第32話 父の誇りにかけて……


勢い良く飛び乗り、相手から銃を奪い取ろうとする。

相手も取られないように必死に抵抗してきました。


( なんちゅう力なんだ…… 。

一瞬でも気を抜いたらぶっ飛ばされそうだ。 )


お互い揉み合いになりながら、ぐるぐると転がりながら銃の奪い合いに。


「 しつこいんだよっ!! 」


そう言い強い蹴りが一平のお腹に入る。


「 うぐっ!! でもなぁ…… それでも!! 」


頭突きをして怯んだ哲太から銃を奪い取りました。


「 はぁはぁ…… 自首しましょ。

貴方も同じお父さんだ。

奥さんや娘さんを悲しませてはいけない。 」


息を切らしながらも何とか奪い取り、軽くめまいがありつつも立ち上がり哲太に語りかけました。

哲太はうつ向いたまま起き上がりません。


「 哲太さん…… ? 」


様子を伺う為にゆっくりと近付く。

すると凄い勢いで振り向いて、胸元から何か切れ味の良い光り物を取り出しました。


「 お前が邪魔なんだよーーーーっ! 」


手に持っていたのは包丁。

かなり長く切れ味も良さそう。

不意を突かれてしまい、足を滑らせて転んでしまう。

そこへ覆い被さるかのように、上から勢い良く包丁で突き刺そうとしました。

凄い力で上から下に振り下ろす。

一平は何とか手首を掴み、堪えるので精一杯になってしまう。


「 ダメだ…… 哲太さ…… ん。

絶対にダメですよ…… ぐうっ!! 」


無我夢中で刺そうとする哲太には、もう声が届きません。

一平もゆっくりと力が抜けていく。


そこへ勢い良く何か太った男が走って来ました。


「 うるあっ!! 」


勢い良く蹴り上げて、包丁を持っている手に直撃!!

痛みにより哲太は包丁を放してしまう。

包丁はくるくると回転しながら、遠くへ行ってしまう。


一平はここぞとばかりに、一平は思いっきり哲太の顔を殴りました。

勢い良くぶっ飛び倒れました。


「 はぁはぁ…… 一体…… 誰…… ? 」


一平は起き上がりながら、さっき助けてくれた人を見ました。

そこに立って居たのは、頭を包帯巻き巻きにされた謎のミイラ男でした。


「 あなたは…… 一体?? 」


そう聞くとゆっくりと口を開きました。


「 先輩…… 大丈夫っすか? 」


いい加減な敬語。

この出っ張ったお腹。

間違いない…… あいつしかいない!


「 村田丸!? 」


そうです…… そのミイラ男の正体。

怪我で途中で置いてきてしまった村田丸でした。


「 そうです…… 何とかここまで来ました。

家に行く前にデパートでプレゼント買おうと思っていたら、その犯人が立てこもり始めて。

とっさに隠れていたんです。

娘さんはお絵描きセット欲しがりますかね? 」


村田丸は偶然ここに居たのです。

運が良いのか? 悪いのか…… 。

でもそのお陰で助かったのは間違いありません。


「 助かった…… ありがとう。 」


熱いハグをして感謝を伝える。

健人も落ちていた銃を拾い、一平達の元へ。


「 やったな…… 。

これでやっと帰れるな。 」


男達は三人顔を見合わせる。

犯人を気絶させたので、ここからは警察の仕事。

一平はロッカーから人形を取り出し、二人の元に走って行きました。


二人はその間に拘束されていた被害者達を解放しました。

みんなは勢い良く下の階へ走って行きました。


「 俺たちやったんだな…… 。 」


「 そうですね…… 健人さん。 」


肩を組ながらみんなが走るのを見届けている。

一平が二人と合流。


「 って言うか…… あの犯人をどっちか見てなかったのか!? 」


どんなに気絶していたとしても、危険な犯人から目を離すなんてもっての他。

三人は慌てて哲太の倒れていた場所を見る。

そこにはもう姿はありませんでした。


「 ヤバい!! 何処に行ったんだ!? 」


一平達は慌てて探すと、犯人は高い所から一階まで落ちようと手すりの奥に立っていました。

自殺しようとしていたのです。


「 哲太さんっ!! 」


哲太は悲しそうに立って声につられて振り返る。


「 一平君…… 悪かったね。

娘さんの誕生日…… 楽しんでおくれよ。

キミは最高のお父さんだ。 」


その表情から生きる気力は、もう失くなってのが良く分かりました。


「 哲太さん…… 諦めるな!!

謝るくらいなら生きて償えっ!

生きる事から逃げるな! 」


一平は強く言いました。


「 死ぬ事で一番傷つくのは、娘さんと奥さんだ!

これ以上傷つけるな!

残された家族の気持ちを考えろ!! 」


哲太は涙が溢れ出ていました。

自分の為に、こんなにも一生懸命熱く叱ってくれる。

本当に嬉しいかったのです。


「 ありがとう…… 俺…… まだ死に。 」


その時!!

泣いていた為に足を滑らしてしまいたした。

哲太はゆっくりと落ちて行く…… 。


「 ダメだーーっ!!」


一平は勢い良く走り、哲太の手を掴みました。

全体重が手にのしかかる。

一平まで手すりの奥に乗りだし、ゆっくりと引きずられていく。

睡眠不足や疲労が溜まり、力が入らない。


( ダメだ…… 支えられない…… 。

もう限界だ…… 。 )


一平は手を放す事を一瞬考えてしまう。

死ぬかも知れない恐怖により仕方ない選択。

どちらも助からなくなるくらいなら、自分だけでも…… 。

一平は手がちぎれそうになりながら、何度も脳裏を過るのでした。


「 その手を放すな!! 」


健人と村田丸が追いついて哲太の手を掴む。

一平の負担が三等分されて、どうにか哲太が落ちないように支えられている。


「 哲太さん…… 絶対に諦めるな!! 」


哲太を安心させるため、何度も言いました。


「 死にたくない…… 死にたくないっ!

娘と妻にまた会いたい…… 死にたくない! 」


哲太は心から何度も叫びました。

一人では無理でも三人の力を合わせれば、不可能を可能にしてしまう。


「 行くぞぉーーーーっ!

うるあぁーーーーっ!!!! 」


三人で強く叫びながら、凄い勢いで引っ張りました。

このまま支えられる余裕はない。

これが最後のチャンス!

思いっきり引っ張り上げる。


「 うっ…… うおおぉぉーーっ! 」


凄い勢いで哲太を引っ張り上げました。


「 やったぁーーっ! 」


喜んだ矢先、勢い余って持ち上げた反動により、一平が勢い良く手すりの奥へ…… 。


「 えっ…… ? 」


一平は落ちながら手を伸ばす二人が見える。

凄い勢い良く落ちて行ってしまう…… 。


「 一平ーーーーーっ!! 」


落ちながら健人の叫び声だけが聞こえる…… 。


( 美咲…… 愛菜…… ごめん。 )


奥さんとみんなは一平が無事に帰って来れるように、願い続けていました。


ブゥーーーーンッ! ブゥーーーーンッ!!

奥さんのスマホに着信が。


「 もしもし…… 。

はい…… はい…… えっ…… ? 」


それは警察からで、一平についての事でした。

みんなもいても立っても居られず、立ち上がってしまう。

少しして電話を切りました。


「 一平君が…… 一平君が…… 。 」


一平がデパートの最上階から、犯人を助ける為に落ちてしまった…… 。

との事でした。

直ぐに病院に運ばれてしまったとの事。

みんなは直ぐに病院へ。

娘には理由を告げづに…… 。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る