7話 やっぱりクズだけど、ありなの

「おっさんやりきったぜ、さぁ最高の酒を呑まないとな」

 

 意気揚々とオーガのフレンドリーファイアで、かけた爪や角などをエースはひろう。

 

「全く大赤字だな」

 

 ぼやくエースだが、そもそもその盾も酒もマリーの奢りなので元手は無料である。ボッチが長すぎて貰えることがなくてすっかり買った気らしい。マリーが不憫である。

 

 村に戻り僅かばかりの、かけた爪などオーガの素材を売り、壊れた盾を買い替えて、酒を買うために歩き出す通常運行のエースである。

 

 そのエースをマリーは待っていた。なのに完全にスルーされていた。

 

 そんなマリーに慈悲はなくケインは口説くたびに男のシンボルにつま先をクリーンヒットで何発もらい今は腫れて自宅療養中である。オネェ誕生かもしれない。村のSAN値の危機だがマリーにはそれどころではない。スルーされても、一大決心を実行するので頭がいっぱいだ。

 

「エースって強かったのね、呑んだくれなんて言ってごめんなさい」

 

 人間関係の構築に必要なこと、それは相手を認めて自分の非を認めることだ。マリーはエースに躊躇うことなく実行する。

 

「今は酒が呑みたいから後にしてくれ」

 

 酒に一途と言ったクズはブレない。だからクズなのだ。

 

「はぁあ!人が謝ってんのに酒呑むとか死ね!呑んだくれエース!」

 

 マリーの一大決心が早くも崩壊の危機だ。

 

「すぐに呑んだくれエースに戻るんだな」

 

 人の話は聞いているおっさんである。なんだかんだと村の情報通なのだ。主に聞いてはぼやくだけだが。

 

「一生呑んだくれエースとしか呼ばないわよ!!」

 

 マリーはマジギレである。心は大半後悔が占めている。

 

「そうそう、俺の家のカマドの裏の壁と土間の間に隠しスペースがあるなぁ。あれは花嫁を手に入れるための金なんだよ」

 

 しかしおっさんは嘘はつかない。

 

「そんな事知らないわよそんなに酒が好きとか死ね!パシリなんてしないわよ!!・・・・ん?なんで私に言うのよ?」

 

「おっさんはオーガがまだまだ怖くて、花嫁は買えないけどな」

 

 クズだが、マリーの気持ちは読み取れるらしい。酒と下心どちらが優先されるのか、どうなるのだろう。

 

「いいわよ、買えない花嫁より手に入る花嫁が使ってあげる」

 

「おっさんはそれを使って今から、ボロ酒を家で呑んで宴会にしたいだけだ」

 

 どうやら空気を読んで、マリーで遊んだらしい。酒に一途なクズらしい発言だ。

 

「なんでそうなるのよ!!そこはどっちかの花嫁に使いなさいよ!!とにかく村の英雄なんだから今日くらい贅沢しなさい!!えっと、じゃあ仕方ないから私がお酌して村で一番贅沢な宴会にしてあげるわ!!感謝しなさい!!」

 

 マリーが一気に捲し立てる。もはや誰も止められない危険生物だ。

 

「呑んだくれおっさんに花嫁はもったいないねぇ」

 

「嘘はつかないのでしょ?」

 

「エースは嘘だけは一度もないなぁ。たぶん」

 

 だいぶクズなのでギリギリセーフは多い。が花嫁資金なのは間違いないらしい。宴会をしたいとは言っているがするとは言ってない。

 

「ヘタレなエース、とにかく新居で待ってるわ!!」

 

 こうしてマリーは一足先にエースのボロ家で言われたとおりに金貨を探すと巧妙に隠されたスペースに大量の金貨を見つける。花嫁なんてダース単位で買えそうだ。

 

 つまり100はかるーく超えている。

 

「いくらなんでも呑んだくれエースの稼ぎじゃ多すぎるわ」

 

 思ったより酒を買うのに時間がかかったようで遅れすぎて、エースが自宅に帰って来る。

 

「すげーな。よく場所わかっても見つけたな」

 

「ふん、すごいでしょ!ところで呑んだくれエースの稼ぎじゃこんなに貯められないでしょ?」

 

「稼ぎは全部、酒屋と雑貨屋に使ってるぞ」

 

「この金貨の出所はどこよ?」

 

「オーガに襲われた行商とか旅人を助けたときの謝礼金だな。稼ぎは全部酒にするが、謝礼金は稼ぎじゃないからな」

 

「!?!どんだけ人助けしたのよ!?」

 

「おっさんを見かけると皆身代わりにして逃げるんだ、大半はこれでオーガを任せたとか言って何かくれるだけだ、世知辛ねぇ」

 

「えっと、貴方を身代わりにしてただで逃げてごめんなさい」

 

「グビグビ!プハー仕事明けの酒は最高だ」

 

 全くマリーを気にしないエースであった。村で酒を買えるように戦い守ったのだから当然ではある。だからマリーよりも酒が優先だ。

 

「ちょっと!いいところなんだからそこは酒呑まずに気にするな。とか君が最高の謝礼さ。とか言いなさいよ。死ね!呑んだくれエース!!後お酌させなさい!!まじで死ね!というか謝罪くらいは真面目に聞け!!!呑んだくれエース!」

 

「呑んだくれボッチ46歳おっさんに求めることじゃないね」

 

「ふん、エースなんて知らない」

 

 そう言いながらも、濁ったクッソ不味い安酒を安物の皮革の水筒からコップにお酌して渡すマリーである。

 

「グビグビ、ぷはぁ~!過去最高に旨い酒だね」

 

「本当に?私のおかげね。ちょっとよこしなさいよ」

 

「おっさんの酒だから断る」

 

「ケチ、でも貰うわよ」

 

 マリーはコップをステータス差にものをいわせて奪い取りエースの飲みかけを飲む。ちなみにマリーは20歳、ケインは18歳である。

 

「うん、エースが飲んだ酒はウマイわね。そんな顔しないでよ。お酌するから我慢しなさい。村の英雄、呑んだくれエース」

 

「おっさんには、もったいない称号だね」

 

「私の夫は村最強の盾よ。自信持ちなさい」

 

「稼ぎはいままで通り全部酒にするけどな」

 

「稼ぎを家族に使わない奴は死ね!こんな若くて可愛い花嫁がいるだから、酒を減らしなさいよ!!」

 

「なんか村の総意とか言って帰るの邪魔されたんだ。その理由がこの金を受け取れと。酒屋の店主から受け取ったこの金は花嫁に使わないとな。稼ぎじゃないし」

 

 嘘は言わないクズなおっさんである。稼ぎは狩りの成果を指すらしい。それしか酒にしないおっさんを褒めるべきか、一番の安定した収入を酒にするクズと怒るべきか難しいところである。

 

「皆の気持ちを邪魔とかいうな!死ね!でも生活費と家の修繕費にするわ、本当に口が悪い夫ね」

 

 Aランクの冒険者パーティーは雇えないがそれなりの金額がエースに渡されていた。もちろんエースの日々の稼ぎより圧倒的に多い。

 

「えっこんなにいいの?一年は暮らせるじゃない」

 

「おっさんは稼ぎ以外は花嫁にしか使わないって決めてるんだ。でもおっさんは花嫁を買えないんだよなぁ」

 

「花嫁が好きに使うわよ?」

 

 そろそろマリーもエースに、慣れてきた。

 

「花嫁のための金だからな」

 

「他にはないの?」

 

「あっなんか今回の狩りでこんなのも身代わりにして逃げた行商が置いていったな」

 

 エースは金細工かなざいくの綺麗な髪飾りとクシのセットをマリーに手渡す。

 

「キレイ!!ありがとう、わざわざ私のために選んでくれたの?」

 

「一番高い商品よこせって言っただけだ」

 

 おそらく何でもするとか助けてくれお礼は言い値でかまわないとか言われて、エースが一番の高い商品と言ったと思われる。

 

「死ね!そこは嘘つきなさいよ!!呑んだくれエースのバカ!」

 

 にまにまと髪飾りとクシを眺めながらお酌をするマリーの顔は酒以外の赤さがある。照れ隠しにどんどんコップにお酌してエースに呑ませる。

 

「幸せだねぇ」

 

 エースの発言はマリーからのお酌なのか、酒が旨いことなのか微妙だ。

 

「もっと幸せにしてあげるわ!ヘタレエース!」

 

 髪飾りをちゃっかりつけたマリーにエースは押し倒されて、「まだ飲み足りないんだー」と叫ぶも「死ね!呑んだくれエース!」と一蹴されステータスでは大敗負してるエースはマリーに美味しくいただかれ、キレイサッパリ搾り取られました。

 

 これはこれで二人の相性は良いのだった。

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