第11話 謁見
皇女アリエスの強引な手段によって、王宮まで連れてこられた。イストリア小国に移住し数ヶ月が経過するが、王宮を訪れることになったのは始めてだ。こんな形で訪れることになったのは少し不本意だが。
謁見の間にて。
「ほう。今回は初めて見る客人であるな。アリエスが人を連れてくるとは珍しい」
そう話しかけるのは、玉座に座る金髪の中年くらいの男。つまりこの国の王様だ。そして隣りに座るのが女王様か。娘にそっくりで容姿が整っている。
「冒険者で魔法使いのシルディだ」
「我はイストリア小国が王、名はアデル=イストリアである」
「私は女王のセリス=イストリアです。よろしくねシルディさん」
これが王様か。荘厳な雰囲気があるな。女王様の方はフランクだが。
「それで此度はどのような用で?」
いや俺は特に用はない。用があるのは隣にいるアリエスであって。
「父上、この者を宮廷料理人に迎えたいと存じております」
先ほどと比べると口調がかなり丁寧になっている。おてんば皇女様かと思っていたが、しかるべき教育は受けているらしい。
「待て待て。俺はまだ承諾していない」
「別に良いではないですか。貴方の召してくれたタコ焼き、たいそう美味しうございましたから。オホホ」
くっ、このやろう。憎めないけど憎たらしい。
「宮廷料理人は既に専属のものたちがおる。それにこの者も不本意なように見受けられるが?」
「そうなんだ王様。俺無理やり連れてこられて」
「なるほど。我が娘の勝手な判断か。それはすまなんだ。おい、そのものを解放せよ」
事情を察した王様は玉座を立ち、女王様とともに自室へ戻ろうとする。王様、なんていい人なんだ。
「お待ち下さい父上。これを食べてください! この者が作った料理、タコ焼きでごさいます!」
アリエスが差し出したのはテイクアイトしたタコ焼きだった。
「ほう。いい匂いであるな。だが我の考えは変わらないぞ」
「ええ。承知しております」
「うむ。お前がそこまで言うなら頂こう」
「私もいただきますねー」
王様、女王様がタコ焼きを口にする。
「これは……旨いのである!! どの宮廷料理人にもできない味である!!」
「味も食感も完璧ね。食べやすいし斬新な料理だわ。私この子採用したいわ〜」
国王夫妻にまで気に入ってもらえるのは素直に嬉しい。
そして気に入られたということは。
「我、考えが変わった。冒険者シルディよ、我が国の宮廷料理人になってもらえぬか?」
王様が真剣な表情でそう提案してきた。王様は本気らしい。
「少し考えさせてくれ」
これはチャンスかもしれはい。
もしここで王様たちの支援が受けられれば、イストリア海の繁盛に大きく近づくのではないだろうか。
これは交渉の余地がありそうだな。
「条件付きでどうだろうか?」
「聞こうではないか」
「俺たちはあそこをもっと賑やかな場所にしたいと考えている。資金の提供を始め、インフラの整備、市民への呼びかけ等諸々の協力をしてくれるなら、宮廷料理人として雇われよう」
さすがに色々と要求しすぎたか。果たして王様はオーケーを出してくれるだろうか。
「……いいだろう。賛成なのである!」
「私も賛成ですよ。いくらでも払います」
よかった。交渉成立だ。
「それでは冒険者シルディ、貴殿をイストリア小国の宮廷料理人に任命する」
結局宮廷料理人になってしまった。きっとアリエスも内心ほくそ笑んでいることたろう。
彼女の思惑通りになってしまったが、仕方ないか。
◆
「ゲート!」
さて、王宮での用事が済んだので、自宅へ帰ろう。
メイアもシルシィも心配していることだろうしな。
「メイア、シルシィ。心配かけてすまなかった。今帰ったぞ」
そう言いながら屋敷の門をくぐる。
「宮廷料理人に雇われてしまった。明日から少し忙しくなるかもしれない。海の食堂のことは二人に任せたい」
あれ、返事がないぞ? 留守か。
「おーい、二人とも――」
「ようやく見つけたぜ。久しぶりだなあ、シルディ」
背後からかけられた声。それは懐かしい声だった。俺を出迎えたのはメイアでもシルディでもなかった。
かつて冒険をともにした元仲間たち。元Sランクパーティ《黄金の竜》のメンバーたちだった。
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