第33話 旅の終わり


( 人間は生きる為に沢山の物を失い、傷つきながらも生きていかなければいけない。

怒られる事もあれば、悲しい別れもある。

言い出したらキリがない。

なら何故人間は生きて行くのだろうか?? )


一平は暗い闇の中で瞑想していました。

何もない暗闇…… 。

どんどんゆっくりと沈んで行く…… 。


( 俺は充分頑張ったかな?

楽しい人生を描けたかな?? )


暗闇の中巡り目くこれまでの想い出が映し出されました。

子供の頃沢山ケンカしたり、沢山笑ったり。

たまには怒られたり…… 。

思い出されるのは、楽しい想い出ばかり。


その中での一つは、妻との出逢いでした。

お互い沢山話したり、色んな所へ行ったり。

流れてくるのは幸せな想い出でした。


そして結婚して子供が生まれて、また大事な家族が増えました。

いつの間にか成長し、守られてばかりでしたが逆に守る側になっていました。


仕事では怒られたり、残業したりと大変な事ばかり。

同僚とも衝突したり、上司に怒れたり…… 。


( でも…… 毎日帰れば楽しい、あの大事な家族が待ってる。

だから頑張って来れたんだ。 )


一平は改めて生きている意味。

頑張って来れたのは家族のお陰だった事が、目に沁みるようでした。


「 んで…… もう終わりか? 」


暗闇の中で後ろから話をかけられました。

その声は何処か懐かしい…… 。

聞いていると安心してしまう声。


「 いいや…… まだまだこれからさ。

苦しい事や悲しい事沢山あるだろうが、俺はそれ以上に楽しい毎日が待ってる。

そうだろ? 父さん…… 。 」


後ろに立って居たのは、小さいときに亡くなった父でした。


「 一平…… 大きくなったなぁ。 」


泣きそうな顔で最高の笑顔を見せる。

負けじと一平も精一杯の笑顔をに。


「 ありがとう…… 。

父さんの息子に生まれて良かったよ。

俺の命には父さんの分まで生きる責任がある。

だからまだそっちには行けそうにない。

ごめんね…… 。 」


一平は悲しそうに言うと横に頭を振りました。


「 もっとお前に色々教えてやりたかった。

魚釣りや恋の話…… タバコの旨さ。

直ぐに死ぬんじゃないぞ…… 。 」


「 …… うん、ありがとう。

行くときは最高の物語の話を土産にするわ。 」


そう言うと満足そうに、ゆっくり消えて行ってしまう。

一平も夢か幻かもしれないが、また会えて本当に嬉しい気持ちでした。


「 にしても…… 俺はどうなってんだ?

ここからどうやって現実に戻れば良いんだ? 」


また生きる為に頑張ろうと思っても、ここからの脱出方法が分からない。

遠くまで暗闇…… 。

考えても全く分からない。


「 一平ーーっ!! 」


「 んっ!? 」


何処からか声が聞こえる。

周りを見ても誰も居ない。


「 先ばぁーーいっ!! 」

「 係長!! 」

「 一平さーーんっ! 」


聞き覚えのある声が次第に大きくなっていく。


「 パパぁーーっ!! 」

「 一平君っ!! 」


上を見ると自分を呼ぶ声が聞こえる。

ゆっくりとその声の方に手を伸ばしていく。


「 俺は…… 帰るんだ。

みんなの呼ぶ方へ…… ! 」


ゆっくりと差し込む光の中へと上って行く。


ばっ!!

一平は力いっぱい目を見開く。

するとそこは病室でした。


「 パパぁーーっ!!!! 」


目を覚ました事に気付き、愛菜が力いっぱい抱きついて来ました。


「 愛菜ぁ?? どうした?

心配させちゃったね、ごめんな。 」


そう言い頭を撫でました。

自分の頭を見ると包帯が。

しかも頭が痛い。


愛菜だけではありません。

奥さんや村田丸や健人。

お隣さんと妹の奏。

林さんに花梨も居ました。

みんな心配してくれていたのです。


でもどうしてなのか?

あの高いところから落ちた筈…… 。

頭以外は全く痛くはない。

こんなもんではすまないはずなのです。


「 どうして俺は生きてるんだ? 」


事故の前後の記憶が曖昧になっている。

気になって聞くと、奥さんが大きくタメ息を吐きました。


「 覚えてないの??

実はね…… 。 」


そこから時はさかのぼり、落ちた時の事。


「 うわあああぁーーーーっ!! 」


凄い勢いで落ちて行く。

間違いなく死んでしまう。

落ちる時間は一瞬ですが、体感的にはかなり長く恐怖の時間を味わっている。


「 B班、クッションスタンバイっ!! 」


大きな声で叫ぶ指揮を取る刑事さん。

その指示に従うように一階には、沢山のクッションが敷かれました。

もしもの為に何重にも重ねられていて、かなり高い所からでも助かるように準備していました。

後は落ちて来る場所にピンポイントに合わせる。


「 B班…… 準備完了!! 」


一階にあった布団やのお陰で、もしもの時の準備をしていて正解でした。


「 うるあぁーーーーっ!! 」


頭から落ちていき、凄い深くまで沈みました。

そのまま押し込まれていくと、助かるようにバネのマットレスにしてた事で、反動で高くまで跳ね上がる。


「 やったぁーーーーっ! 」


刑事達や店員達も大きくガッツポーズを決める。

一平は何度も上下に跳ねて、勢い良くマットレスの外へ弾き飛びました。

バネの力は本当に凄いのです。


一平は床に頭を打って倒れてしまう。

勢いはかなり弱まっていたお陰で、そこまで致命傷ではありませんでした。

ただ頭を強打した為、頭から出血してしまいました。

直ぐに何人もの人達が駆け寄り、直ぐに救急車が来る事になりました。


指揮をしていた刑事が一平の所に来ました。


「 本当に申し訳ありません…… 。

人命救助ありがとうございます。

貴方は英雄です…… 犯人は既に確保しました。

後はお任せを。 」


すると一平は意識が失くなりつつある中、刑事さんの耳元で囁きました。


「 えっ!? どうして…… 。 」


そのまま救急車で運ばれて行きました。

刑事さんは救急車が見えなくなるまで見続ける。


「 本当に…… 英雄とお人好しは紙一重だな。 」


刑事さんはくすりと笑い、タバコを吸いました。

一体何を言ったのでしょうか?


と全てを一平に話しました。

一平の記憶が曖昧なのも、頭の傷によるものでした。


「 そうかぁ、奇跡的に助かって良かった。 」


そう言い笑いました。

周りのみんなも呆れているけど、助かった事の安心感が勝っていました。


その頃…… 警察署では犯人の哲太の取り調べが行われていました。

哲太は深く反省していて、刑事さんの前で下を向いていました。

全て洗いざらい話しきりました。


「 刑事さん…… 私のせいで、あの田中さんは大ケガをしてしまいました。

どうして償えばいいか…… 。 」


刑事さんは深くタバコを吸い、煙を大きく吐きました。


「 プファーーッ。 まず一つ!

田中一平さんは今さっき目覚めました。

だからご安心を。 」


「 良かったぁ…… 本当に良かった。 」


安心したのか、大泣きしてしまいました。

自分なんかの為に命をかけて手を伸ばした一平には、感謝しかありませんでした。

それと同時に…… 深い罪悪感が襲う。


「 後は貴方の罪は軽くはありません。

ですが終わりではない。

そこんところ分かって下さいね。 」


それは仕方のないこと。

受け入れるしかありません。


「 後はですね…… これを。 」


大きな包みに入った荷物がテーブルに置かれる。


「 刑事さん…… これは一体?? 」


「 開けて見てください。 」


恐る恐る開けてみました。

中から出てきたのは、限定版のジェイミー人形でした。


「 えっ…… これは何なんですか?? 」


刑事さんは笑いながら答えました。


「 田中さんからですよ。

気絶する前に貴方に渡してくれ! って。

娘さんへ渡してくれとよ。

それと…… 奥さんと仲直り出来ると良いですね。

だってさ。 」


刑事さんは呆れて笑うしかありません。

哲太は大泣きしました。

一平は怪我をしながらも、哲太と奥さんと娘さんの仲直りの手伝いをしたかったのです。

哲太はくしゃくしゃになるまで泣きました。


「 すみません…… すみません。 」


一平は最後に選んだ決断は、プレゼントを哲太に渡す事にしたのです。

この決断に迷いはありませんでした。

何故なら一平には哲太が、他人には見えなかったからです。


哲太の泣き声は取り調べ室をコダマするのでした。

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