じゃない涙も溢れてきたぞ。
「なっ!?」
「早っ!?」
驚く2人の男を無視し、私は1人の男の懐へと飛び込む。私が矢を忘れた事実に気が付いた奴だ。こいつが居なければ、私は笑われずに済んだのだ!
私は姿勢を低くし、男の元へと疾走する。
「え?」
私の接近に今頃気が付いたのか、男が間抜けな声を上げるのが聞こえた。もしかしたら、男には私が突然消えたように見えたかもしれない。
これは魔法でもなんでもない。人間の視界というのは、案外狭いからね。特に縦の視界は狭い。前を向いた時、自分の足元は見えないだろ?男のその領域に、視界の外に、私が潜り込んだだけのことだ。
男の懐に飛び込んだ私は、男の武器を持つ手、右手首を斬りつける。張っていた紐をブツリと断ち斬るような感覚と共に、男の手首から血飛沫が舞う。
「あぎゃー!」
男が悲鳴を上げ、その手から剣がこぼれ落ちた。男が左手で斬られた右手を押さえ、くの字にうずくまるように頭を下げる。
「あでゅ」
目の前に下がってきた顎に蹴りを放ち、男の意識を刈り取った。これで1人無力化できたな。
「なにっ!?」
「てめっ!」
残り2人となった暴漢がいきり立ち、私に武器を向けてきた。ふむ、どう料理しようか。
「やぁっ!」
少女が掛け声と共に、一人の男を袈裟斬りに切り伏せる。男2人の視線が、私に向いたのを好機と判断したのだろう。駆けてきていた。
「なっ!?」
残った一人の男が、驚きの声と共に少女へナイフを向ける。
「ほう!」
私は思わず感嘆の声を上げていた。少女が、男を袈裟斬りに斬った剣を返し、そのまま返す剣で、残った男のナイフを持つ腕を斬り飛ばした。美しさすら感じる流れる様な動作だった。良く研鑚を積んでいる。見事だ。
「ああぁぁあぁぁぁあああ!」
裏路地に、腕を断ち斬られた男の絶望が木霊する。
「腕があ!お、オレの腕、腕があぁああ!あっ………」」
少女が剣を向けると、男の声がピタリと止まる。
「こ、殺さねぇでくれ…」
「大人しくしていれば殺したりしません」
男が何度も少女に頷き返す。流石に死にたくはないらしい。それにしても、少女の堂々とした姿よ。風格さえ感じるな。
少女がこちらを向いた。私の体を何度も往復するように見ている。
「お怪我はありませんか?」
「うむ。なんともないよ」
少女の問いに答える。
少女は剣を振り血を落とすと、剣を鞘に納めた。キンッと甲高い金属音が響く。
少女が、袈裟斬りにした男へと近づいていく。どうしたのだろう?興味が引かれて、私も少女の後を追った。
「かひゅー、かひゅー」
袈裟斬りにされた男は、まだ生きていた。荒々しく苦しげに息をしている。だが……男の傷は深い。このままでは助かりそうにないな。
「カハッ、た、たの、頼む。む、むす息子、に…ガッ」
男が、口から血を溢れさせながら、言葉を紡ぐ。末後の言葉、遺言か。聞いてやろう。この者は暴漢だが、この者を慕う者もいることだろう。少なくとも息子には親の最後の言葉を届けてやろう。
「それはご自分で伝えなさいな。『この者に癒しをお与えください』」
少女が手を組んで神に祈る。すると、男の傷口が淡く緑に輝き、時間を巻き戻すように、傷が癒えていく。
「なんと!?」
これには私も驚いた。少女は神の加護を受けているらしい。それも、奇跡を行使できるほど強力な加護だ。私は神に祈る少女を改めて観察する。
「ほう!」
なんと少女は5つも神の加護を受けていた。これは尋常な数ではない。普通は多くても1つや2つだぞ?それを5つとは…。
「ん?」
何の加護を得ているのかと見てみれば、風神ワールディーの、つまり私の加護も持っていた。それもなかなか強い加護だ。
私は、いちいち加護を与える対象を精査するのが面倒で、善も悪も関係なく、完全ランダムに自動で加護を与えていた。そのせいか、人々にはワールディーは風のように気まぐれだと言われている。
この強さの私の加護が貰える確率はどのくらいだろう?きっと宝くじに当たるよりも確率が低いぞ。目の前で祈る少女は、すごい幸運の持ち主のようだ。
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