8話 エピローグ おっさんは有名人

 エースはまた狩りに出かけている。そしていつものように行商人が村にやって来た。

 

 そこでマリーはエースについて行商人に質問する。

 

「呑んだくれエースに助けて貰った事あるの?私が呑んだくれエースと結婚するから気になってね」

 

「おお、そりゃめでたい。エースさんと言えばこのあたりで活動する、商人は知ってるさ。何しろ彼を見付けたら助かるからな」

 

「そうなの?知らなかった」

 

「ここじゃ村八分なのも有名な話だからなぁ。助けられたとは言わないさ。でも俺も親父もエースさんに何度も命を救われたぞ」

 

「そうなんだ。エースは自慢の夫ね」

 

「護衛料も減らせるし、助かってるよ。だから行商人はみんなこの村に寄って酒の材料を安く売るのさ。たまには赤字になるけど、エースさんが一番喜ぶのはアルコールだからな」

 

「どこまでも酒なのねぇ。酒に一途過ぎるでしょ」

 

「エースさんだかなぁ。あの人は危ないのにわざわざ、オーガの縄張りの周りを狩り場にしてるのも俺たちのためだろうし。酒がめちゃ好きだけど、いい人なんだよ。全部酒のためって言うけどさ」

 

「もしかして辺境なのに行商人来ることが多いのはエースのおかげなの?」

 

「そうだぞ。エースさんの酒が無くならないようにみんな運ぶんだよ。助けてもらうのは、たまにだけどありがたいし、オーガから守れる実力がこの辺りであるのは、クソ高い冒険者とエースさんだけだからな」

 

「ウッソー!?エースってそんなになの?」

 

「エースさんは何故かオーガに、滅茶苦茶狙われるから俺達は安心して逃げられるんだ。それに倒さないけど、追い払うのはエースさんが一番上手いからな」

 

 それは酒の呑みすぎによる突き出た腹が原因である。荒野では呑んだくれエースは、貴重な脂たっぷりのカロリー元に見えるのだ。

 

 世の中知らないほうが幸せな事もある。常に理由は残念な呑んだくれエースだった。

 

「それは、村中に自慢しなきゃ」

 

 マリーは理由は、どうあれそこら辺の冒険者よりも夫が評価されているのだから嬉しい。

 

「エースさんが評価されるのは嬉しいね」

 

 行商人達にとっても正当な評価がなされることは歓迎である。


 そんな会話がなされた数年後の事である。

 

「呑んだくれエースとマリーちゃんが結婚して子供作るなんて予想出来なかったよ」

 

 マリーは赤ちゃんを背負ってエースの盾を雑貨屋に買いに来ている。おばちゃんは今日も健在で素材を買い取り、盾を売っている。

 

「はぁ、クズの呑んだくれおっさんなのは今も昔も変わらないわよ」

 

「あれで稼ぎが村一なんて信じられないよ。知ってたら私が結婚してたよ」

 

 雑貨屋の店主は、おばちゃんなのでエースと同年代、若い頃に結婚する可能性はあったのだろう。花嫁に親の金を勝手に使った男と結婚したいとは、思わないから仕方ないだろうけども。

 

「稼ぎは今だに全部、盾とボロ酒につぎ込むクズよ。本当に子供が産まれたんだから家族に少しは、使いなさいよ。呑んだくれエースは死ね!」

 

「マリーちゃんは怖いねぇ〜。でも金に全く困ってないじゃない?その髪飾りもプレゼントされてるじゃないか」

 

 初夜の髪飾りはマリーのお気に入りである。本物の金ではないが、嬉しいのだ。

 

「えへへ♪行商とか助けては貰ってるお金が多いだけですよ」

 

 エースが好きなようで幸せがマリーから溢れ出している。そしてエースに毒されたのか、マリーもエースの稼ぎのメインを占める行商人からの護衛?お助け?の代金は稼ぎとみなしていない。

 

「あはは、マリーちゃんが幸せならいいよ」

 

 おばちゃんも愛想笑いするしかない。何しろ金貨150枚も、エースは溜め込んでいた。貰った品物もこっそり行商人に換金していてそれを貯めていたのだ。最近はそのまま、マリーの手に渡しているからクズなりに気を使っている。

 

「盾ありがとうございます。また来ますね」

 

 帰宅したマリーはキレイに修繕された家を掃除して、エースの帰って来るタイミングに合わせてオツマミを作り、少し上等なワインを買って、エースと二人の宴会準備をしてエースの帰りを待っている。

 

 そして帰ってきたエースと宴会をしながら「また稼ぎで酒を買ったの!!死ね!」と言いながら押し倒すのであった。

 

 エースが帰宅した翌朝はカマドの裏を調べる。そこにエースが助けた人からのお礼が置かれるからだ。

 

 今日はセットの指輪を見付ける。奇しくも初夜から3年の節目だ。嬉しさで顔を真っ赤にするほど照れたマリーはエースに強烈な蹴りで起こす。

 

「グェ、マリー手加減をしてくれおっさんは強くないんだ、( ゚∀゚)・∵. グハッ!!」

 

 エースは死にかけてるがマリーはいつもより美味しく、まだ呑んだくれてないエースを朝からいただいた。

 

「後生だから!!まずは朝酒をさせてれー!!」そんなエースの叫びが村に木霊したが誰も気にしない。いつものことだからだ。

 

 村の英雄は今日も尻に敷かれてると、生暖かい目が向けられるだけである。

 

 いつもこんな調子なのだから、きっと二人目もすぐ産まれるの事だろう。

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