第4話 転職②
特別試験としてギルドマスターと決闘することになってしまった。
「ルールは簡単。どちらかが戦闘不能になるかギブアップをするまで戦うのじゃ」
「もし勝てなければ転職試験は不合格になのでしょうか?」
俺の後ろで待機しているメイアが質問する。良い質問だ。それは俺も気になってた。
「安心せい娘よ。超級魔法が使えるそやつを不合格になぞせん。ただの妾の好奇心じゃ」
よかった。それなら安心だ。
「だからといって手を抜くのは許さぬぞ」
そう念押しするようにこちらを見る。
「それはわかっている」
「ホントか〜? それなら本気を出してもらうために。もし妾を倒すことができたなら、1つ褒美をくれてやろう」
それはありがたい。俄然やる気が出てきたぞ。
「ほれ、欲しいもの言ってみい?」
「そうだな。住むところがほしい」
家があれば魔法の研究がはかどるからな。
「承知した。それではゆくぞ」
ミコトは刀を鞘から抜き出す。
「中級刀技、薔薇ノ舞!!」
流れるような刀捌きによる10連撃。中級クラスの技か。魔国領で戦ってきたモンスターの攻撃はほとんど上級クラスだった。それに比べると劣る。
「妾の刀がせんじゃと!? 傷一つつかないなんて信じられん」
刀を弾かれたミコトは唖然とする。
「悪いが防御力には自信がある」
「ならばこれでどうじゃ。属性魔法を付与する。中級刀技、椿ノ舞・炎!」
魔法刀による攻撃か。悪いがそこらの物理防御特化のゴリラタンクと一緒にしないでほしい。魔法耐性も抜かりなく鍛えている。物理耐性、魔法耐性ともにSランクだ。
「魔法刀も効かぬじゃと!? ありえん!?」
「こちらからもいかせてもらうぞ。
超級魔法のエクスプロージョンでは大怪我させるかもしれないので、あえて中級スキルの盾突きで反撃する。
「今のを避けるか。さすがはギルドマスターだ」
「抜かせ。妾相手なら超級魔法を使う必要もないと判断したな、妾も舐められたものじゃ! さっきの魔法を使ってくるのじゃ!」
その様子だと遠慮はいらないみたいだな。ならば望み通り魔法を使わせてもらう。
「エクスプロージョン!」
「んああっ……しびれる! 素晴らしい! これが超級魔法の力なのじゃ……な……!」
満足そうにダメージを受けながらミコトは戦闘不能となった。
◆
「ほれ、ここじゃよ」
ミコトとの試合に勝ったので、約束通り空き家をもらうことに。紹介された屋敷は住宅地とは離れた街のはずれにポツンと建っていた。
「わあ、かなり広いですね!」
メイアも驚きの広さだ。手入れが大変そうだけど。
「屋敷の大きさと庭の広さは自慢なのじゃが、いかんせん街から遠いのが難点でな。申し訳ないの」
謝る必要などどこにある。むしろ感謝しかない。すごく静かで研究が捗りそうだ。それに近所付き合いの煩わしさがないのもポイントが高い。
「本当は何枚で売ってたんだ?」
「金貨150枚じゃ」
たかっ。退職金を全部つぎ込んでも払えない額だ。こんな豪邸をタダでもらって良いのだろうか。
「今回のところは1/3の値段、50枚で良いぞ」
「え、無料ではないのか?」
「たわけ! さすがにタダで与えられる値段ではないわ! それにタダでくれてやるなど一言も言っておらん」
そりゃそうか。さすがにタダで貰おうなんてむしの良すぎる話だ。いやむしろ無料で提供される方が何か訳あり何じゃないかって疑ってしまう。
金貨50枚、現在の所持金が52枚。よし、ギリギリ足りる。
「いいだろう。買わせてもらう」
「交渉成立じゃな」
金貨50枚を支払い、手持ちの残りは2枚になってしまった。これはすぐにでも金策が必要だな。
「これからはギルドのために馬車馬のように働くのじゃな、ふふふ」
なるほど、俺を使って国の利益を上げようという魂胆か。家を持ってしまえばそう簡単に引っ越すことができなくなる。さては俺をこの街に縛る作戦だったのか。といっても俺も元よりこの街を離れるつもりはないのでウィンウィンだけどな。
「シルディさん見てください、馬小屋もついています。これならシルバーシップさんの心配もいりませんね」
当面の間厩舎に預けておく予定だったがその必要もなくなったみたいだな。シルバーシップに関してはあとで厩舎へ引き取りに行こう。
「それでは妾はギルドに戻るとしようかの。あとは若いもの同士二人で好きにするのじゃな。二人きりで、な?」
ちょっと言い方。そんないかがわしいことなど期待していない。メイアは大事なパーティメンバーだ。
「やめてくださいよミコトさん。そ、それはまだ早すぎます」
え? まだだと?
うん、今のは聞かなかったことにしよう。
「あ、いました。シルディさん!」
ギルドの受付嬢が慌てた様子でやってきた。
「まだ転職試験は終わっていません! 適性試験が残っていますので」
あ、そういえば。ミコトの特別試験のせいでうっかり忘れてた。隣のメイアもミコトも同じような反応を見せている。
「仕方ないので今回は特別にここで適正を測らせてもらいます」
そう言うと彼女は鞄の中派から2つの水晶を取り出す。
「魔法使いへの転職ですので、魔力と魔法適正を測定しますね」
魔力とは魔法を発動するための精神エネルギーみたいなものだ。体力の魔法版といった感じか。
魔法適正とは魔法のセンス、魔法の覚えやすさをさす指標だ。
ちなみに盾職一本でやってきたので、魔法の適性を測るのはこれが始めてだ。
「まずは魔法適正から測りますね。この水晶に触れてください。するとF、E、D、C、B、A、Sのいずれかの文字が浮かび上がってきます。それがあなたの適性ランクになります」
受付嬢の軽い説明が終わると、俺は水晶に触れる。
「S……か」
超級魔法を会得できた時点でAくらいあるんじゃないかと思ってたが、予想を上回ってたか。会得するのに1ヶ月しかかからなったのは実はすごいことだったんだな。
「それは皆さん予想できてましたね」
メイアが淡々と口にする。誰も慌てたり驚いたりすることはない。もう驚き慣れたって感じだな。
「続けて魔力を測定します」
「S……だと」
まさか魔法適正だけでなく魔力も最高ランクとは。
ずっと天職は盾職だと思っていたがこっちだったか。
「魔法適性だけでなく魔力もSランクとは。全くわんけのわからんやつじゃな!」
「さすがですねシルディさん!」
もはやここまで来ると呆れられてもおかしくないレベルだ。
「もちろん合格とさせていただきます。あなたの魔法職への転職を認められました」
やった。合格だ。
「冒険者シルディさん、これからのあなたの魔法使いとしての活躍、楽しみにしています!」
盾職としての一度目の人生は修理した。
これからは魔法職としての二度目の人生を送ろう。
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