第12話 戻ってきてと言われても
元Sランクパーティ《黄金の竜》が屋敷を訪れてきた。
「ここは辺境の国だ。お前たちのような高ランクのパーティが来るところではないと思うんだが」
ヒーラーのキュアン、魔法使いのマギナ、弓使いのアーチェ、そしてリーダーの剣士ソルド。4人とも息災だな。
「お前を探してたに決まってんだろ!」
強い口調を放つソルド。
クエストで偶然通りかかったとかそういうのではなく、俺が目的だったか。
「街の人たちから聞きました。海で商売を営んでいるそうですね。それもかなり軌道に乗っているようで」
なるほど。そのことまで知られていたか。さすがはマギナ、情報が早い。
「単刀直入に要件を伝えます。貴方に黄金の竜へ戻ってきていただきたいのです。お願いします。どうか、このとおりです」
マギナが深々とお辞儀をした。
「お前たちのパーティに戻れだと?」
何を今更。理不尽な理由で追放したのはそっちじゃないか。 それをどの面下げて来ているんだ。
「おこがましいことは重々承知している」
変わって弓使いアーチェが語り始める。
「君を追放してから次の穴が埋まらなくてね。僕たちはAランクに降格したよ」
魔国領のモンスター、特に親玉のレベルは高いからな。Aランクに降格したことはミコトから聞いていたが、やはりそういう理由だったか。
「君を追放したこと後悔している。ごめん!!」
アーチェも俺に向かって深々と頭を下げる。心から謝っているように見えた。彼は昔から真面目な人間だったからな。
「君がいないと魔国領を……魔王を討伐することはかなわない。このままでは僕たち人界の人間に平和が訪れる未来は来ない」
「アンタがいないと私たち何もできないの! アンタがずっと無傷だったのは優秀だったからって気づいたわ。それなのにサボリって決めつけちゃってごめんなさい! あのときのアタシたちはどうかしてた。だから……反省してるからお願い……」
アーチェに続き、キュアンも涙ながらにすがってきた。
「私達が間違っていました。どうか再加入をお願いします。もう二度と同じ過ちは繰り返しません。ですから……」
こんなに必死にお願いされると、心が揺れ動いてしまいそうだ。だが全員が本当にそう思ってくれているのだろうか。
「みんなの気持ちはよくわかった。謝ってくれてありがとう。でもみんなの期待には答えられそうにない」
「そんな……」
「悪いなマギナ。俺にはこの国で守らなければならない人たちがたくさんできた。今更戻ってきてくれと言われても……もう遅い」
俺はもうこの国で生きていくと決めた。お互いのためにも、もうこれ以上関わり合わない方がいい。
「せっかく来てくれたのに悪いな。手ぶらで帰らせるのもアレだから土産を――」
「あっ! シルディさん帰ってたんですねー」
買い物袋を両手にメイアとシルシィが帰ってきた。よりによってこんな面倒なタイミングで。
「マスター、この人たちは誰なのでしょうか?」
「シルシィか。彼らは元パーティメンバーたちだ」
「へえ。それよりも今日はカニなのですわ!」
「それは楽しみだ!」
「先戻ってシルシィちゃんと作っておきますからねー」
「わかったメイア。あとで行く」
とんだ乱入だったがこの修羅場にあの二人を関わらせるわけにはいかないからな。
「あの人たちが今の君にとっての大切な人なんだね」
「そうだアーチェ。悪かったな、話の腰を折ってしまって」
「いいんだよ、もう」
軽く謝っておく。
「……じゃねえ」
ん?
「……ふざけんじゃねええ!!」
ソルドから放たれる怒声。
「せっかくオレたちがこうして頭下げにきたってのに何平気な顔して断ってんだよ!!」
逆ギレ、どうやらそっちがお前の本心のようだな。ならなおさら断って正解だった。
「お前がいなくなったあとオレたちがどんな思いしてたのかわかってんのか!!」
「そんなものわかるはずがないだろう」
「新しく雇ったタンクはグズしかこねえ。おかげで帝王様に叱責を受けAランクに落とされた。全然上手くいかなくて腹が立って仕方ねえんだよ!」
そういいながらソルドは地団駄を踏む。
「いいか? そもそもオレはてめえを呼び戻すことに反対だった。ここまで来たのはこの三人が連れ戻したいとうるさかったからだ」
やはりそうだったか。その可能性はあると思ってみんなの話を聞いていた。
「それにだ!! あんなかわいい女たちと一緒に呑気に暮らしやがって!! そうやって楽そうにしてんのが何よりもムカつくんだよ!! オレたちがこんなにも苦労してるってのに」
「なるほど。やはりお前はそういうやつだったか。いつまでも他人の幸せを許すことができない心の狭いやつだな」
その心の狭さが、苦労することを美徳としている《黄金の竜》を作り上げた。どうやら今も変わってないらしい。
「もう帰ってくれ」
もう俺が戻ることはないってわかったはずだ。これ以上ここにとどまっても争いしか生まない。
「そ、そうですね。みなさん帰りましょう」
「落ち着こうソルド。彼に会う資格は僕たちにはなくなった。僕たちは帰るべきだ」
マギナとアーチェがなんとかその場を収めようとする。この二人は昔からまともだった。多分俺を追放したときもソルドに誑かされてたのだろう。
「シルディ、最後に1つだけ言っておく。てめえが憎くて仕方ねえ。このままで済むと思うなよ。オレは……」
そんな捨てゼリフを吐きながら《黄金の竜》は屋敷を去った。
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