第6話 海のクエスト①
冒険者ギルドにやってきた。
転職してから一度も顔を出してなかったので、2ヶ月ぶりになる。
「クエストを受けにきた」
「あ、シルディさん。お久しぶりですね」
どうやら受付嬢さんは俺の顔を覚えてくれていたらしい。
「ミコト様が怒られてましたよ」
え、ギルドマスターが? 俺なんか悪いことしたか?
「ミコト様〜。シルディさんが来ましたよー」
怒ってるのに何故呼んだ。
「ごめんなさい。ミコト様の言いつけでして」
それはご苦労なことだ。
「見つけたぞシルディ! そなたそれだけの実力がありながら全く働かんからに〜!」
2階の階段から降りてきたミコトが剣幕を立てながらこちらへやってくる。どうやらこの2ヶ月の間、全くクエストを受けなかったことに怒っているみたいだ。
「俺を利用してギルドの地位を上げようとしているようだが、俺は好きなように生きさせてもらう」
「ちっ。まあ好きなようにするが良いわ」
「お言葉に甘えてそうさせてもらう」
「そういえばそなたのことは調べがついた。最強と謳われていた元Sランクパーティ《黄金の竜》の一員だったそうじゃな!」
身元を調べられたか。
いや、そんなことよりも――
「元……だと?」
俺がいたときはSランクだったはずだ。この2ヶ月で一体なにがあった?
「黄金の竜ですって!?」
メイアが驚きを見せる。
「どうしたメイア。俺言ってなかった?」
「言ってないですよ。黄金の竜といえば、魔王攻略の最前線にたっている最強のパーティですよね」
へえ。世間ではそういう風にうつっていたのか。だが実際は苦労することが偉いという風潮を持った前時代的なパーティだぞ。
「まさかそんなところに属していた人が私の師匠になるだなんて……光栄です!」
「やめてくれ。昔のことは関係ない。今はこのイストリアの一般市民だ」
「どこが一般市民じゃ、たわけ」
それにしてもあの黄金の竜がそんなことに。
「元ってことはパーティランクが下がったとい認識であってるか?」
「そうじゃ。Aランクに落ち魔国領の攻略を降ろされたと聞いた」
あちゃー。それは気の毒に。今となっては他人事だが。
「昔の仕事場がどうなろうが関係ない。それよりもクエストを受けたいのだが」
「ほお。やっとその気になってくれたか! それでどれを受けてくれるのじゃ? Bランクか! それともAランクかあ!?」
ちょ、顔が近い。嬉しいのはわかるけど。それにそんな高いレベルのクエストは受けない。
俺が受けたいのは――。
掲示板に並べられているクエストの張り紙を一通り確認する。
「これにしよう」
そう言って受付嬢に差し出したのはDランククエスト、【ブラックオクトパス5体の討伐】だ。場所は東にあるイストリア海。報酬は銀貨50枚、つまり金貨0.5枚分だ。
「なんじゃ。Dランクか」
ガックリ肩を落とすミコト。
「ん、まて? 遠征クエストではないか!? ここから馬車でも3日はかかる海じゃぞ」
「だからいいんだ」
「よくわからんやつよの」
このクエストを一番に選んだ理由は、対象場所が最も遠いクエストだったからだ。海だしゲートの転移先にぴったりだと思う。ワープ地点を開拓することが今回の目的だ。
「はい受注完了しました。遠征クエストなので通常より報酬金は多く、銀貨50枚となってます」
「わかった。それでは行ってくる」
◆
出発の前に確認しておきたいことがある。
屋敷の馬小屋にいる白馬シルバーシップのもとへ。
「これから東の海へクエストなんだ。馬車で3日かかるところだ。お前にも手伝ってほしいと思ってる」
「……ヒヒーン!」
「ヒヒーンじゃわからなくてな。俺はお前の思っていることを聞きたい」
俺たちを運ぶことが苦痛なのか、そうではないのか。それを確認するために今から擬人化魔法、パーソナルをかける。
「パーソナル!」
魔法を浴びたシルバーシップは女性の姿に変身した。
「わああ!! シルバーシップちゃんが女の子に!」
メイアも興奮せずにはいられないでいる。
「ありがとうございます。マスターとお話できるのは初めてですわ」
髪の色は名前通り白銀色。年は15くらいか。背が高い。大柄の俺と肩を並べるくらいだ。そして胸も尻も太もも、あらゆるところがビッグだ。
馬耳と尻尾は残っているので、人というよりは馬娘? どちらかといえば獣人に近い。
「そうだな。お前とこうして言葉を交わせることが嬉しい」
「お前呼びはやめて欲しいのですわ」
「え?」
「わたくしの名はシルバーシップ。長いのでシルシィとお呼びください」
「気をつけるよシルシィ」
それにしても体がデカい割にお嬢様のような雰囲気があるな。
「私はメイア。これからも仲良くしましょうねシルシィちゃん」
「はい。メイア様。毎日ニンジンと馬小屋の手入れをありがとうございます」
「ちゃんと見ててくれたんだ。嬉しいな」
この2ヶ月間、家事はメイアに任せっきりだったから面目ない。
「もちろんマスターにも感謝していますわ。わたくしを飼って頂いたときから」
「こちらも感謝している」
「わたくし、マスターのためならなんでもしますわ」
「ははっ、それは頼もしい」
まったく面白い冗談もできるみたいだな。
「それじゃあ一つ聞くが、俺たちを馬車で運ぶのは苦痛か?」
もし苦痛なのであれば徒歩で海まで行く。
「いえ。楽しいですわ。マスターの手綱裁きは上手ですので」
「それなら良かった。今から東の海まで行こうと思っている。乗せていってくれるか?」
「よろこんでですわ」
そうして俺たちはシルシィの引く馬車に乗り、東の海へ向かった。
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