第9話 海の家、開業②
海の食堂にメイア、シルシィを集合させた。明日の開業に向けての最後の打ち合わせである。
「とまあ作り方はこんな感じだ。食べてみてくれ」
どうだ。うまいか?
「こ、これは!? 美味しいですっ!!」
「美味ですわ〜!! 頬が落ちるのですわ〜!!」
良かった。喜んでくれた。
「一口サイズなのもいいですよね。お手軽です!」
「つまようじで食べられるのもポイントが高いのですわ!」
味以外の点も文句なしのようだ。
「これは売れますよ」
「わたくしもそう思いますわ」
すごい絶賛してくれる。ありがたい。ここまで頑張った甲斐がある。もういっそのこと売上なんてどうでもいい。この二人が喜んでくれるのなら。
「まずイストリア海へのアクセスだが。30分に1回、俺がゲートを出す」
馬車で3日もかかるようなところに、わざわざ一般市民が足を運んでくれるわけがない。なので30分に一度、冒険者ギルドをゲートで繋ぐ。
以前までは2時間に一度しか使えないゲートだったが、合間の鍛錬を重ねてきたことで30分に一度使えるようになっていた。
「接客はメイアとシルシィに任せる。調理は俺が行う。それじゃあ明日はみんなで頑張ろう!」
「「おお〜!!」」
◆
諸々の準備が整い、いよいよ海の食堂開店のときを迎える。
果たしてチラシを見てくれた人のどのくらいの人が来てくれるのだろうか。チラシには12時に冒険者ギルドの入口に集合と記載したが。
「20人。そこそこだな」
初日だしこのくらいの人数が妥当だな。
「妾も参加するぞ」
ミコトの姿を見るのも久しぶりだ。どうやらギルドマスターも海の食堂に興味があるらしい。
「イストリア海・海の食堂ツアーへご参加いただきありがとうございます。イストリア海はキレイな海になりました。海を楽しみながら、食事をご堪能ください。それではこれよりご案内いたします。シルディさん、お願いします」
「ゲート!」
ゲートを開きイストリア海へ移動する。俺たちの後ろを市民たちが続いた。
「ここがあの暗黒の海と呼ばれたイストリア海だって!? めちゃ青くなってるじゃん!?」
「なんてキレイな海なのかしら!?」
イストリア海の変貌に市民たちはあっけにとられている。
「海の食堂はこちらですよー」
海に見とれる市民に対し、メイアが手を振りながら呼びかける。
「おおー。いい匂いがするのじゃ〜」
ミコトが一番目に並ぶ。
そして受付をするのがメイアだ。ニコニコの笑顔で接客してくれている。
「タコ焼き8個を頼むのじゃ。マヨ抜きで」
「はい、ありがとうございます! 銅貨10枚です」
銅貨10枚。つまり銀貨0.1枚分だ。かなりお安い値段だ。
もっと値段を釣り上げれば良いと言ったが、お客様一番ということでメイアに却下された。メイアのやつ意外と頑固なところがあるからな。
「シルディさん。タコ焼き8個、マヨ抜きです」
「わかった」
淡々と調理を進める。ピックの使い方も手慣れてきた。
「はいどうぞ」
「おお!! こんな旨いもの食ったことがない。絶品なのじゃ!」
あまりの旨さにギルドマスターも唸らずにはいられないようだな。
ミコトの絶賛する姿を見て、後ろに並ぶ住民たちが次々と注文しはじめる。
「ペースが早すぎる。急いで作らなければ」
厨房も大変な仕事だな。
そんなことを思いつつもなんとか今日来てくれた20人分のタコ焼きを完成させる。人手不足が甚だしい。明日からはシルシィも厨房に追加だな。
しかし、やりがいは十分にある。自分の作った料理を食べながら海を堪能している人たちの姿を見ると、嬉しい気持ちになってくる。
「あの。少し聞きたいことが」
一通りの調理を終え感傷に浸っていると、ネコ耳獣人のお姉さんが話しかけてきた。
「どうかしたのか?」
「このタコ焼きという料理。とても美味しかったです。これを街に持ち帰ることはできるのでしょうか?」
テイクアウトを希望しているようだ。
「かまわない」
「ホントですか! ありがとうございます。実は病気の娘に食べさせてあげたくて」
「そういうことか。これを食べて元気になってくれるといいな」
そう言いながら、袋に包装したタコ焼き8個をお姉さんに渡した。
その後も海の食堂は日々客数を伸ばしていった。
テイクアウトも好評で新規の客が増えるのはもちろん、常連となる客も獲得した。
しまいには食堂では飽き足らず、丸一日海で遊ぶ者も現れたのは想定外だった。
そうして海の食堂は知る人ぞ知る隠れた名店へと成長していったのだった。
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