6話 防衛戦

「大変だオーガの群れが村に向かって来てるぞ」「雨が少なくて村を襲いにきたんだ」「防衛の準備だ!とにかく人をを集めろ」「あんな群初めてだ、ヤバいぞ」「防壁を築きましょう」「時間がないぞ」

 

 マリーと呑んだくれエースの様子を見物してる余裕はなくなり村は非常事態に対応すべく村は動きだす。

 

「呑んだくれエースはオーガを追い払えるの?」

 

「盾がもう壊れてるからなぁ、酒も少ないし盾が新品であと五枚、酒もあれば追い払えるだろなぁ」

 

 呑んだくれエースは嘘はつかない。追い払えると言えば可能なのだろう。

 

「私が盾を五枚あげるからあと、酒も持ってきてやるからなんとかしてよね」

 

「撃退するまで運動した後の酒は最高に旨そうだな」

 

 村のためにとかマリーのためにとは言わないアルコールに一途なエースらしい発言だ。

 

「死ね!呑んだくれおっさん、買ってくるから待ってなさいよ」

 

「無料で仕事道具と酒くれるのに逃げないって、もう走り出してら、さてと早くオーガの相手しますかね」

 

 エースはオーガの群れ向けてのんびりと歩き出す。

 

「ここで待ってるとはおっさん言ってないからな」

 

 エースはぼやきながらもいつもと変わらない気負うこともない足取りでオーガを観察する。

 

「おー、1、2、3・・・全部でオーガは13体か、これは、討伐するにはAランクの冒険パーティーくらいかね?勝てねーな」

 

 Aランクの冒険者は戦略級戦力で戦場の勝敗に大きく影響を与える最強クラスの実力だ。オーガなら個人がBランク冒険者で、作られたパーティーで殲滅できるだろう。

 

 ちょっとした間違いをおかしたエースが数分歩いているとマリーが走って追いかけて来る。

 

「盾買って来たわよ!!というか待ってなさいよ!!なんで移動してるのよ!!とにかく六枚有るから余裕でしょ?あとご希望の安酒もあるわよ」

 

「太っ腹だな。はい、これ壊れた盾な。売却頼むわ、あとこっちの素材の換金な。売った金は全部俺のだからな」

 

 エースは図々しく村の防衛のために盾と酒を貰った上に、狩りで壊れた盾と成果の売却を頼んで金は渡さないときた。完全にマリーをパシリ扱いだ。

 

 おっさんの労働の成果だから間違ってはない。でも手間賃とか、買って貰った盾とか酒の代金くらいは払っても良い気はする。

 

「新品の盾と酒をプレゼントしたんだから、壊れた盾の売却代くらい寄越しなさいよ」

 

「俺の酒が減るだろ、断固断る」

 

「本当にクズ!!酒と死ね!!呑んだくれエース!!」

 

 マリーは微妙に外される呑んだくれエースの回答に、とにかくイライラが止まらない。村の命運を握って無ければボコっているだろう。

 

「グビグビ、オーガを追い払って酒を楽しむかね」

 

 もちろん空気が読めないエースは聞いてないというか、いまさら罵倒くらいで揺るがない。シカトよりも遥かに楽しいのだ。たぶん後でぼやくけど。

 

「私を無視して酒を呑むな!呑んだくれエース!!だいたい追い払う前に呑んでるでしょうが!!呑んだくれエースなんて死んでしまえ!」

 

「おっさんは嘘はつかないからな。オーガに近づいたしそろそろ危ないぞ」

 

 つまりオークを追い払ってさらに酒を美味しく楽しく呑む事は確定らしい。今呑まないとも言っていない。エースは酒に一途な漢なのだ。

 

「ああぁもう!!分かってるわよ!!呑んだくれエースなんて死んでしまえ!」

 

「酒を呑みきるまでは死ねないな」

 

 マリーは村の防衛準備に加わるために大急ぎで戻って行く。

 

「おっさん久しぶりにたくさん話したなぁ。こんなクズのおっさんのなにが良かったのやら。不思議だねぇ。さてとオーガを撃退しないと酒が村で、買えなくなるからなぁ。頑張りますかねぇ。しかし本当に呑まなきゃ、やっとられん。グビグビ」

 

 オーガの群れに単身で歩きながら酒を呑んで突っ込む酒で腹が出たおっさんである。

 

 カッコいいが体型と発言が全てを台無しにするのが、呑んだくれエースクオリティーである。

 

 マリーはイライラしながらもおかしな漢の背中を見つめながら防衛の用意をすることしか出来なかったのだった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ケインはあんなとこ出来る?」

 

 マリーがオーガに囲まれて殴り続けられているエースを指差して言う。

 

 すっかり村の壊れていた防壁は応急処置ではあるが修理されて、矢や投石用の石が集められている。そしてたくさんの槍も並んでいる。

 

「酒飲んで魔物に挑むとか無謀すぎる冒険者として失格だ」

 

 ケインは呑んだくれエースを認められなくてこんなことを言う。彼も防衛戦力の要として待機している。

 

「なに?論点がずれてるでしょ?シラフだからケインもオーガに囲まれてみたいの?」

 

 マリーはケインへの評価が地の底よりも低く成っているので容赦ない。

 

「そんなの瞬殺されるだろ?無理に決まってる」

 

「よね?あれでもう三日間、不眠不休で耐えてるのよ?しかも10日の狩りの後よ。・・・凄すぎるわ」

 

 エースから目を話さないでマリーは語る。

 

「あれより冒険者って強いんだろ?」

 

 呑んだくれおっさんの持久力は異常で、冒険者なら確実に倒すか、逃げるかどちらかである。きっと毎晩ターゲットを追い回して徹夜するストーカーもビビる粘着行動力だ。

 

「エースって凄かったのね」

 

「俺はあんな呑んだくれ超えるから、また付きってくれよ」

 

 ケインは地雷を踏み抜いた。

 

「三股ケインなんて嫌いよ、また口説いたら、あそこをやってるときに蹴りあげるわ」

 

 ケインは想像したのか男のシンボルを両手で押さえてガクガク震えている。

 

「三股男は消えろ!」

 

 マリーの容赦ない蹴りはケインの股間にクリーンヒットして、ケインを沈める。靴のつま先をキッチリ命中させるあたり冒険者志望の魔法使いの、無駄に洗練された無駄な技術だ。


 やってなくてもあそこは蹴られる運命にあったらしい。

 

「ノォーーーーーーーーーー!」

 

 悶絶するケインに興味を無くしたマリーは、ケリーがうるさいので後頭部を、踏みつけて顔面を地面へめり込ませて静かにすると、エースとオーガの死闘いをじっと見つめることに戻るのであった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 その頃エースはオーガの猛攻を受け流し続けていた。

 

「グガぁぐがぁ」

 

「オーガもお疲れのようだ。おっさんは割りに合わない獲物なんだから、あきらめてくれないかねぇ」

 

 三枚は盾が壊れているがエースは始めと変わる様子もなく、ひたすらオーガの攻撃を受け流し、チャンスにはシールドバッシュでオーガ同士のフレンドリーファイアでダメージを蓄積している。

 

「ぐがぁぐかぁくかぁ」

 

 オーガとしては飢えてるし、目の前のおっさんは丸々と肥えていて脂たっぷり旨そうなのだ。その脂はアルコールで出来ているのだが。

 

「オーガのお疲れ声から、もう逃げる頃なんだけどなぁ。早く酒が呑みたいが、きっつい仕事の後の酒は最高だからな。長引けば長引くほど、美味くなるから悩ましいぜ」

 

 呑んだくれの思考の常人の理解の外にあるようだ。途中で酒を呑んでいるが水分補給扱いだから、嘘ではないらしい。

 

 オーガ達も獲物がなければ餓え死になのだから必死であり、文字通りの死闘である。

 

 その後、死闘はさらに二日も続けられた。

 

「今回の酒は過去十指に入る旨さになってるぞぉ〜〜!!これは死ねない!!おっさん死ねないぞ!!!!オラオラオーガはとっとと帰れよ」

 

 呑んだくれおっさんは更になぜか飲まず食わず不眠不休の五日目なのだが元気になり、ひたすら受け流しを続けている。なお不味い酒は水分補給?扱いなので飲んだには呑んだくれエース的に、カウントしない謎理論だ。

 

「くおぉくおぉ」

 

 オーガも引いているほどのテンションのようだ。

 

「おっさんにアルコールを呑ませろ!!おっさんにアルコールをよこせぇーー!!!」

 

 オーガ達は、おっさんを狩るよりもこれは餓え死にする方が早そうだと気が付き終には撤退する。


 呑んだくれエースは終始クズな理由ではあったが村を無傷で守りきったのだ。

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