第17話 聖女覚醒

ソルドとの戦いは続いた。

俺たちパーティはそれぞれの役割をこなしながらソルドの体力を順調に削っていった。


「後ろ蹴り!ですわ!」


シルシィ自慢の脚力を活かした後ろ蹴り。パワフルな攻撃でソルドにダメージを与える。  


「サンダースラッシュ!」


同じく近距離で攻撃を放つのは皇女アリエス。彼女は王宮で剣を習っていたらしい。


「メテオ!」


マギナは魔法攻撃をヒットさせる。メテオはエクスプロージョンに次ぐ威力を持つ超級魔法だ。


「パラライズ!」


回復魔法を使用する機会のなかったメイアは、補助魔法に徹する。麻痺を付与し、動きを鈍らせてくれた。


「エクスプロージョン!」


そして俺も魔法攻撃を軸に攻撃を行った。


一方のソルドはというと、俺たちの相手をするより街の破壊を優先した。街に向けて暗黒砲をひたすらに撃ちまくる。その結果、イストリアの街は半壊状態となった。


「ソルド、お前の体力もそろそろ限界だろ? 体もボロボロだ」


もう一歩のところでこいつを倒すことができる。


「なるほどなあ。どうやらオレは勘違いしていたみたいだなあ」

「なに?」

「おかしかったんだよ……」


戦いの最中ソルドがそうつぶやく。


「なぜこんなに街を攻撃をしているのに誰一人叫び声を出さねえ?」


それはすでにゲートで避難させているからだ。


「それとてめえの態度も気に食わねえ。こんなにも街を破壊してやったというのに、なぜ動揺をみせねえ?」


それはみんなの命に比べれば街の崩壊など安いものだと思っているからだ。それにこの国には伸び盛りの海の街がある。


「聞いたことがあんだよ。この転移石と同じ効果を持つ魔法……。てめえらすでに人間を別の場所に避難させやがったな! それもさっき冒険者が一斉に街の中に入ったときだ!」


バレてしまったか。それにしてもソルドのやつ急に冴えたな。これも魔族の力というやつか。


「てめえの大切なものをぶっ壊したつもりでいたが、オレは見当違いのものを壊していたみたいだな」


そう言うとソルドは視線を街ではなく彼女たちの方へ向ける。


「まずはてめえだ、マギナ。よくも寝返りやがって!」

「そうはさせるか。やめろお!」


無意識に【挑発】を発動させる。


「そのスキルは通用しないと言ったはずだぜ!」


ソルドがマギナの首根っこを掴む。


「おっとそれ以上近づくなよ? 近づいたら今すぐこいつの首をへし折ってやる!」


ちくしょう、やられた。人質を取られては何もできない。一番最悪のパターンだ。


「は……離してください!」

「喚くんじゃねえ!!」


ソルドは手のひらから黒い縄を生み出し、彼女を拘束した。

その後もソルドは卑劣に人質を使い、俺を除く4人全員をあっけなく拘束した。


「ククク、てめえの大切な仲間を目の前で殺してやる。しっかりと見ておけよ」


ソルドは勝ち誇った顔で笑う。


「ごめんなさいシルディさん。私達がここに残ってしまったから」

「メイアたちは悪くない。悪いのは俺だ」


人質作戦なんてとらないだろうと甘く考えてた。こうなってしまったのは俺の責任だ。

責任を取らなければならない。悔しいがここまでた。俺の負けだ。


「お願いだ! 彼女たちは無関係だ。手を出さないでくれ!!」

「おうおう? 急に弱気になったじゃねえか」


俺の弱点を確信したのかソルドはこれ以上ないニヤけ顔になる。


「俺の負けだ。俺を殺ってくれ。そのかわり彼女たちにはどうか手を出さないでほしい!」


屈辱だが頭を下げて懇願する。


「無様でいいねえ。オレの勝ちってわけだ。それじゃあまずは望み通りてめえからぶっ潰してやるよ。ほら鎧を脱げ。盾も外せよ」


言われた通り鎧を脱ぎ平服姿になる。


「防御のスキルも一切使うなよ? 使ったらどうなるかわかってるよな?」

「ああ。わかっている」


鎧も剥がれ、スキルも使えなくなった。

俺にやつの攻撃を防ぐ手段はなくなった。


「暗黒砲!」

「ぐっ……!!」


痛い。久しぶりにダメージを受けた。


「見れたぞ! シルディの傷がつくところを見れた! クハハハ!」


くそ、そんなに嬉しいのかよ。卑怯な手を使っておいて。


「そんな……シルディさん!」


すまないメイア。どうしようもできない。


「ほら、もっとだ。もっと見せろ!! 暗黒砲!!」


10発、20発と連続で攻撃を受ける。

ああヤバい、意識がなくなってきた。

俺はもうだめなのかもしれない。


「お願いします! もうやめてください! このままじゃシルディさんがぁ……!」

「マスター、しっかりするのですわ、マスター!」

「もういいでしょう、ソルド。どうして貴方はそこまで……」

「いやあああ!! シルディ起きてよ! ねえ!!」


ごめんみんな。不甲斐ないリーダーでごめん。


「黙れ女ども!! ようやくだ! ようやくてめえを殺ることができる!! さあシルディ、これでとどめだ!! 死ねええええええええ!!!」


ああ、終わりだ。こんなやつにやられるなんて。これが最後だなんて未練が残る。


さようなら、みんな。


「いやああああああ!! いかないでええええ!!!」

 

メイアが最後の最後まで叫ぶ。

そのとき彼女から謎の光が放たれた。

その光は俺を包みこむ。

温かくて優しい光だ。痛みが引いていく。


「これは……一体?」


上体を起こすことができた。やはり俺は生きている。

しかし不思議だ。いつも以上に力がみなぎってくる。ただの回復魔法ではない。


「メイア……お前」

「えへへ。私聖女だったみたいです。覚醒しちゃいました」


メイアは振り返るとニコッと笑ってみせた。


「シルディさんには今、聖女の加護の魔法が授けられました。今のシルディさんの攻撃には聖属性が付与されます。あとはお願いしますね」

「ありがとう、聖女様」


ソルドの方へ目線を移す。


「チクショー! よりよって聖女だと!? なぜこのような小娘があああ!! ふざけるなあああ!!」

「これで最後だ。エクスプロージョン・聖!!」

「ぐあああああああああ!!」


魔族と契約を結んだソルドの体には、聖属性の攻撃が効果抜群だった。魔族だったその体は浄化され、やがて人の体を取り戻した。


「オレの……負けだ。本当は……てめえが……羨ましかった。だから……嫌い……だ」


そう言い残してソルドは静かに瞳を閉じた。

そして目を覚ますことは二度となかった。





ソルドを倒した後、ギルドマスターのミコトに今回の被害状況について教えてもらった。

イストリアの街は王宮や冒険者ギルド始め、街の中心部がほぼ壊滅したそうだ。

しかし、犠牲者は0だった。

けが人こそ多く出たが、どれも軽症で命に別状はなかったらしい。とりあえず一安心した。


イストリアの街は、今後他国の協力支援も得ながら復興作業をとり行うそうだ。その間はシー・イストリアが代理都市になるらしい。


そしてソルドの亡骸は俺たちが引き取ることにした。

数日後、岬に彼の墓を立てた。


「ソルドさん、安らかにお眠りくださいね」


メイアが合掌する。


「ほらシルディさんも」 

「わかっている」


亡くなったとはいえ、こいつには酷いことをされたからな。弔うのをためらってしまう。しかし聖女様の目もあるので逆らわず合掌を。

 

「それにしても驚いた。まさかメイアが聖女だったなんてな。今でも信じられない」

「はい。私にも何がなんだかわかりません。ですが自分が聖女になったという感覚だけは確かにあるんですよ」


ほう。それはなんとも不思議だな。


「シルディさん」

「どうした改まって?」

「私、聖女として魔王を倒しにいかなければなりません。突然そんな使命感がでてきたのです」


メイアはまっすぐな瞳でこちらを見つめる。

魔王討伐、これは聖女の宿命なのだろう。


「シルディさんもついてきてくれませんか?」

「もちろんだ。パーティメンバーだからな」


かなり長い旅になると思うが、必ず叶うはずだ。


「魔王のいる魔国領はかなりレベルが高いぞ。本気で攻略するにはそれなりの覚悟が必要だ」

「はい。どんな険しい道だろうと乗り越えてみます!」

「随分と頼もしくなったな」

「そう言われると照れちゃいますね。ですが、聖女になっても私は私ですからね!」

「魔国領攻略には、たくさんの人たちの協力が必要だ。そこで新しい事業を始めよう。イストリア小国を帝国に負けないくらい大きな国にするんだ!」


そのためには俺も覚悟を決めるしかないようだ。

俺はこの国の王になる。

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