第30話 父親VS犯人


一平が手を上げながら犯人と交渉しようとする。

犯人は銃口を直ぐに向けて、何時でも撃てる準備をしました。

さすがに命の駆け引きは映画の世界で、自分でも心臓が破裂しそうになるくらい緊張している。


「 おめぇーー、何処に居たんだよ!? 」


犯人はアドレナリンが上がり続け、直ぐに撃ちそうな状態。


「 怖くて隠れてたんですよ。

そいつを撃つのだけは止めて下さい。

俺の親友なんです…… 。 」


そう言いながら焦りながらも、ニヤりと笑いました。


その頃家族達は、動画で流れる映像に釘付けに。

一平が現れると家族達は動揺してしまう。


「 パパだぁーーっ! 」


何も知らない愛菜ちゃんは、パパがテレビに映っていて喜びました。

みんなは何故一平がその場所に居るのか、全く分かりませんでした。


奥さんだけは少し心当たりが。


「 花梨ちゃん…… どうしてさっき、一平君があのデパートに思い出とかありますか?

って聞いたの? 」


花梨は気まずくて顔を上げられません。


「 一平さん…… 健人さんを探しに行ったんです。

だから思い出のデパートに居たんだと思います。 」


聞いても全く意味が分かりません。


「 花梨ちゃん! 一平君の事もっと知ってるでしょ!?

何かまだ隠してるんでしょ!?

お願いだから教えて!! 」


激しく動揺して花梨を揺すりました。

花梨は心が痛くなってしまう。

直ぐに奏が駆け寄り、奥さんを止めました。


「 お姉さん! 大丈夫だから。

花梨ちゃん…… 私達は全く責めないから、何でも良いから教えてくれない?

お兄ちゃんの事…… 。 」


そう言うと花梨は深呼吸しました。


「 分かりました…… 全てお話します。

愛菜ちゃん達は部屋に連れてって貰えますか? 」


奥さん達は直ぐに愛菜ちゃん達を、部屋へ連れて行きました。

花梨はみんなに全て話しました。

何故知り合ったのか?

一平はここの所何日か、何をしていたのか?

知ってる限りの事を全て…… 。


「 えっ!? ジェイミー人形の為に、一体何やってるのよ。

出張は嘘でずっと探したの?

本当バカ過ぎる…… 。 」


奏は呆れてしまう。

当然お隣さんも困惑してしまう。

奥さんは椅子に座って黙っている。


「 実は…… 私も知ってたんです。

係長の事…… 。 」


急に立ち上がり林さんも一平について、知っている事を全て話しました。

奥さんと奏も周りに迷惑をかけている一平に、ただ呆れるばかりでした。


「 林さんに花梨ちゃん…… 本当にごめんなさい。

ウチの主人がこんなにも沢山迷惑かけてるとは、思いもしなかったわ。

プレゼントの為にどれだけ迷惑かけたか。 」


奥さんはタメ息が止まりません。


「 美咲さん…… それは違います。

私が協力したのも自分の意思なんです。

係長の事がほっとけなくて…… 。 」


林さんは一平の為にやったので、全く気にしないでほしかったのです。

花梨も同じ気持ちでした。


「 協力って言っても私は何も…… 。

一平さんと会ってから楽しくて、笑ったりして沢山ご飯食べたりして。

むしろ感謝しかありません…… 。

だから…… 謝んないで下さい。 」


花梨は切実な思いを伝えました。

一平を許して欲しい…… 。

その思いでいっぱいでした。

奥さんはまた大きくタメ息を吐いてしまう。


「 二人共…… 本当にありがとう。

帰って来たらみんなで叱ってあげよ?

こんなにも迷惑かけてんだからさ! 」


奥さんは怒っているよりも、こんなにも周りに助けて貰える夫が誇らしく感じました。

そして同時に、安否を心配する事しか出来ませんでした。


緊迫する店内…… 。

犯人と一対一で見詰め合っている。


「 おめぇ…… なめてんのか!?

この銃が見えねぇのか!

一発くらいてぇみたいだな!! 」


犯人は明らかに緊張していて、まともに話せる状況ではありません。

一平も一歩間違えれば「 死 」 を考えてしまう。


「 わざわざ事を大きくする必要はないですよ。

猟銃凄いですね…… 狩りとかするんですか? 」


返答が来ず、一瞬場は凍りつく…… 。


「 ああ…… 趣味で休日に行くくらいだ。

それが今、何の関係があるんだ!! 」


( よし!! 手応えありだ。

返答が来たらこっちのもんだ。 )


一平は長年営業で売り込みや、取引先とは言葉を武器に戦い続けて来ました。

相手はお客さんと同じ人間。

話せるならまだ諦めるには早い。


「 関係あるさ…… 。

興味あるんです。

どうせまだまだ時間かかるだろうし。

何歳なんですか?? 」


怖がることなく話すと、犯人も銃口を下に向けて座り込む。


「 33だ…… 。

年なんてどうでもいい。 」


「 33?? なら俺と一個違いです。

俺は32なので。 」


そう言いながら一平も座って話しました。

まずは何でも良いので、共通点を探す。

これが営業の醍醐味なのです。


( 一平…… バカだと思ってたが、あんな犯罪者と分かり合おうなんて考えてんのか。

それは無理な話だ。 )


健人は一平の無謀な試みに、絶対に無理だと思っていました。

猟銃なんて使って監禁する奴なんて、正直分かり合えるとは到底思えない。


「 俺の名前は田中。 田中一平!

名前教えてくれませんか?? 」


五十嵐哲太いがらしてった。 」


犯人はどんどん話し始めました。

一平はうんうんとうなずきました。


「 哲太さんですね。

俺の事は一平と呼んで下さい! 」


一平の心臓の高鳴りはゆっくりと、いつもの鼓動に戻って行く。


「 哲太さん…… 家族は? 」


犯人は何やら言いたくなさそうに、そわそわし始めました。


「 …… もうお袋しか居ねぇよ。 」


一平は直ぐに疑問を抱きました。

「 もう 」 の部分です。

お父さんが亡くなってもうなのか、それとも家族が居たのに居なくなったからなのか?

その疑問を解消する為に、更に攻めていきます。


「 もう? 奥さんは居ないんですか? 」


「 ああ…… 。 居ない。

俺がリストラされて再就職出来なくて、出てってしまったのさ。

娘を連れて。

情けない話だろ…… 。 」


哲太は近頃リストラされてしまいました。

不景気なのでとても難しいお話。

その後も上手く行かずに家に居た模様。

思い出したのか? 哲太は悲しそうな表情に。


「 そうですかぁ…… 。

仕事上手くいかないときありますよね。

俺も失敗ばっかですよ。 」


そう言いながら自分の家族写真を手渡しました。


「 これ見てください。

妻と娘なんですよ。

可愛いでしょ? 俺の唯一の誇れるもんです。 」


そう言い笑って哲太を見ると、哲太も少し笑っていました。


「 ウチの娘と同じくらいだな…… 。 」


写真を見詰める顔は犯罪者には到底見えなく、そこには一人の父親でした。


「 実はさ…… ウチの娘には週に一回会えるんだ。

で…… プレゼントに人形が欲しくて。

探しても探しても見つからない。

凄い人気なんだってな…… 。 」


それは正しくジェイミー人形。

哲太も必死に探す父親でした。


「 なんだろうな…… プレゼントすらまともに買えなくて、凄いイライラしてたんだろな。

酷い対応されたこの店に、復讐してやろう。

ってバカな事始めちまったよ。 」


一平には他人事には全く感じませんでした。

もしも同じように一人になり孤独なら、一体どうなってしまうだろう?

想像も出来ませんでした。


「 こんな大事になっちまったけど、ただ謝って欲しかったんだ…… 。

ないならないで良い。

小バカにされたように感じて…… 。 」


哲太は涙目になっていました。

カッ! となって怒りに任せて始めたのが、こんなにも大事になるとは思ってなかったのです。


「 そうだったんですか…… 。

何処も好きなもんて同じですね。

ウチの娘も人形欲しがってましてね。

ずっと探しっぱなしですよ。 」


二人はまるで友達のように、ゆっくり…… ゆっくりとお互いを知りました。


その映像をスマホで見る奥さん。


( 一平君…… 。 )


奥さんも罪悪感に襲われていました。


一平は急に立ち上がりました。


「 まだ遅くない…… 。

一緒にやり直しませんか? 」


そう言いながら手を伸ばす。

一平は本気で交渉して、誰も怪我人を出さずに終わらせられるのか!?

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