3話 おっさんがクズな理由はやっぱりある

 昼過ぎには獲物を代えた方が得と気がついたのか、オーガは撤退していった。

 

「46のおっさんに徹夜明けでオーガの相手は辛いなぁ。これは寝酒しないとやっとられん」

 

 エースはドカッと座り込みクッソ不味い酒を荷物袋から取り出し、グビグビとイッキ飲みする。

 

「ぷはー、働いた後の酒はウマイ、最高~♪」

 

 労働は最高の調味料である。アルコールなら何でも良さそうなエースだが、より美味い酒を求める酒呑みだ。


 質か量を選ぶなら迷わず量を選ぶ呑んだくれなのだが、気にしてはいけない。

 

「昨日の肉も食えるな。うむ、酒は神の恵みだ、今回も太陽神オー様御加護をありがとうございました」

 

 またグビグビと酒を呑んで、呑んで、呑む。

 

「疲れて空腹のときの酒はいくらでも呑めるぜ」

 

 一時間ほど荒野のど真ん中でボッチ宴会をして昼間から寝るエースであった。

 

 呑みすぎて真夜中に目を覚ますエース。寝すぎも寝すぎ寝坊である。

 

「やっべぇ、リア充のせいでこのまま帰ったら大赤字で次の酒が買えない。マジリア充爆発しろ」

 

 理不尽な呪いをぼやきながら歩き始める。少なくとも荒野でボッチ宴会して寝過ごすとかバカすぎる。

 

 荒野は暑く魔物も夜の方が歩き回りやすく、危険であるのだが向こうからやって来るから、強ければ狩り向きの時間である。もちろん弱くて、ボッチのエースは危険度アップするだけだなので酒呑んで夜寝るのは本当に死ねる自殺行為だ。

 

「いつの間にか夜じゃねーか、とりあえず呑んでから考えよう」

 

 エースは弱いのだから寝ている魔物か弱い魔物を狙うべきなのだが、呑んだくれおっさんは気にせず酒を呑みながら歩き始める。

 

「ラッキー、ポークじゃん」

 

 大型の猪の魔物を見つける。

 

 ポークは最低ランクのFで、家畜に出来るほど弱い魔物だが、こいつは条件がある。

 

 助走があれば高速の車と同じくらいのスピード、時速100キロは軽く超えて突進してくるのだ。

 

 スペースが狭いと助走が出来ないため何もできない。閉じ込めてしまえば家畜であるのだが、荒野なら高速道路に飛び出して轢かれて無傷でいるくらい難しいことになる。

 

「シールドバッシュ」

 

 エースは跳ね返すなんてカッコいいことはせず、おっさんらしく泥臭く受け流しながらポークをシールドバッシュで転けさせて盾ごとのしかかかる。

 

「ブヒッ!?ブヒ!?ブヒヒ?ブヒブヒ!」

 

 酒で増えに増えた体重は、家畜魔物ポークではどうしようもなくポークを無駄に増えた自身の重さで弱らせてエースの狩りを成功させる。

 

「おっさんやれば出来るだろ??さて勝利の美酒を呑みますか」

 

 また荒野のボッチ宴会を夜なのに始めるのであった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 エースが酒代稼ぎに狩りをしている頃、ケインとマリーは村に、帰り着いていた。

 

 安心したからか、マリーがふとエースに思いを馳せる。そして気が付く。

 

「ねぇ、ケイン。呑んだくれエースっていつも荒野で狩りをしてるのよね?」

 

「村の狩り場使えないんだから当然だろ?ま、オーガに今頃殺されてるだろ。今回はヤバかったし俺は一足先に帰るな」

 

「そうね、ケインまた修業に行くわよね?」

 

「当たり前だろ?今は休息の時間なだけだよ。マリーも今夜はぐっすり休みな」

 

「そうするわ。またね」

 

 こうしてケインと分かれたマリーは、やっぱり引っ掛かる呑んだくれエースについて調べることにする。

 

 呑んだくれエースはマリーが物心がつく頃には呑んだくれエースとしての暮らしをしていた。それだけで10年以上だ。その間荒野でオーガに襲われてないとは思えないからだ。

 

 調べるにしても簡単だ。年上の村人に聞けばいい。30歳ほどのマリーを可愛がってくれてる先輩に話しかける。

 

「ねぇ、呑んだくれエースってなんで荒野で狩りして平気なの?」

 

「呑んだくれエース?えーとだな」

 

 彼も物心がつく頃には呑んだくれエースが村八分になっていた。だから呑んだくれエースの強さなんて知らない。


 だが呑んだくれエースの村八分になった理由は聞いたことがあったし、マリーに知らないとは言いたくなかった。男の小さなプライドだ。

 

「呑んだくれエースが若い頃になオーガのせいで花嫁を失ったらしい。それから安酒ばかり呑んでるらしいぞ」

 

「ふーん、そうなんだ。それで?」

 

「呑んだくれエースが武器を買ってるのは見たことないが怪我してるのも見たことない。狩りも毎回成功してるしな。花嫁を守りたくて盾の修行してんじゃねーか?盾技でも少しは攻撃を出来るだろ?」

 

「もしかして呑んだくれエースって強いの?」

 

 結婚はしているが、呑んだくれエースよりも弱いとは思われたくない。村八分なボッチより劣ってるとは絶対に認めたくない。

 

「強かったら今頃オーガに復讐してるだろ?結局は狩りに行くだけなんだから諦めたんだろ。元々才能はないらしいし、過去はどうあれ今は普通にクズだよな」

 

 マリーも空気は読めるし、詳しくは呑んだくれエースに問い詰めればいいと納得する。

 

「ありがとう。ちょっと荒野にケインと、修行に行ったときに呑んだくれエースを見かけて、あれ?弱いのになんでだろうって思っただけよ」 

 

「理由はどうでも良いけどよ。呑んだくれエースなんかを気にかけるなよ」

 

「あんなおっさん興味ないわ。せいぜい荒野の狩りのやり方を聞き出すくらいよ。私の役に立てるなら、呑んだくれエースも喜ぶでしょ」

 

 マリーとしては花嫁に一途な男はちょっとロマンチックで、気になってはいる。それが恋心かと問われると全力で否定するだろう。でも、直接その花嫁への思いくらいは聞いたら面白いかもしれない。

 

 そのくらいには呑んだくれエースを見直していた。自分達が倒せないオーガに負けてる可能性の方が高いと思いつつ、それはそれでちょっとだけ罪悪感もあり、マリーは呑んだくれエースが生きて帰ってきたら、話そうと決めたのだった。


「あんまり仲良くなりすぎるなよ」


「分かってるわ。またね」


 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 ボッチ狩りと宴会を繰り返すこと村を出て10日、エースは村に帰って来た。

 

 そのまま肉屋に二束三文で食える肉を売り、雑貨屋に皮や牙、骨そして魔石を売る。

 

 冒険者はそれなりの高値で売れる部位だけをキレイに剥ぎ取り、鮮度を保ち持って帰るがエースは売れるところは全て解体して売るのだ。もちろん冒険者と比べればエースの品質は格段に落ちる。

 

 すっかり残りわずかになった酒だけの荷物袋を持って家に帰ると、オーガ戦の疲れからか、酒を呑まずに久しぶりに安心して眠りについた。

 

 翌朝、エースのボロボロの家の扉を叩く音で目が覚める。

 

「酔っぱらいおっさんは留守だ」

 

 許可なく扉が空いてマリーが入ってくる。鍵なんて物は村にない。よそ者が来ることはない封建社会の辺境などこんなものだ。

 

「返事してるんだから今日はやっと呑んだくれエースがいるじゃない嘘つき」

 

「酒が抜けてるから酔っぱらいおっさんは留守だ。嘘はついてない。若い乙女はおっさんより若い男を追いかける方いいだろ?とっとと帰れ。呑んだくれエースを相手にしてると村八分にされるぞ」

 

「聞いたのよ」

 

「勝手におっさんが夢見て酒に逃げてるだけだ」

 

 エースは立ち上がり家から、出て行こうとする。

 

「待ってよ、呑んだくれエースはあのオーガ倒したのでしょ?呑んだくれてないで、私にオーガの倒し方教えなさいよ」

 

「呑んだくれるから呑んだくれエースなんだよ。じゃあな」

 

「何よ、冒険者になる私の師匠にしてあげようと思ったのに、酒に溺れてしまえ!」

 

「もう酒に溺れてるぜ」

 

 サムズアップをして魅せ、扉から出るエース仕草はカッコいいが、言ってることは最低なクズでしかもデブである。

 

「なんで家主が出て行くんだ」

 

 エースはマリーに聞こえないぼやきをしながら、ぶらぶらと酒屋の親父が起きるのを待つことにする。

 

「そうだ。盾をまた買わないとな」

 

 予定を変更して雑貨屋にエースは盾を買いに行く。アルコール大好きでも盾が無いと稼げないし命を預ける道具くらいは大切にする。そう次の酒代を稼ぐために盾は必要なのだ。

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