4話 モテるってことは?
酒より先に盾を買うと予定を変更したエースは、雑貨屋に向う。アルコール大好きでも盾が無いと稼げない。命を預ける道具は大切にする。酒を呑むためになら手間は惜しまないのだ。
そんなエースに後ろから家主に置いてけぼりにされたマリーが声をかける。
「まだ呑んでないじゃない!!呑んだくれエース!呑む前に色々と教えなさいよ」
「村を歩きながら呑むほど落ちぶれてないだけだ」
「じゃあ呑んだくれエースのオーガの倒し方とか、教えなさいよ」
「こんなおっさんがオーガに勝てるわけないだろ?それに一度もオーガの素材なんて拾える以上の物を持って帰ったことないだろ?」
「三体のオーガから単身で、その突き出た腹の持ち主が走って逃げれるわけないでし!!嘘つき!もう呑んだくれエースなんか知らない」
「呑んだくれおっさんに教わることなんて何もないぞ〜!!」
マリーは諦めたのか、怒ったのか捨て台詞を残して走り去って行った。一応背中に叫んで事実を伝えるエース。また来たら、長年ボッチなおっさんは若い女の子への対応に困るからだ。
「おっさんは嘘だけはつかないだけどな。リア充爆発しろとは思うがね」
エースは静かに聞こえないようにぼやくと雑貨屋に顔を出す。
「壊れた盾、四つの下取りと新しい盾を四つ売ってくれ」
「売ってやるからさっさと消えな、商売の邪魔なんだよ」
「分かってるよ」
「盾四枚で銀貨三枚だよ」
「ありがとよ」
これが定型文である。酷い扱いだが、金払い効果で会話してくれるだけありがたいのだ。
「マリーちゃんが呑んだくれエースのことを探し回ってたよ。ちゃんと話せないって断りな」
店主のおばちゃんとは久しぶりに定型文以外の会話である。ちなみに利益に一番貢献しているのはエースである。
サービス受けたければそれなりの金を払えということだがまだ、普通な接客にはエースは足りないらしい。
「おっさんのあれを聞いて追っかけるとは暇なリア充だな。断るも何も、狩りについて聞かれただけだが?」
「マリーちゃんとは会えたのかい。呑んだくれエース、あんたまた騙してないだろうね?」
「このおっさんは嘘はつかないぞ」
「本当に、困った奴だね。騙さないと言わないのが、呑んだくれエースのクズなところだよ。シッシッ!クズは商売の邪魔なんだよ」
「言われなくても去るさ、素材買ってくれて盾さえ売ってくれればいいんだ」
塩は高価だし撒く文化もないので、ありふれた砂を撒かれて、雑貨屋から撤退するエースだった。
買い物を済ませたエースは酒屋の親父が起きてるか確認するために酒屋に向かい始める。
「呑んだくれなおっさんに声かけてきて、質問したのに、邪魔だって言うのは理不尽だよな」
エースはぼやきながら村を進み、酒屋に着くと親父が起きていた。
「安い酒をこれで買えるだけ売ってくれ」
盾もあるし何も気にしないで残りの金を全部出す呑んだくれエース。
「あいよ、珍しく呑んででねぇのか?明日は嵐だな」
「それはめでたい、恵みの雨を降らすおっさんだな」
「砂嵐に決まってるだろ。呑んだくれエースが雨降らせるわけがない」
「おっさんはそんなにクズかねぇ」
「稼ぎを全部酒につぎ込んで、しかも今だに村八分なんだから当然クズだな。ほら道中で呑んで死ぬなよ」
「呑みきるまで死なねーよ」
「そうだ、マリーが探してたぞ」
「さっき会っておっさんの現実を伝えたからもう用はないだろ」
「はぁ、呑んだくれエースは空気読まないからなぁ。呑んだくれエースがどうなったっていいけどよ、迷惑かけるなよ」
「長年に、わたり村八分のおっさんにコミュニケーション能力を求めるな」
ドヤ顔の呑んだくれエース。
「そうじゃねー。そんなんだから心配してるんだよ。絶対マリーちゃん誤解してるだろ?」
「嘘は言ってない」
「だろうな。でも微妙に本当の事も言わないからな。確信犯だろ?」
「狙ってるできるほど、会話してくれないが?」
「そうかよ。まぁいいや、次は高い酒を買えよ」
「安い酒で十分なんだ」
エースは酒を仕入れてまたオーガの縄張りの周辺の狩り場を目指して外に、向かって歩いて行った。
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「なんなのよ!あーもムカつくわ」
マリーは呑んだくれエースがとにかく気に入らない。苛ついて苛ついて仕方ない。
「しかも、花嫁の話し聞き損ねたし、はぁ最悪だわ」
その事に思い至るとさらにムカつく。花嫁を殺されても、一途に思い続けてストイックに鍛えてオーガに復讐するなんて、物語の中にしかいない主人公のようだ。
そんな激レアな当事者間から話を聞くのはまた狙おうと無理やり気分を切り替える。ストレス発散に人気のない村の裏側で魔法の練習をすることにする。
向かっていると、マリーより少し年上のちょうど結婚したい年齢のサリが、不穏な様子でやって来る。
「マリー、貴女もケインと、付き合ってるわよね?」
「私も?まさかケインの奴が二股?」
「残念ながら今、ケインはアイリと逢引してるわ」
「えっとそれって・・・」
サリは、怒りを通り越して呆れた表情になる。
「三股してたのよ。はぁこんな小さな村で良くやるわ」
「酒屋のスケベオヤジみたいに堂々と浮気してるのも、どうかとは思うけど隠れて、三股とか最悪!!」
呑んだくれエースが実は一途で不器用せいで村八分な男だけの疑惑があるのに、彼氏のケインは三股なのだ。
「サリはなんで分かったの?」
「アイリと逢引して○○○までしてたからね。見たらマリーも、もしかして万が一あるかもって思うでしょ?それで村で確認したらあっさり当たりよ」
当たり前に世界を旅するつもりな恋人同士なのだからそういう関係にある。マリー自身は、思ったよりも怒りのボルテージが低い。それにケインを盗られたという感情がほとんどない事に少し戸惑う。
「なるほど、それはケインを絞めて、絞め上げてからケインに話を聞かないとね」
それはそれとして、ケインをボコるのは確定だし、女同士で争わないのは良いことかと思いマリーはその気持ちを放置する。
「ケインもマリーには手を出してるなら、とんでもない目にあわさせられる事くらい予想つくでしょうにバカね」
マリーは、気が強いしステータスも村の中では高い。何よりロマンチックが好きなのは皆が知っている。
そこに三股なのだから恐ろしいことになるのは間違いない。
サリはマリーのターゲットがケインだけなので、矛先が自分に向かないようにケインを切り捨てるつもりだ。マジギレした冒険者志望の魔法使いに勝てるとは思わないからだ。
「そんな酷い事はしないわ。さぁケインに絞めに行くわよ」
「えっと、今はケインとアイリが・・・そうね行きましょう」
サリは色々と天秤にかけて、目の前の危険生物マリーに逆らわない事を選んだ。本人的に怒りのボルテージが低いのと、他人から見たキレ方は別なのだ。
サリの案内で、マリーはケインとアイリが逢瀬している現場に向かった。
「ねぇ、ケイン?私とも愛し合ったのに、どういうことなの?」
大きな声ではないが、何故か聴き逃がせない声質に飛び上がるケインとアイリ。アイリは恐怖に泣きそうになって正座する。
イケメンとの天国から、女と男の修羅場という地獄に理解が追い付いていないようだ。ケインも状況は理解は出来ていないが、バレたという事には気が付いている。
「えっと、愛してるぞ」
人間テンパると余計に事態を悪化させるものだ。ケインはマリーの怒りの火に油を注いでしまう。
「それは誰をかしら?ねぇアイリは、どう思う?」
「ヒッ!!あぅえっ、あのあの」
元々押しに弱くて流され易いタイプのアイリにとってマリーの質問は最悪だ。どう答えても殺されそうな気がして上手く喋れない。
「アイリでもサリでもいいんだけどさ、三股はダメだと思わない?」
これ幸いと頷くアイリと、墓穴を掘ったケインは青ざめて、合体するほど近かった二人の心の距離感が広がって行く。
「ケイン他に言う事はないの?」
「すまない!俺が悪かった!許してくれ!」
英雄色を好む。強くてモテる男がハーレム願望を実行するなんてよくある話だろう。だがケインはちょっと弱かった。村人の域を出るものではないからだ。
「そう、なら歯を食いしばれ!耐えたら許したげるわ」
「すまない!」
顔面にビンタを覚悟して歯を食いしばるケイン。しかしマリーは冒険者志望で、実戦経験もかなりある。情け容赦なく鋭い回し蹴りをケインの左腹に突き立てる。
それはどこかの、急所に吸い込まれる様な攻撃を放ち、全て避けてしまう天才の如くケインのある内臓を狙い完璧に捉えた。それは胃だ。
「グェ〜!?ゲホゲホ!!ゲホゲホ」
胃が圧迫されて中身が逆流するも何とか飲み込む事に成功する。しかしマリーの攻撃は終わらない。鳩尾にマリーはアッパーカットな拳を叩き込む。
「フッガッ」
呼吸困難に陥り視界が明点するケイン。
「三股とか誰が許すと思ってんのよ!死ね」
止めのマリーのフックがケインの顎に当たるとそのまま振り抜かれる。ケインは脳を揺さぶりれて脳震盪を起こしてぶっ倒れた。
「「・・・」」
魔物の脅威が身近な世界だけに戦闘を全くしたことも見たこともない人を探す事は難しい世界だ。それでもマリーのキレッキレの連続攻撃は恐れるに十分だった。
「マリーと結婚するのは大変そうね」
こくこくとサリの呟きにアイリは、頷いた。
「弱すぎてあんまりスッキリしないわ。あっ、二人とも今がケインにやり返すチャンスよ?」
「あはは、とりあえず起きたら殴るわ」
ケインはサリにも殴られることが確定した。
「私はいいです。ケインの防御力には私の攻撃なんて効かないだろうし」
「ふーん、まぁ好きにしないよ。私は魔法でもぶっ放してくるわ」
マリーは歩き去った。残された二人は嵐のようなマリーに振り回されただけだった。そしてアイリは服を着ると、気絶してるケインを僅かに見て考えてサリに視線を送る。
「私もこいつと愛し合ったわよ。誰が本命なのかしらね?」
「たぶんマリーですよね?冒険者になるのはマリーとだし」
「そんな気がするわね。ムカつくけど、起きそうにないし放置しかないわね」
こうして自業自得とはいえあんまりな扱いを受けるケインであった。
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