第29話 最後の壁
ゆっくりと階段を降りる二人。
そっと階段から店内を見る。
「 動くんじゃねぇーーぞ!
俺は本気だからな? 」
まるでテレビで見たような猟銃を手に、コートとサングラスとニット帽を被った怪しい男が、店内に居るお客さんと店員さんに銃を向けていました。
怖がるお客さん達は顔を見ないように、伏せて這いつくばっていました。
( にゃにぃーーっ!? )
一平は映画が大好き。
何度もこんな光景を見てきましたが、まさか自分がこんな状況に立ち会うとは…… 。
思っている筈もありませんでした。
「 一平…… あれって…… ? 」
「 ああ…… 多分立てこもりってやつ? 」
小声で話し合う二人。
その階に居る人はほとんど同じ場所に集められ、逃げられないように銃口を向けられている。
下からは来れないようにエスカレーターを止め、ほとんどのシャッターや扉を閉めてしまい、警察への対策もばっちりに…… 。
ただ一つの場所を除いては…… 。
「 つまりは立てこもり!?
こんな日にかよ!! 」
一平達は屋上に居たので犯人に見つかりませんでした。
こんな雪の降る日に屋上に居る人なんて居ない。
誰もがそう思うでしょう。
二人は階段から下の階へ行けば逃げられる。
音を立ててしまえば直ぐに撃たれてしまう。
非常階段の通行口を閉められる前に、早く下に逃げなければいけません。
こんな状況の中気でも狂ってしまったのか、一平は不適切な笑みを浮かべる。
「 あの犯人は俺達に気付いていない…… 。
なら早く下に降りれば助かる。
健人一緒にゆっくり降りるぞ! 」
今日まで大変な事が立て続いていたせいか、一平のアドレナリンは上がるばかり。
今のこの男は恐怖や不可能とは無縁の男に。
逆に健人は青ざめている。
「 一平…… 犯人の後ろにコインロッカー見えるかな? 」
目の良い一平はこっそりと犯人の後ろを見る。
言われた通りロッカーが見えました。
「 見えたぞ。
それが何の関係があんだ?? 」
健人は重い口を開ける。
「 あのロッカーに…… ジェイミー人形が入ってるんだよね…… 。 」
一平の自信は一気に失くなってしまう。
むしろ絶体絶命のピンチに。
「 よりによってなんであそこに!?
あれが無いと帰れないじゃないか…… 。 」
いきなり迷って動けなくなってしまう。
二人は策を練る為に静かに待つ事に。
その頃の我が家では?
楽しくゲームをしたり歌を唄ったりと、みんなで楽しそうに過ごしている。
テレビは夕方放送中のアニメをつけながら、遊んでいました。
すると緊急速報でテレビの画面は変わりました。
大人達はテーブルでコーヒーを飲みながら、楽しいお話をしている。
奥さんはテレビの画面を見ると、近くのデパートの立てこもり映像が流れている。
「 あら〜 怖いわね…… 立てこもりなんて。
ここの直ぐ近くのデパートよ。 」
奥さんが心配そうにテレビを指さして言うと、みんなの視線もテレビへ。
お隣さんも心配そうに見つめている。
「 最近は怖い事件が多いね…… 。
子供達にもしもの事を考えたら、背筋が凍りつくよ。 」
みんなも同じ気持ちで頷きました。
事件はとても大きく扱われていて、現地では警察の部隊やらパトカーやマスコミや野次馬が沢山。
大事件なので大騒ぎなのも良く分かります。
その中でヘリコプターから映した映像が流れていました。
花梨も現地の映像を見ながら、ココアを飲んでいる。
窓をカメラで撮っていると、一瞬だけですが男二人の後ろ姿が映る。
花梨はびっくりしてココアを吹いてしまう。
他人には分かりませんが、知っている人なら後ろ姿だけでも一発で分かりました。
あの二人は一平と健人なのだと…… 。
慌てて花梨は見間違えかも知れない…… と思い、確認の為にも奥さんに聞く事に。
「 美咲さん! あの、あの …… !
あのデパートって一平さんにとって、何か思い出とかありますか? 」
早とちりで心配させてしまうのもあれなので、一平があのデパートと一切関係なければ、居ない可能が高いと考えたのです。
「 ん〜〜 …… あっ! そう言えば。
言われて思い出したんだけど、主人と親友の健人君との思い出の場所なんだぁ。
って前に聞いた事があったかな?
学生の頃は屋上で良く望遠鏡で、可愛い子探してたんだってさ。 」
そう言って笑っていました。
花梨は確信しました。
あそこに居るのは間違いなく、あの二人なのだと。
一人だけ分かってしまい、どうしたら良いのか全く分からなくなってしまう…… 。
とことん運にも見放されているんだなぁ。
と感じるのでした。
その頃デパートでは、緊迫した状況が続いていました。
「 クソぉ…… こんな筈じゃなかったのに。 」
犯人はボソッと何かぼやきました。
緊張とイラつきのせいで、いつ人質を撃ってもおかしくない状況。
人質も緊張して泣いてる人や、犯人に殴られて気絶している人。
デパート内は戦場化している…… 。
「 一平…… 俺が引き付ける。
だからお前は直ぐに、人形を持って早く帰るんだ。
全て俺のせいなんだから。 」
健人は罪悪感でどうにか先に帰らせようと、無防に犯人の目を引き付けようと考えました。
あまりにも危ない橋…… 。
「 ダメに決まってるだろ!?
何考えてんだよ! 」
身を犠牲にしようとするのを必死に止めました。
健人は頭を横に振りました。
「 一平…… 俺は人生間違えっぱなし。
だけど一つだけ良かった事もある。
…… お前に会えた事だよ。
これはコインロッカーの鍵だ。
俺を追っかけて来たら走って取って帰れ!
じゃあな…… 。 」
そう言い凄い勢いで健人は非常口から、店内へ入って行きました。
「 おぉいっ!!
犯罪者め! まだ俺が居るぞ!
かかってこいよっ! 」
そう言って犯人の目を引き付ける。
犯人も凄い勢いで走って捕まえに来る。
健人は直ぐに屋上へ向かう。
「 一平…… 頼む…… 。
俺の好意を無駄にしないでくれ…… 。 」
健人と犯人は直ぐに屋上へ。
隠れていた一平は直ぐに店内へ。
( 健人…… 勝手な事を…… 。 )
自分の無力さを噛み締めながら、健人の好意を無駄にしない為にコインロッカーへ。
直ぐにコインロッカーにたどり着き、鍵を開けて人形を持ち上げる。
( よし…… 人質もついでに解放しなければ。 )
人質達の元へ行くと、全員手足を結束バンドで動けなくされていました。
直ぐに解放するには無理がある。
仕方なく一人だけで逃げようと思いました。
「 一平君の友達想いな所…… 大好きだよ。 」
奥さんに言われた言葉を思い出しました。
一平の足は止まってしまう。
屋上では追い込まれて健人は逃げ場を失う。
「 はぁはぁはぁ…… もう終わりだな?
手間取らせやがって!! 」
猟銃で勢い良く頭を殴られてしまう。
健人は倒れてしまい、犯人に捕まってしまう。
そして店内へ戻って来ました。
人質の集まっている所に健人を放り投げる。
健人は痛みにより動けません。
「 なめやがって…… なめやがって。
一人見せしめに殺してやる!
これは仕方ない事だ…… 。 」
悲鳴が店内に響く。
銃口は健人の額へ。
( 一平…… 嫉妬ばかりしてごめん…… 。
俺は死んだとしても、お前の友達だからな。 )
一粒の涙が頬を流れ落ちる。
その一部始終は、人質がもしもの為に隠し撮りしていたスマホで録られていました。
そしてリアルライブで配信サイトで流されている。
そんな事と知らずに犯人は引き金に指を伸ばす。
当然その頃には配信サイトで流れているのが話題になり、一般人はその放送に釘付けに。
「 健人君っ!! いやーーっ!!!! 」
奥さんは悲痛の叫びを上げる。
一平の家の中ではパニック状態に。
( 一平さん…… 健人さんが…… 。
助けて…… お願い!! )
花梨は一平を信じました。
健人は諦めてゆっくり目を閉じる。
「 良くないなぁ〜 。
罪が重くなるだけだ…… 。 」
犯人が声につられて振り返る。
そこには一平が立っていました。
「 少し話をしないかい? 」
直ぐに一平に銃口は向けられる。
一平と はやっぱり置いて逃げられませんでした。
選んだ答えはただ一つ…… 。
犯人を説得して自首させる。
そして二人で帰るんだ。
一平の最後の戦いが静かに始まるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます