第2話 神様の前準備
「さて、次はどんな人生を歩もうか?」
私の心はウキウキだ。今日は待ちに待った降臨解禁日。下界に遊びに行ける日だ。
私は下界に行く遊びを、自ら制限していた。前回の遊びの終了、つまり私の作った肉の体の死後100年は再び降臨しないという自分ルールだ。
理由はいくつかあるが、一番大きいのは私の影響でこの世界の歴史を歪めない為だろう。あまり頻繁に降臨していては、人々が私に依存してしまうからね。気を付けないといけない。
また同じ理由で、私が神だとバレるのも避けている。
一度バレた時なんて、私をめぐって戦争まで起きているからね。極力、私が神だとバレないようにしないといけない。
「まずは肉の体を作らなければ。さて、どうするか……」
種族は……人間にするか。一般的な種族だし、わりと広く分布しているから、どこに居ても怪しまれないだろう。
性別は……女にするか。前回は男だったし、今度は女にしてみよう。
容姿は……あまり目立たないものが良いだろうな。人間女性の平均値を取るか。
「ふむ。あとは少し手を加えて、私の好みにすればよかろう」
………。
……。
…。
はっ!?しまった。ついつい夢中になっていじり過ぎてしまった。
目の前には12,3歳ほどの見た目の銀髪の少女が裸で浮いている。綺麗系な端正な顔立ちだ。最初にあった平均値の顔など、どこかに飛んでいってしまったな。いや、少し面影があるか? 自分の趣味に寄せすぎてしまったな。目立たない容姿が良かったのに、これでは美人すぎて目立ってしまう。髪色もいつの間にか銀髪になっているし……。
体格もそうだ。最初は成人とされる15歳くらいの設定だったのに、いつの間にか華奢な12,3歳くらいの体になってしまっていた。原因は分かっている。胸を削ったせいだ。
私にとって胸は、人のを見たり触ったりするのは好きだが、自分の胸は無くて良いと思っている。前に一度、巨乳の女になったことがあるのだが、重くて肩がコるし、邪魔だし、運動すれば揺れて痛むし散々だった。だから自分の胸は無くて良い。
だが、胸だけ削ったせいで、どうも体のバランスが悪くなってしまった。それを調整しているうちに……気が付いたらこうなっていた。
「これでは目立ちすぎるな。多少崩すか」
そう思うのだが、なかなか踏ん切りがつかない。せっかくここまで美しいものができたのに、それを崩すというのは……もったいない。
「うーむ……。このままでいくか…?」
問題になるようなら改めて崩せばいい。一度この容姿を試してみよう。
「服は…、それはどこに行くかによるな」
その地域の気候や風土に合わせた方が良いだろう。肉の体はすぐに体調を崩すし、下手をすればすぐに死んでしまうからな。気を付けねばならん。
「さて、どこに行くか……」
と言ってみたものの、行く場所はもう半ば以上決まっている。予め行ってみたい場所をピックアップしていたのだ。その中でも、とびきり興味を引かれた場所が一つ。
「ダンジョン都市タルベナーレ」
世界に十二箇所あるダンジョンの一つを擁する巨大な都市だ。気候は穏やかだし、政治的にも安定している。ダンジョンという面白そうなアトラクションもあるし、まさに理想の降臨場所といえる。
ダンジョンは、試練と成長の女神リアレクトの運営する魂の精錬所だ。ダンジョンの中に行ったことが無いので詳しいことは分からないが、私の想像するダンジョンとあまり差異は無さそうだ。
ダンジョンに挑戦する者は、冒険者と呼ばれているらしい。私はその冒険者になるつもりだ。
ということは、服装は戦闘を意識した装備の方が良いな。
「戦闘スタイルどうするかな?」
それに合わせて装備も変わってくる。
「うん。盗賊にしよう」
最初は戦士にしようかと思ったが、この小さな体では難しいだろう。盗賊なら小さな体も利点になりそうだ。魔法使いもでも良さそうなものだが、私はある理由から魔法使いにはならないと決めている。
「身軽な服装が良いな。武器は短剣。それと短弓でも持つか」
装備を、タルベナーレの様子を見て決めていく。参考にするのは、もちろん盗賊の冒険者の服装だ。
「こんな感じか」
上は黒を基調とした体にぴっちりと張り付く装備だ。なんだかスクール水着の様な感じだな。体のラインがはっきりと分かり、何もない胸元が寂しく見える。胸削っちゃったからね。……リボンでも付けておくかな。
下は丈の短い短パンと膝上まである長いソックス。どちらも黒を基調としている。
腰に革のベルトを巻き、後ろに短剣を吊るす。うん、冒険者っぽい。
「まぁ、どこかおかしいようなら現地で買い変えれば良いだろう」
この姿を見ていたら、早くタルベナーレに行きたくてうずうずしてきた。
私は残りの項目を適当に選び、設定を完了する。
名前はルー。成人を機にダンジョンへ挑戦しようとタルベナーレにやって来た、いわゆる『お上りさん』と呼ばれる初心者冒険者だ。
「では、いくぞ!」
いよいよ降臨だ。
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