第3話 転職①
辺境の国、イストリア小国に到着した。
厩舎に荷馬車を預け、メリアの案内のもと街の中を歩く。
「エルフにドワーフ、獣人までいるんだな」
辺境国とはいえ人種は様々のようだ。
「それでは街の施設を案内しますね。私についてきてください」
「ああ任せた」
メイアの後をついていく。
武器屋、防具屋、病院、公園、広場、市場、宿屋の順に見て回る。生活するために必要最低限の施設は揃っていそうだ。それぞれの場所を頭の中にしっかりとインプットする。
「ええっ!? シルディさんって魔法使いではなかったのですか」
「そうだ。この鎧が重騎士である何よりもの証だ」
「わあ、すっごく硬そう……。あんなに凄い魔法が使えるのに不思議です」
「必死で勉強したからな」
旅路の空いた時間を全て注いだ結果だ。
「これから魔法職に転職するつもりだ」
「そうなんですね。あ、着きましたよ。冒険者ギルド」
冒険者ギルド・イストリア小国支部。
規模は小さいが活気はあるようだ。併設されている酒場からは昼にも関わらず冒険者の笑い声がここまで聞こえてくる。
「あとは自分でなんとかする。案内ご苦労だった。助かったぞ」
ここでメイアとはお別れだ。これ以上彼女の時間を拘束するわけにはいかない。
「またどこかで会おう」
この小さな国ならまたいずれどこかでバッタリ出会うこともあるだろう。メイアを置きギルドの扉を開ける。
「ま、待ってください!」
「どうした? 何か忘れ物でもあったか?」
「そ、そうじゃなくて……」
メイアはモジモジしている。何か言いたいことがあるみたいだが、中々口を開けられずにいる。
「よかったら同行させてくれませんか!」
「えっ?」
「よかったら同行させてくれませんか!」
勇気を出した一言。大事なことらしく二度言われた。同行希望だと? この俺と?
「実は私も最近この街に来たばかりで。一人だとさっきみたいな盗賊に襲われることもありますし」
「そんなこと突然言われてもなあ」
正直困った。メイアのような美少女とパーティを組めるのは嬉しいことだけど。パーティ追放のトラウマも残っているので、一人で生きたいというのが本心だ。
「料理でも荷物持ちでも何でもします。ダメでしょうか?」
頼むからその上目遣いをやめてくれ。断れなくなってしまう。
「そこまで言うなら仕方ない。一緒にパーティを組もうじゃなかいか」
そう返答するとメイアの顔がぱあーっと明るくなる。
「あ、ありがとうございます! それではよろしくおねがいしますねシルディさん」
「こちらこそよろしくだメイア」
思わぬ形でパーティができてしまった。
◆
俺がギルド内に入った瞬間、さっきまで賑わってた空気が静まり返る。【挑発】スキルを使ったわけでもないのに、全冒険者の視線がこちらに向いているのがわかる。
「これが新参者に対する洗礼か」
そう自分の中で納得しながらカウンターへ進む。
「すごい鎧ですね。もしかしてアダマンタイト製ですか?」
「そのとおりだ」
まさか素材を当てられるとは。この受付嬢はなかなかの慧眼だ。
「それで本日はどのようなご用件でしょうか? クエストの受注ですか? それともパーティをお探しでですか?」
「転職の手続きにきた」
「転職……ですか? 失礼ですがどこからどう見てもタンク……ですよね」
「そのとおりだ。魔法職への転職を希望する」
「いや、ちょっと、え? えええええ〜!?」
あ然とする受付嬢。
無論彼女だけでなく近くで聞き見を立てていた冒険者たちも同じような反応を見せている。どこからどう見ても盾職だろ!みたいな声が随所なら浴びせられた。
「そ、そうですよね。どんなジョブに就こうと本人の自由ですよね。それでは転職のための試験を行ってもらいますが、よろしいですか?」
「問題ない」
「試験内容は実技試験と適性試験になります。まずは実技試験です。こちらにご案内しますね」
受付嬢に連れられ、ギルドの裏地にでた。訓練場のような場所である。
「ここからあそこにあるデコイに向かって得意の魔法を放ってください」
距離にして20メートル。結構遠いな。
「使用魔法、威力、コントロールを査定します。真剣な測定ですので本気でお願いしますね。あのデコイを壊すつもりで」
「わかった」
言われた通り唯一使える魔法エクスプロージョンを全力で放つ。
ドッカーーンという爆音が鳴った。
「いやあああああ!!! 訓練場があああ!!!」
受付嬢の悲鳴。何事だと慌てて駆けつける冒険者たち。
そして目の前で起きたことに、居合わせたもの全員が騒然とする。
――訓練場が半壊してしまったのだから。
「おやおや。これは一体どういうことじゃ?」
人だかりの奥からやってきたのは黒髪の刀使いの女性。歳は20代くらいだろうか。その辺の冒険者とは格別のオーラを放っている。
「ギ、ギルドマスター。えっと、これは、その……」
この騒動に受付嬢もパニック状態だ。
「ふーん、なるほどのお」
周囲を一通り観察し事態を把握したらしい。彼女は俺のそばまで近づいてきた。
「ギルドマスターのミコトと申す。そなたの名を教えてもらおうか」
「シルディだ」
「シルディというのか。ちょっと失礼」
そう言いながらミコトはクンクンと俺の体の匂いを嗅いできた。
「うむ、只者ではない匂いをしておる。何の魔法を使ったのじゃ?」
「エクスプロージョンだ」
「なるほど超級魔法……。そなた化け物よのう。ほれ、こっちへ来るのじゃ」
ミコトは俺の手を引っ張り、訓練場の無事だったもう半分のエリアまで連れた。
「何をするつもりだ?」
「決まっておろう。特別試験じゃ。妾と決闘をするのじゃ!」
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