第7話 海のクエスト②

イストリア小国は山を中心とした国である。

一応小さな海域もあるのだが国の外れにある。そのためめったに人の寄り付かない寂れた場所になっている。


「なんて殺風景な海なんだ」


イストリア海に到着し、一番に抱いた印象がそれだった。何もない砂浜、黒い海。港町すらない。


「海のある国なのにもったいない」

「そうですね。イストリアは農業が盛んのようです。漁業はほとんど行われてないみたいです」


国によって様々な特徴があるわけだしな。


「そういえばせっかくの海なので、私少し用意してきまして」


メイアはシルシィを連れて近くにあった岩陰の裏に隠れる。そしてしばらくしてから水着を召した二人が戻ってきた。


「どうです、似合ってますか?」


白ビキニ姿のメイア。ここまで肌を露出させている彼女は始めて見た。プルンとした胸の谷間もしっかりと目に焼き付けておく。それにしてもキレイな肌だ。


「似合っているな」

「ちょっと……そんなにジロジロ見ないでくださいよ……恥ずかしい」

「ああ、すまない」


恥ずかしそうにしているのであまり見ないようにする。


「露骨に目を逸らされると、それはそれで嫌です」


くっ、こいつ。思ったより面倒くさい女だな。


「マスター。わたくしの方も見てください」


おお、シルバーシップか――


「でかっ!」


色々とでかい。


「私も驚きました。Gカップくらいありますね。私でEカップですから」


貴重な情報ありがとう。きちんと記憶しておく。


「さて、クエストを始めるとするか」





「この海。あまりにも黒すぎる!」


何故この海に人が寄り付かなくなったのか。もう一つの理由がわかった。それがこの黒すぎる海だ。


「これはブラックオクトパスの墨ですね」

「そのようだな」


この海はブラックオクトパスの大量の群れに占拠されてしまっている。そのせいで他の魚の生態系も崩壊している。


「長年国から放置され続けてきた結果か」


5匹討伐する程度では何にもならない。数百匹は蔓延っているのではなかろうか。


「とりあえずやるしかないみたいだな」


さすがに水中で戦うわけにはいかないので、陸に引き上げる必要がある。そこで俺は海に向かってエクスプロージョンを放つ。


「シャー!!」


攻撃されたと認識したブラックオクトパスが鳴き声とともに陸に上がってきた。数はちょうど5匹だ。


「平均1メートル。結構サイズあるな」


タコにしては大きい。そして陸でも呼吸ができるらしい。


「二人とも聞いてくれ。エクスプロージョンにはインターバルがある。次の発射まで5分かかる。だから協力してほしい」


そう。実はこれがエクスプロージョンの弱点だったりする。


「え、私たちが戦うのですか!?」


メイアが不安そうな素振りを見せる。


「安心しろ。攻撃は俺が引きつける」


これでも元盾職だ。俺は【挑発】を使い5匹の攻撃のヘイトをこちちへ誘導する。


「なに!? 聞かないだと!?」


下級のモンスターなのに俺の【挑発】が無視されてしまった。


「いやあああ!! 来ないでくださいいい!! あはは、くすぐったいです!!」

「くっ、辞めるのですわ。下劣なタコですわね!!」


このスキルを無視するほどに彼らが執着したもの。それはメイアとシルシィの身体。8本の触手で彼女らにまとわりつく。どうやらブラックオクトパスは女の人の体が好物らしい。

このままではメイアとシルシィが危険だ。早く助けなければ。


盾突きシールドバッシュ!」


盾突きを駆使し、なんとか追い払った。そしてインターバルの5分が経過したところでエクスプロージョンを発射し、目標の5体討伐を完了させた。



クエストが完了したので帰還しようと思う。

行きは3日とかかったが、帰りは早い。なぜなら転移魔法、ゲートがあるからだ。


「転移魔法、使うんですね?」

「そのとおりだメイア。早く帰りたいからな。シルシィもそれで問題ないよな?」

「はい。わたくしマスターの意向にはすべて従いますので」


屋敷の敷地内でしか試したことのないゲート。遠い所で使うのは始めてだ。果たして上手く行ってくれるだろうか。

転移先のイメージを膨らませ、魔法を発動させる。


「ゲート!!」


何もない空間から大きな扉が現れる。扉を開けた先には、俺たちの家の景色が映っていた。


「成功のようだな」


ゲートで自宅に帰宅した。





「なんと! たったの3日で帰ってきたのか!!」

 

冒険者ギルドへ報告すると、ギルドマスターのミコトが口をあんぐりとさせていた。


「6日かかるはずのクエストをその半分で。さすがはシルディさんです」


メイアも褒めてくれている。


「それでは報酬金を頂こう」


受付嬢から銀貨50枚。つまり半月分の生活費をもらう。


「次はもっと早いぞ」


そう言うと俺は再び同じクエストの張り紙を渡し受注する。

転移先のイストリア海をイメージして。


「ゲート!!」


よし、今度も成功だ。


「待つのじゃそなた! イストリア海がそこに見えるのじゃ! どういうことじゃ!!」

「ゲートで結んだ」

「はああああああ!?」


ミコトがひっくり返る。


「それじゃあまた行ってくるから。今度は2時間くらいで帰る」


本当は連発できたら理想だが、ゲートにもインターバルが存在する。2時間に一度しか使えない。


ニ時間後。


「ただいま。クエスト完了だ。報酬金をくれ」

「うぎゃあああああ!!!」


ミコトが崩壊する。


「どうした、俺に存分に働いてもらいたいんじゃなかったのか?」

「それとこれとは訳がちがうわああ!!」


まあ今日のところはこれくらいにしてやろう。

この3日で銀貨100枚、つまり金貨1枚を獲得だ。





何もかも効率が大事。

それからというもの、俺たちは毎日ひたすらタコ狩り漁業に勤しんだ。1日2回を目処にブラックオクトパスのクエストを受注した。雨の日も風の日も雷の日も。

そんなこんなで1ヶ月。俺たちは金貨30枚を得ることができた。1ヶ月の生活費が金貨1枚ということを考えるとかなり繁盛したのではないかと思う。クエスト完了を報告するたび、受付嬢とミコトが泡を吹いていたのもいい思い出だ。


「あれ? 海がだんだん……」


墨のせいで真っ黒だったイストリア海が次第に青さを取り戻しつつあったのだ。


「ブラックオクトパス、狩り過ぎましたね」

「メイア様の言うとおりですわ。1日10匹。1ヶ月で300匹。ブラックオクトパスの群れはほぼ壊滅状態ですわ」


シルシィのやつ馬なのに算数ができるのか。やはり聡明なやつだな。


「でも海が元通りに戻ってよかったですね。シルディさん」

「ああ」


キレイになったとはいえ、国の辺境地にあることは変わらない。海がキレイになっただけでは、この辺りが栄えることはない。


「このタコ美味しいのですわ!!」


討伐したブラックオクトパスを火に炙って食べ始めるシルシィ。


「マスターもどうぞ」

「あ、ああ。いただきます」


確かに旨い。


「ん? 待てよ?」


イストリアは農業が盛んな国。魚介類は貴重とされている。もしここで俺たちが漁業を始めたら――?

金の匂いがプンプンしてきた。


よし、次は店を開こう。

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