第8話 海の家、開業①
安定した収入は大事だ。収入元は多ければ多いほどよい。
そこでクエストをこなすだけでなく、商業にも手をつけることにした。
「開業がしたいんだ」
屋敷にて。夕食の食卓を囲みながら、メイアとシルシィに向けてそう提案する。
「なんですって!?」
あわや口に入れているものを吹き出しかけるメイア。
「イストリア海もキレイになったことだし、安定した魚類を収穫できると考えた」
あそこが浄化されたことをこの国の人たちはまだ知らない。手をつけるなら早い方がいい。
「なるほど。確かにこの国では漁業の競争相手がほとんどいませんが……。はい、大丈夫です」
「わたくしも賛成ですわ」
よし、ふたりとも異存はないようだな。
「それでは早速事業について考えたいと思う。みんなで案を出し合わないか?」
「いいですよ」
「もちろん協力しますわ」
まずは言い出しっぺの俺が言うべきだな。
「俺は魚介類の卸売が一番無難だと考える。収穫した魚をゲートで市場へ産地直送するんだ。間違いなく需要が出る」
漁業が発展途上のこの国だからこそなせる作戦だ。爆発力はないが、絶対的な安定性がある。
「これってなんでも言って大丈夫ですか?」
「ああ問題ない。メイア」
「それでは私はイストリア海にリゾート地を建てたいですね。みんなで海を楽しむのもありかなと」
ほお。面白いアイデアだな。俺たちだけで独占するのではなく、みんなと協力するという視点か。
確かに今のイストリア海はリゾート地としての適性は十分高いと思う。一発あたったらデカい。安定性はないが、爆発力がある。俺の提案とは真逆のタイプだ。
「シルシィはどうだ?」
「わたくしはマスターに賛成ですわ」
やっぱりそうなるか。
「気を使って賛成しなくても大丈夫だ、シルシィ。シルシィの思っている意見を聞きたい」
ここは意見を出す場所だからな。
「わかりました。わたくしは食べ物のお店を出したいですわ。ブラックオクトパスが美味でしたので」
飲食店ときたか。なかなかいいアイデアだ。確かにあのブラックオクトパスは美味だった。
二人とも俺よりも断然良い案だ。二人の意見を合体させよう。
「メイアとシルシィの案を採用しよう。ブラックオクトパスを使った食堂を作ってイストリア海を繁盛させる。これでいいか?」
ふたりとも首を縦に振る。
「あと店の名前だが。シンプルに《海の食堂》でいいいか?」
「はい、問題ないのですわ!」
そういうわけで《海の食堂》設立に向けた計画が始動するのだった。
◆
食堂を開業するにあたって俺たち3人は働き始めた。
シルシィには食堂の建設をお願いした。馬娘のシルシィは力持ちで体力もあるので、テキパキと建築作業を進めていった。
メイアには店の宣伝と、回復魔法を使ったシルシィの体力支援をお願いした。
そして俺はブラックオクトパスを使った新料理の研究開発を担当することに。
「海の食堂、完成しましたわ!」
「私もチラシの配布終わりました!」
始動から1ヶ月が経過し、メイアとシルシィの方の作業が完了する。イストリア海に屋台のお店が一軒できあがり、あとは新料理と客を待つだけ。
だが、申し訳ないことに俺の作業が難航してしまっている。
「タコを活かした斬新な食べ物……思いつかない」
バカみたいな話だが、この1ヶ月の間俺はブラックオクトパスのことしか考えてなかった。しかし良いアイデアが浮かんでくる気配はない。
「私たちは急いでいませんよ。シルディさん。ゆっくりと考えてくださいね」
「こういときは気分転換ですわ。そこの砂浜にエクスプロージョンを放つとスッキリするのですわ」
「……エクスプロージョン!!」
ストレス発散にエクスプロージョンを撃つ。すると当然、砂浜にクレーターが出来上がる。
「クレーター……半球……球体……。これだ!!」
シルシィの助言のおかげでひらめいた。
早速屋敷に戻って魔法書を漁る。使えそうな魔法は……。
「変型魔法、デフォメーション。こいつだな」
物体の形を変形させる上級クラスの魔法。
俺はこれを覚えることにした。
そして一週間後、無事習得した。
「それでは試すとするか」
俺は市場で購入した分厚めの鉄板に対して、変形魔法をかける。ピンポン球大のクレーターが複数出来上がった。
「よし。これで機材の完成だ!」
どうやら山場は超えたようだ。
ここから先はスムーズに作業が進んだ。
「このクレーターに小麦粉をベースとした生地を流し込んでっと……」
そうして完成した新料理の名をタコ焼きと呼ぶことにした。
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