第28話 片思い


二人は静かに見詰め合う…… 。


「 今までの妨害は全部お前がやってたのか? 」


「 ああ…… そうだよ。

最初に会った後から邪魔してた。

村田丸と二人で人形最初に盗られたろ?

あれもアイツらに場所教えたのは俺だ。 」


今思い返して見るとあの後に健人に電話したら、直ぐに駆け付けてくれました。

近くに居たにしては、早すぎると思っていました。


「 車だって詳しいから簡単に細工が出来る。

直せるのか? って言われたときはドキッとしちまったな。 」


悪びれる様子もなく自慢気に話し始めました。

黙って一平も聞いていました。


「 あの子勘が良いよな。

花梨ちゃん…… お前が直ぐにここまで来れたのも、あの子のおかげなんだろ?

途中から仲間に加わったせいだな。 」


そう言いながら頭をかきました。


「 ドライブスルーで村田丸がぼこぼこにされたのも、お前の命令なのか…… ? 」


そう言うと黙ってゆっくりうなずきました。

その瞬間、一平は勢い良く顔面にパンチを入れました。


「 うっはっ!! 」


勢い良く倒れる。


「 俺にどんな恨みがあるのかは分からない。

でもな…… 他人を巻き込むんじゃ…… ねぇぞ! 」


一平は激しく怒り、健人に想いをぶつける。

健人はゆっくりと立ち上がる。


「 ふん…… 。

バカ過ぎて来るとこまで来ちまったのかもな。 」


少し痛そうになりながらも立っていました。


「 健人…… お前…… 美咲の事…… 。 」


「 …… ああ。 」


花梨の言う通りでした。

健人は奥さんの事が好きだったのです。


「 どうして…… どうして。

なら何で今まで言わなかったんだよ。

いつからお前は…… 。 」


健人は勢い良く走って来て、胸ぐらを掴みました。


「 言えるかよっ!!

言えるかよ! こんな事…… 。

俺はお前より前から好きだったなんて。 」


健人は正直に話しました。

一平はびっくりして声も出せなくなっていました。


「 美咲ちゃんとは同じ塾に通ってたんだよ。

だから遠くからいつも見てた…… 。 」


そして健人は昔の話をしました。


小学生の頃、六年生になっても全く勉強をしなかった健人は、親に無理矢理塾に入れられてしまう。

やる気も無く、ずっと遠くばかり見ている。

鉛筆を落としても全く気付かないくらいに。


そこへ一人の女の子が来ました。

そして鉛筆を拾い。


「 鉛筆落ちてたよ。 はいっ! 」


そう言って手渡されて行ってしまう。

ありがとうとも言えずに…… 。

一平がいじめっこから助けた、女の子だって直ぐに気付きました。

相手は当時に帽子を被っていた為、そのときの健人を見ても気付きませんでした。


それから勉強はついでにして、健人は塾に毎日ように通っては美咲を見ていました。

健人の初恋でした。


その想いは伝えられずにいると、いつの間にかに美咲は辞めてしまいした。

中学校からは部活に励むので辞めたと、風の噂で聞きました。

後を追うように健人も辞めてしいました。


中学生になり一平と一緒に部活をやりつつ、女の子は誰が可愛い? とか言ったりして、青春を謳歌しました。


そして…… 。


「 高校に入ったら彼女が居たんだ。

本当にびっくりしたよ…… 。

だから俺は今度こそ告白しようと思っていた。

お前があんな事さえ言わなければ…… 。 」


高校で再開した日…… 。

二人はテニス部を覗きに行き、バレてしかられたあの日の帰り道。


「 あんなに怒る事ないのにな? 」


一平は怒られても全く気にせずに、ヘラヘラしていました。

健人は彼女の事で頭がいっぱいに。


「 健人…… あのマドンナすんげぇ可愛いかったな。

俺…… 惚れちゃったかも!! 」


照れながら言った一平。


「 その瞬間に俺はお前にだけは、この気持ちを話さないって決めたんだ…… 。 」


健人はそう言い下を向いて立っていました。

幼なじみで親友だったのに…… 。

同じ女性を好きになっていた事が、分からなかったのでした。


「 なら…… 正直に言えよ! 」


声を大きくして一平が言うと、健人が怒り、凄い勢い良く走って来て胸元を掴み上げる。


「 言えるかよっ!! 言えるかよ!

全てお前に劣っている俺が…… お前と勝負して、勝てたとでも思ってんのかよ!!? 」


そう言いながら勢い良く殴りました。

一平は転がるように雪の上に倒れる。


「 やっぱり彼女もずっと…… お前を想い続けてたみたいだった。

お前を見る彼女見て一瞬で分かった。

お前は彼女の事を助けたのに、覚えてもいなかったけどな! 」


呼吸を荒くしながら健人は思いをぶつけました。

今まで溜まっていた全てをぶつけました。

ゆっくりと一平は立ち上がる。


「 健人…… ごめんな…… 。

何も気付いてやれなくて…… 。 」


一平は小さな声で言いました。

健人は何も言い返さずに立っている。


「 すげぇ可愛いくて舞い上がって、お前の気持ちなんてこれっぽちも考えてなかった…… 。

本当にごめんな…… 。 」


一平は何度も謝りました。

健人は背中を向けて震えていました。

何度も鼻をすする音と共に…… 。


「 俺は…… 俺はこの前の話を聞いた瞬間、直ぐに…… 直ぐに気付いちまったんだ…… 。

美咲ちゃんが出した離婚届けが嘘だって…… 。 」


「 え…… ? 」


一平はその言葉を聞き、また思考が停止してしまう。


「 俺は…… 嫉妬していたんだ…… ずっと。

あの話を聞いた瞬間、お前に構って貰いたくてついた嘘だって直ぐに分かった。

…… 気付かないお前に怒りすら感じた。

だからお前の邪魔を沢山した…… 。

醜くて小さな男なんだよ。 」


話していた声は少し震えていました。

一平は少し黙ってしまう。

そしてゆっくりと近付いていく…… 。


( 一平は多分キレてる…… 。

だから思いっきり殴られる…… 。 )


その瞬間、肩に手を置かれてしまう。

健人は歯を食い縛る。


「 悪かったな…… 。

ただお前は大きく間違えている。

お前は俺に劣っているって言ったけど、俺はお前に何一つ勝ってると思った事はないぞ? 」


一平は言いました。

直ぐに健人は言い返しました。


「 んな訳あるかよ!!

いつも、いつも俺を助けてくれたじゃないか!

転校してきたばかりの時も、俺に手を差し伸べてくれたのは一平だけだったんだよ! 」


激しく言いました。

一平は直ぐに頭を横に振る。


「 あれはお前に興味を持ったから話しかけたんだよ。

助けた訳じゃない!

健人を見たときに鞄にゲームのキーホルダーが付いてて、同じゲームが好きなら絶対友達になれる。

そう確信したんだよ。 」


健人は初めて聞く話しに声を失う。


「 俺はお前と二人で遊ぶようになって、毎日が最高に楽しかったんだ。

大人になってまでこんなに仲が良いのも、健人…… お前だけなんだ。

俺は…… お前を許す!!

だからお前も俺を許してくれないか? 」


泣きながら振り返る。

そんな答えが来るとは全く思っていなかった…… 。

抑えていた気持ちが溢れて出てきてしまう。


( 違うんだ…… 違うんだよ。

俺はとっくにお前の事を許していたんだ。

だって…… 友達だから!! )


健人は分かっていたつもりでした。

だけど少しイタズラしたい欲求が出てきてしまいました。

幸せな人を見ると自分と重ねてしまいます。

今回はその度が過ぎてしまったのです。

やっている自分でも、分からないくらいに。


「 ごめん…… ごめんよ…… 。

ごめん、ごめんな…… 。 」


健人は泣きながら抱き付きました。

一平も嬉しそうに笑いました。

二人はどんなに月日が流れても、変わらない友情がそこにはありました。


「 こっちこそ。

お前だったら告白すれば、美咲もお前に惚れててもおかしくなかったよ。

だって最高の親友なんだからな! 」


健人はいつも見せないくらい泣きました。

二人のひび割れた友情は、元通りになっていました。


ビューーーっ!!

凄い勢いの風が吹いている。


「 へっくしゅんっ!! 」

「 へっくしゅんっ!! 」


二人同時にくしゃみをしてしまう。


「 にしても健人…… あの人形返して貰えないか?

あれがないと誕生日会に行けないんだ。

後はお前も一緒に行くんだからな。 」


男の友情を確かめている間に、時刻は17:21になっていました。

急いで帰ればまだ間に合う時間。


「 ありがとう…… 。

大丈夫。 あの人形なら下のロッカーに大切に保管してあるから。 」


「 ありがとう。 なら行こう!!

娘の誕生日会にな。 」


二人は肩を組ながら屋上をから店内に向かいました。


パキューーーー ンッ!!

店内からは凄い音が鳴り響いている。


「 ん!? なんだ?? 」


二人が家に着くのはもう少し先になりそう。

嫌な予感が過る、一平なのでした。

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