第19話 反抗期娘


また戦いに敗れた一平。

車に戻ると二人も同じ様子。

黙って車の椅子に腰を下ろす。

散々ダメで意気消沈する。


「 先輩…… バイヤーから買いませんか?

娘さんには何処から買ったとしても関係ないですよ。

男のプライドより、一人の親として決断した方が良いですよ。

悲しい決断ですが…… 。 」


村田丸はあえて厳しい事を言いました。

後は青森にある生産工場に行くしか選択肢がない。

もし当然ですが門前払いされたら、後は帰るしかないのです。

ですが今ならまだ間に合う。

誕生日プレゼントの為に、プライドを折るのも必要なのだと。


「 …… 俺も少しずつ気持ちが揺れてる。

倍近くの値段だけど仕方ないのかな。

これが今の世の中当たり前なのか? 」


自問自答しながら一平は歯を食い縛る。

健人はそれを断固反対する。


「 最後まで戦おう。

まだ生産工場もある。

バイヤーに負けたら終わりだぞ? 」


そう言い肩を叩く。

一平は何度も後少しで逃していて、もう手に入るなら何でも良いのかも…… と考えている。


気分を変えるためにファミレスへ。

村田丸はハンバーグを頼み、健人はステーキを頼みました。


( コイツら…… こんな苦労してるのに、良くそんなこってり食べれるな?

ん?? 俺は食欲ないのに…… 。 )


何やら積み重なるストレスで一平も爆発寸前に。

どうでも良いことでもイライラしてしまう。


ぶっ!!

激しい音が鳴る。


「 すいません。

屁が出てしまいましたぁ! 」


村田丸屁をしてしまう。

一平はテーブルを叩いて言いました。


「 お前らは何も分かってない!

この離婚騒動がどれだけ大変な事か…… 。

独り身のお前さんらに分かるかぁ!! 」


そう言いお手洗いに走って行ってしまいました。

残った二人は顔を見合わせる。


「 屁くらいであんなに怒んなくても。 」


村田丸は自然現象の為、怒られて少し気分が悪くなりました。


「 一平は今はピリピリしてんだ。

大目に見てあげてくれ。

でも俺も屁はイラついた。 」


健人はそう言い飲み物を飲みました。

村田丸は屁をしただけで、周りからここまで言われるのか? っと我慢出来なかったくせに、逆恨みしたい気持ちになりました。

相変わらずの村田丸。


一平はお手洗いからの帰りに歩いていると、男達の声が耳に入って来ました。


「 それにしても大量だぜ。

今日だけで50個だ。

金儲けはこれに限るぜ。 」


そう言い笑う男。

向かい側に座る男も一緒になり笑い、ステーキを頬ばる。


「 クチャクチャ…… ごくんっ!

うめぇなぁ! 楽して食うステーキはよぉ。 」


二人でばか笑いして店内に響く。

一平は何事もないようにスルーして通ろうとする。


「 あれ? あのおっさん…… 。

どっかで見なかった? 」


男の一人が一平を見て何処で見たような気持ちに。


「 んんっ?? あれは…… 。

そうだ! 負け犬のおっさんじゃん!

必死に並んでは毎回買えない。

正真正銘の負け犬だ。

だっはっはっはぁ!! 」


一平はそいつらを見て思い出す。

何回も出くわす若い男女のバイヤー集団。

こっちを指を指すなり大笑いする。

一平は黙って拳を握り我慢している。

座っていた大きめなパーカーを着ている女の子が、一平に話をかけてくる。


「 おっさん諦めなよ。

私らに敵う訳ないじゃん。

あの手この手を使って、こっちはあんた達の何手も先を行ってんのよ。

たかがプレゼント…… 。

良い加減大人になれよ。 」


毎回何かと一平に噛みつく女の子。

今日は更に増して噛みついて来る。

一平は穏やかな表情で言い返す。


「 俺はジェイミー人形が手に入らないと、離婚されてしまうんだ。 」


急に自分の家の事を暴露する。

男達は当然大笑い。

腹を抑えて笑いまくり。

女の子は驚きました。


「 えっ…… ?

そんな事で離婚される訳…… 。 」


女の子は何故か動揺している。


「 そんな事…… それは違うよ。

キミが最初言ったように、いくらでも予約する事が出来たんだ。

俺のせいで予約出来てなかった報いでもある。

家族を二の次で仕事ばかりした罰なのかもね。 」


そう言い笑いました。

女の子は黙って聞いている。


「 俺は家族が大好きで守る為に、仕事を最優先に考えていたんだ。

でもそれは違かったんだ。

奥さんに言われてそれが分かった。

沢山寂しい思いをさせていたんだ。 」


一平は疲れていたからなのか?

自分の身の上話をしてしまう。

急に立ち上がる女の子。


「 なら尚更バイヤーから買えよ!!

娘悲しませんなよ!

違うのか!? 」


女の子が大きな声で訴えると、男達はびっくりしてしまう。


「 俺も何度も悩んだよ。

でも俺はアナログ人間でね。

ネットとかで注文ではなく、自分の手で買い、自分の手でプレゼントを渡したい。

どんな結果になろうが、娘に恥じない父でありたい。」


一平は迷いのない目で話しました。

女の子は更に怒りが爆発する。


「 ふざけんなっ!

お前ら親父にとっては、誕生日なんかただの行事の一つだろ?

適当にやれよ! 格好つけんなよ!

プレゼント渡しときゃ好感度保てんだろ?

おかしいんだよ…… 。 」


感情的に話す女の子を見たのが初めての男達。

女の子は何かと重ねるように怒りをぶつける。


「 キミは本当は優しいんだね。

何度も気に掛けてくれていたんだね。

ありがとう。

俺はバイヤーは人の幸せを盗んでいると思う。

だから絶対に屈しない。 」


そう言い席へ戻って行く。

女の子は消化不良になりながら座る。


「 おい、どうしたんよ?

お前らしくないぞ。 」


「 そうだぞ。

あんなおっさん笑ってやりゃあ良いんだよ。

俺達は儲かればそれで良いんだよ。 」


男達は女の子にそう言い、またステーキを食べ始める。

女の子には一平を見ていると思い出す事が。


女の子の名前は柊木花梨ひいらぎかりん18歳。

今は大学生。

花梨は小さな頃から父親とは、あまり仲良くありませんでした。

誕生日やクリスマスのプレゼントはいつも、当日に枕元にあるだけ。

一緒にお祝いした事もありません。

お父さんは仕事が忙しいかったのです。


花梨はそんなお父さんが大嫌いでした。

家族を二の次にして仕事をして、プレゼントだけ渡せば立派な父親面出来る。

何とも簡単な事だ。

たまに家に居ても話しもせず、いつの間にか溝が出来て話す事は一切なくなりました。


そして現在…… 父親と暮らすのにうんざりして、家を飛び出しで一人暮らし。

大学に通ってはいるが、全くやりがいもない。

ただ、ただ空っぽの毎日…… 。

お金があれば幸せかと思い、バイヤーをやっている。

ただ心に空いた隙間は埋まる事はありませんでした。


父親からはたまにメールが届く。

体は大丈夫か? ちゃんと食べているか?

勉強は大丈夫なのか?

うざいだけで一切返信していません。


そして現在。

一平を見ていたとき、自分の父親と重なったのかも知れません。

一生懸命に娘を思い走る姿に、羨ましくもあり嫉妬してしまっていたのかも知れません。


( 恥じない父親でありたいか…… 。

ダサいな…… 本当に。

お父さんは私を愛していたのかな? )


花梨は一人寂しく思い悩むのでした。


一平は席に戻ると二人が話を聞いていました。


「 先輩…… 何であの子にあそこまで話したんですか?

話す必要全くないですよね?

笑われるだけだし。 」


村田丸は一平をバカにされた事に腹立てていました。


「 ん〜 、俺の気まぐれかな?

ストレス溜まり過ぎてたな。

すみませ〜〜んっ! モンブランケーキ大盛りでお願いします。 」


そう言いいつもの一平に戻っていました。

村田丸はやっぱり格好良い先輩だと思い、ついて行こうと再認識するのでした。


健人は黙ってステーキを食べている。


食べ終わり遂に最終目的地、青森におんぼろ車を走らせるのでした。


花梨は店から出てお母さんに久しぶりに電話をしました。


「 もしもし? 花梨??

元気にしてるの? 」


お母さんの優しい声。

久しぶりで緊張しつつ口を開く。


「 元気だよ…… 。

お父さんって今も忙しくしてんの? 」


唐突にお父さんの事を聞きました。


「 良かったぁ。

お父さんね、花梨が居なくなってから急に体調崩したりとかで、今は仕事の量減らしてるよ。 」


花梨はイラつきました。


「 お父さんって私の事どうでも良いんでしょ?

親子らしい会話なんてほとんどした事ないし、誕生日プレゼントだって本当はお母さん買ってたんじゃない!?

私なんて…… どうだって…… 。 」


初めて思いをぶつけました。

言いたくて仕方なかったのです。


「 それは違うんだよ。

お父さん…… 凄い花梨が大好きなの。

でもね…… 口下手で恥ずかしくて、上手く話せないだけなのよ。 」


「 えっ…… ? 」


お父さんの気持ちを初めて聞きました。


「 お父さんは花梨に少しでもおもちゃや、習い事出来るようにって仕事沢山してたのよ。

沢山貯金もしてるのよ。

その分寂しい思いさせてしまったって、ずっと後悔してるって。 」


お父さんの気持ちを考えた事は一度もなく、いつも自分目線でしか考えていませんでした。


「 運動会は毎年私が撮ったビデオ、欠かさず見てたのよ。

それにプレゼントは欲しいものを私が教えて、お父さんが必ずおもちゃ屋まで足を運んだのよ?

これは父親の仕事だ! って。 」


そう言いクスクスと笑いました。

その瞬間に花梨は手で口を塞ぎ、泣き崩れてしまいました。

愛されていないと勝手に思い込んでしまっていました。

いつも誕生日の日に枕元にあったプレゼント。

それは不器用ながらの、娘への愛の形なのでした。

花梨はやっと心の隙間が埋まる、そんな気持ちになりました。


自分は愛されていたのだと分かり、お父さんの事をもっと知りたくなりました。

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