5話 おっさんと花嫁

 村ではケインの三股バレた話題が持ちきりの中、エースは10日の狩りを終えて村に戻ってきた。買った酒をほぼ呑みきり、荷物袋は素材と肉でいっぱいにしている。

 

 そして何故かマリーが村の入口で待っている。

 

「そろそろ帰って来る頃だと思ったのよ。呑んだくれエース、貴方は花嫁をオーガに殺されたんでしょ?」

 

 マリーはあっさりとケインを振って気にしなくなった。でも呑んだくれエースには、ふとした瞬間に、思い出しイライラしていた。そして気が付いたら村の入口で呑んだくれエースを待っていたのだ。

 

「確かに花嫁をオーガに奪われて失ったな」

 

 マリーは聞いた話が本当なので、詳しく聞き出そうと質問を重ねる。

 

「それでオーガに復讐のために頑張ったけど、上手くいかなくて半ば諦めで酒に逃げてるんでしょ?」

 

 マリーは一途で不器用な男の、その想いを想像して今の行動を問う。

 

「オーガには勝てないからな仕方ないだろ?」

 

 マリーは、諦めたのか。そんな悲しさとそれでも荒野に繰り出すのは、どこか諦めない努力の証の様な気がしてならない。

 

「まだ諦められないくらい花嫁が今でも好きなの?」

 

 ケインとの話題の中心人物マリーと、村八分の呑んだくれエースが、話し込む姿にどうしたのかと村人が集まってくるがマリーはお構い無く質問してくる。

 

 村人は呑んだくれエースがマリーが失恋したショックで、呑んだくれエースなんかに靡かないか心配していたりもする。

 

「一生諦められないな、オーガに勝つまで花嫁をこの手にむかえる勇気も出ないな」

 

 呑んだくれエースが少し遠い目をして、思い出したのか少し哀しい様なそれでいて達観してるような不思議な表情を浮かべる。

 

「私はオーガに奪われたりしないわよ」

 

 マリーはその表情から感じ取る、呑んだくれエースの想いにこそ真の男を見た気がする。三股する様なケインと、死んだ花嫁に長年一途に想う不器用な男を比べて、不器用な男がカッコ良いと思った。

 

「それとは関係ないんだ。だいたい俺だけの問題だからな」

 

「私じゃダメなの?そんなに魅力ない?その花嫁さんは可愛かったの?」

 

 遠回しに言っても伝わって無かったらしくわりとストレートにマリーは言う。

 

「はぁ?なに言ってるんだ?」

 

 マリーと奇跡的に噛み合ってるが根本的におかしいな事にエースは気が付く。

 

「呑んだくれエースが一途で強いみたいだから呑んだくれエースの花嫁になってあげるっていってるの!!」

 

 何もおかしく無いと思っているマリーはちょっとイライラして、思いっきり告白をする。

 

「それは無理だろ」 

 

 そこにマリーとエースを見つけた。いやマリーにしか用事がないケインがやってくる。

 

「マリー!!俺が悪かった、だからそんな奴はやめろって」

 

 ケインは自分への当てつけだと、思っている。だから復縁の可能性が十分にあると、むしろ止めないと大変なことになると思い、必死にマリーを止める。

 

「浮気してたケインなんて嫌いよ、私は一途な人がいいの!呑んだくれエースは一途でしょ?」

 

 マリー的にはケインはクズで、呑んだくれエースは不器用な男だ。年こそ上だがそれこそ一途さの証明期間でしかない。むしろ長い方が良いくらいだ。

 

「どうだかな?一途といえば一途?んー?ん?」 

 

 奇跡的に噛み合ってる会話なのだ。でもエースはおかしい事は分かる。会話は合ってる合ってるけども根本的にマリーが間違ってる。何が間違いの原因なのかが分からない。

 

「花嫁を30年近くも思い続けてるのだから一途よ。三股男のケインとは違うわ」

 

「マリー!すまなかった!これからはマリー、一筋に生きるから許してくれこの通りだ」

 

 ケインあいつ確かお相手が、3人いたな。とエースは思い出す。リア充は羨ましい爆発しろと46歳まで童貞で、浮ついた話のないエースは思う。ぼやくとバレるので口にはしない。

 

 それくらいは空気が読めるおっさんなのだ。

 

「ケインは黙れ!私はエースと話してるの!!」

 

 土下座するケインを踏みつけて顔面を地面に埋めて物理的にケインを話せなくするマリー。

 

「そりゃケインとおっさんは違うけどな。花嫁にマリーはなれないからな」

 

 ちょっとマリーのえげつなさにドン引きしつつもエースが答える。

 

「どうしてよ、呑んだくれエースは十分頑張ったでしょう?もういいじゃない」

 

 マリーは、エースの想いの強さと、心のダメージが今だに大きいのかと思い母性本能まで、くすぐられてエースを落とそうと本気になる。

 

「まだダメなんだ、また失うかもと怖いんだ」

 

「私ならオーガから逃げられるわ」

 

 エースはマリー間違いに、気が付いて遊んでいるのだが、真実を知る雑貨屋のおばちゃんより上の世代全員の絶対零度の視線を受けて、ここまでだなと事実を語り始める。

 

「そうじゃないんだ。またオーガに金貨10枚の花嫁を目の前で、大地の染みにされるかもと怖いんだ」

 

「ちょっと!!なんで花嫁が金貨10枚なのよ!?」

 

 マリーも、なにかおかしい事に気が付く。

 

「なんでって花嫁って銘柄の高い酒だからだ。おっさんが20歳の頃に、将来嫁いでくる俺の妻のために親が貯めてた金で、買った最高の品質の酒である花嫁を独り占めしようと思ってな。それで村の外れでこっそり呑もうとしたらオーガに襲わたんだ。

 あの時は、無我夢中で念の為に持ってた盾で我が身を守り続けたら、気がつくと花嫁が割れてて、それでも死ぬわけにはいかなくてな。

 ずっとオーガの攻撃を受け流し続けたらオーガはおっさんを喰う事は諦めたが、花嫁は一滴も残ってなかったんだ

 それ以来酒は安酒しか、呑んで無いんだ。これで失っても諦めがつくからな」

 

「なにそれ!?真性のクズじゃない!」

 

「呑んだくれおっさんって言ったし、だいたいおっさんに教わることなんてないって言っただろ。誰だよ花嫁が酒の銘柄って言わなかった奴は?」

 

 一人の男が、こっそり野次馬から抜け出す。まさか子供の頃に聞いた花嫁が酒だとは思わなかったから悪くないのだが、嫌な予感に従ったのだ。

 

「でも呑んだくれエース自身が一途って言ってたでしょ?」

 

 マリーは嘘はという最後の可能性にかける。

 

「そりゃおっさんはな・・・酒に一途だ」

 

「最低!!嘘つき!死ね!」

 

 マリーは想いを踏みにじられたとマジギレしている。

 

「おっさん何一つ嘘はついてないぞ、誤解を解いてもないが」

 

 そもそもこの話はある程度年齢を重ねた村人はみな知っている。だから村八分のクズなのだ。そしてエース自身にも結婚資金を持ち出して酒を買うし、その後も改めない自分がクズだと自覚もある。それでも改善する気は無いからさらにクズなのだ。

 

 呑んだくれエースよりも、結婚資金を酒に注ぎ込んだと伝えなかった村人が悪いのでは?とエースは謝る気は無い。自分のクズ具合と村八分の原因くらいは自覚しているからこそ、マリーと仲良くなる気はない。


 宣言通りにエースは酒に一途だし。

 

「なによそれ!私の想いを返しなさいよ」

 

 マリーのエースに対する苛立ちからケインを踏む脚に力が入りケインの顔面が地面を掘削しさらに地面にめり込む。ケインはジタバタしているが脱出が出来ない。

 

「呑んだくれのおっさんに何を期待したんだ?クズなのは知ってただろ?」

 

「知らないわよ!どんだけ酒なのよ?アルコールしか考えないクズ、すぐに誤解を解きなさいよ!!」

 

「まさか存在しない花嫁が居たなんてすぐに思い付かないって(笑)普段、まともな会話しないおっさんに、タイミング良く誤解を解くコミュニケーション能力を求めたらいかん」


「呑んだくれクズ!絶対に私で遊んだでしょ?嘘つき!」


「おっさん嘘はつかないぞ。真実を分かりやすく語るとも限らないけどな」


「はぁあ、まじで死ね!死んでしまえ!!!」

 

 マリーとエースが言い合いをしていると集まっている村人が村の外を見て焦り始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る