第31話 親として


一平が交渉しました。

哲太は気まずい気持ちに陥ってしまう。


「 無理だよ…… 。 今更だよ。

こんな事までして、怒ったからなんて済まされないんだよ。

俺はもうここで…… 。 」


全てを諦めて悔しそうに膝を叩く。


「 勝手に終わらせないで下さい!!

沢山間違えたかも知れません…… 。

罪も犯したかも知れません…… 。

だから何ですか??

まだまだこれからじゃないですか!

物語の終わりを決めるのも、また始めるのも自分次第ですよ。

哲太さんが自分の物語の主人公なんですから。 」


必死に思いを伝えました。

一平も色んな人を見て生きてきました。

間違えて終わらせてしまう…… 。

それが何とももどかしく感じていました。


「 俺は…… 今離婚されそうなんですよね。 」


いきなりの告白に哲太は動揺する。


「 ずっと仕事ばかりし過ぎてしまい、家族との時間をおろそかにしていました。

それで妻に離婚届けを突き付けられちゃいましてね。」


恥ずかしそうに話しました。

哲太は怒りや不安の感情より、一平の事が気になってしまいました。


「 本当なのか?

お前にもそんな事が…… 。 」


自分が一番大変…… 。

一番運が悪い…… 。

自分目線で考えれば、みんなの方が幸せに見えてきてしまう。

それぞれ違う悩みや苦労をしている。

一番なんてものは存在しないのです。


「 今日は俺の娘の誕生日なんです。

プレゼントを探しまくって、こんな時間かかってしまいました。

俺もダメダメな親父なんですよ。 」


一平が話している姿を奥さんも見ていました。


「 一平君がそこまで深く考えて居たなんて。

全く気付かなかったわ…… 。 」


ライブ映像を見ながら悲しげに話しました。

隣に居る奏が優しく抱きしめる。


「 たまには良いお灸だから良いのよ。

本当不器用で運が悪いんだから。 」


二人も気付いていました。

一平はプレゼントを持って帰るだけではなく、犯人を自首させて救おうとしている事を。

余計なお節介でもあり、誰にでも関係なく手を伸ばす。

それが田中一平なのです。


その頃立て込もりが行われている下の階は、警察達がいつでも突入出来るように準備していました。

一番偉い指揮官の刑事はタバコを吸っている。

堂々と吸っているからに、誰も注意出来ないくらい貫禄があるのだろう。


スマホを片手に持ち映像を見ている。


「 この交渉しているサラリーマン風の男。

何を考えているんだ…… 。 」


刑事さんも一平の勝手な行動のせいで、突入するタイミングが分からなくなっていました。


現場では気まずい沈黙に…… 。


「 お前さんは立派にやってると思う…… 。

それに比べて俺にはもう家族も、お金も友達も居ない。

このまま死んだ方が楽かも知れない。 」


哲太も沢山の過ちにより、精神的にもう限界の様子。

追い込まれた人は何でも出来てしまう。

そこが一番怖い所です。


「 奥さんも娘さんもきっと心配してますよ。

友達が居ないのなら、俺が第一号になります。

罪を償って、ゼロから頑張りませんか? 」


哲太は一平の言葉に心が痛くなっていました。

誰にも相談出来ない…… 。

男だからと奥さんにまで不安や、苦労を言わないようにしていました。

今は目の前に居る一平に、ほとんどの悩みを話して真面目に聞いてくれている。

伸ばして貰った手を取ろうとする。


ガチャンっ!!

人質の一人が拘束バンドを取り、走って逃げようとしている。

焦っていて音を立ててしまう。


「 バカにしやがって!! 」


逃げられたら面倒になるので、猟銃を逃げる男に向ける。


( ヤバいっ!! 後少しだったのに。 )


一平も逆上した哲太を止めようとする。


「 哲太さんっ! ダメです!!

それを撃ったら、全然罪の重さが変わってきます。

だから落ち着いて下さい。 」


怒りで我を忘れて、一平の頭を猟銃で殴りました。

鈍い音と共にゆっくり倒れてしまう。


「 一平ーーーーっ!! 」


健人は倒れた一平に大声で呼び掛ける。

直ぐにまた銃口を逃げる人質へ。


「 いやーー!! 」


ライブ中継されている映像を見て、奥さんや奏も怖くて目をつぶってしまう。

その瞬間にライブは終了してしまいました。

あまりにも過激なので、運営により強制停止されたようです。


哲太が引き金に指を伸ばすと、また一平が立ち上がり手を広げて撃てないようにする。


「 邪魔だっ!! どけぇーーっ! 」


一平はその威圧に負けないくらいに、大きな口を開けました。


「 撃ってみろ!! さぁ。

哲太さんは何もしてない人を撃てる訳ない。

撃つなら俺から撃ってみろっ!! 」


痛みと怒りにより感情は高鳴り、哲太との駆け引きを開始しました。

哲太もあまりに凄い勢いに、動揺して指が震えてしまう。


「 どうした…… ? 撃てないだろ?

あなたは本当は悪い人じゃない。

もし撃たれても俺は死なない。

娘と約束してるから…… 。 」


哲太は一平の思いに負けてしまい、猟銃を地面に落としてしまう。

ダメダメな人生に人を撃つくらいの度胸もない。

自分にとことん絶望してしまいました。


「 クソ…… クソぉーーーっ!! 」


ドンッ! ドンッ!!

地面を激しく拳で殴る。

虚しさを痛みで消し去るように…… 。


逃げた人質はエスカレーターを下り、下の階へ逃げてしまう。

直ぐに警察に保護されました。

逃げてきた人質は直ぐに警察に、逃げられた理由を話しました。


「 途中から現れたサラリーマンが、犯人とずっと喋っていたから逃げられました。 」


指揮官の刑事はまたタバコをつけて、ぷかぷかと煙を吹かす。

そして頭を大きくかく。


「 何なんだ…… このサラリーマンは。 」


刑事さんもこんな立てこもりは初めてでした。


奥さん達は映像が失くなり、不安が大きくなるばかり。

じっとしてられなく貧乏ゆすりをする花梨。


「 美咲さん…… 私行きます。

待ってて下さい。 」


そう言い走って外へ。

黙って家に居るのに耐えられませんでした。


ぶぅーーんっ!!

外へ出るなりスマホの通知のバイブが鳴る。

メールでした。


「 誰だろ…… 。 えっ!?

なんで!!? 」


そのメールを見るなり、また走ってデパートに行ってしまいました。


奥さん達はリビングで、テレビのニュースをつけていました。

みんな美咲を気にして何も喋れません。


「 みんな…… 心配してくれてありがとう。

主人は大丈夫です。 」


笑って話しました。


「 私は何度もあの人が私を…… 色んな人を助けてるのを見てきたの。

今回だって大丈夫!

お節介な人だから、あの犯人ですら助けようとしてる。

本当に笑っちゃうんだから。 」


奥さんは何度も笑いました。

林さんもつられて笑ってしまう。


「 先輩は絶対大丈夫ですよね。

私が辞めないで今までやってきたのも、先輩に支えられていたからです。

今回も絶対に無事に帰って来ますよ。 」


林さんも一平を信じていました。


お隣さんの村上さんは、クスクスと笑ってしまう。


( 本当に凄いな…… 。

誰もが一平君を信じ、待っている。

キミは最高の旦那さんだね。

友達なのが相応しいよ。 )


村上さんはこんなにもみんなに愛され、信じて貰える一平を尊敬し、少し嫉妬してしまうくらい。


妹の奏はため息をつく。


「 バカなお兄ちゃんだよね。

愛菜ちゃんの誕生日なのに、自分が一番目立って。

帰って来たら思いっきり叩いてやるっ! 」


心配しつつも帰って来るのを、心待ちにするのでした。


現場では意気消沈している哲太。

精神不安定の為、いつ何をしでかすか分からない。

少しも油断出来ない状況…… 。


「 ダメだ…… ダメだダメだダメだっ!!

お前さえ…… お前さえ居なければ、俺は…… 俺はもっと悪になれる。

だからやるしかない…… 。 」


最後の支えである一平を殺せば、これからどんな非情な事も出来る。

ゆっくりと猟銃を一平の頭に向ける。


「 哲太さん…… 。 」


一平はもう何も出来ない…… 。

分かり合おうとしましたが、相手は犯罪に手を染めてしまっていて、話し合いではもうどうしようもない…… 。


「 すまない…… 俺はもう止まらないんだ。

直ぐに俺も後を追うからな。 」


哲太は大きく深呼吸をする。

一平も目をつぶり覚悟を決める…… 。


( 愛菜…… 美咲…… 約束守れそうにない。

ごめんな…… 。 )


「 こんばんわぁ〜〜 っ!!」


哲太の後ろから大きな声が。

哲太は直ぐに振り向きました。


( 今しかないっ!! )


哲太が隙を見せた瞬間、一平は勢い良く飛びかかる。

最後のチャンス…… 。

一平は犯人との戦いが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る