第16話 償い


残り数少なくなっている棚の、ジェイミー人形に手を伸ばす。


ガシッ!!

一平は念願のジェイミー人形を掴む。

そして喜ぶのは後に、直ぐにレジへ走って行きました。

後ろからはまた一人、また一人と人形を持ってレジに向かいました。

一平はレジで代金を支払い、商品を受け取る。


「 お買い上げありがとう御座います。

またのお越しを。 」


その言葉を聞いた瞬間、ゆっくりと涙が流れて来ました。

遂に…… 遂に長き戦いが終わった事を噛み締める瞬間でした。


( 終わった…… やっと終わった。

これさえあれば、あの幸せを失う事はない。

さぁ。 帰ろうか。 )


その足取りは少し軽く、健人が何処かで倒れてるはずなので回収して帰ろうと思いました。

そこへ一人の年配のおばあさんとすれ違う。


「 あのぉ…… ジェイミーとか言うネコ?

の人形はありませんか? 」


一平の足が止まる。

おばあさんは店員さんに聞いていました。


「 ごめんなさい…… 今、在庫完売してしまいました。

また入荷するのでまた起こし下さい。 」


そう聞くとおばあさんは深くため息を吐く。


「 そうよね、ごめんなさいね。

孫が欲しい欲しいって言うから、どうにか買ってあげたくてね。 」


そう言って歩いて行きました。

一平はじっと見つめていました。


「 おばあちゃんなんて嫌いだぁ!! 」


そのおばあさんを見ていると、自分の過去と重なる思いがありました。


「 あの…… どうしまたしたか? 」


一平はおばあさんに声をかけました。


「 えっ? 大した事ではないですよ。

孫娘に人形を買ってあげたくてね。

凄く人気で全然買えなくて。 」


おばあさんは苦笑いして言いましました。

近くのベンチに座り少し話を聞く事に。


「 孫娘とは一緒に住んでいまして、おばあちゃん、 おばあちゃんっていつも懐いてまして。

あの子が喜ぶ顔の為なら何でもしてあげたくてね。

でも…… クリスマスにあの人形が欲しいと言われましてね。

どうしても喜んで貰いたくて探してるんですが、全然見つかりませんでした。 」


悲しそうにおばあさんは語りました。

ソフトクリームを食べながら一平は聞いていました。


「 この前孫娘にクリスマスは違うのは? って言ったらですね、凄い大泣きしてしまいまして。

嫌いだ! って言われちゃいました。

この年になると堪えますね…… 。 」


孫娘の為に朝早くから並んでも、みんなも本気で採りに来ている。

年配の女性にはあまにも酷な話でした。

一平は足元を見ると、転んだであろうズボンは汚れて手は少し怪我していました。


「 お兄さんごめんね。

こんなつまんない話しちゃって。

年寄りになると長話しかしなくなっちゃって。

でも聞いてくれてありがとう。

少し気分が良くなりました。 」


そう言いながら笑って何度もお辞儀しました。

一平はソフトクリームを一気に食べて、コーンを口に全て放り込む。

頬を大きくしながら食べている。

すると一平は過去を思い出していました。


まだ五歳の頃…… 一平の家はお父さんは妹が生まれてから直ぐに、病気になって亡くなっていました。

お母さんは昼間は仕事のとき、良くおばあちゃんに面倒を見てもらっていました。

一平はいつも優しいおばあちゃんが大好き。


そんなある日。

一平はあるヒーローのベルトが欲しくて、おばあちゃんにお願いしました。

おばあちゃんは直ぐに買ってくれようとしましたが、人気だったので何処にも売っていませんでした。


「 ごめんね一平ちゃん。

おばあちゃん沢山探したけど、全然見つからなかったんだ。

諦めて違う物じゃダメかい? 」


子供にはそんな理由は通用しません。

大泣きしながら何度もだだをこねました。


「 やだやだ!! 買うんだ買うんだ!

おばあちゃん買うって言ったろ?

うわぁーーんっ! わぁーーんっ。 」


泣いておばあちゃんを困らせました。

一平はそのときに強くこう言いました。


「 おばあちゃんなんて嫌いだよぉーーっ。 」


一平はその記憶を思い出して、過去の自分を見ていました。

そのときにおばあちゃんはどれだけ傷ついただろう?

何で直ぐに謝れなかったのだろう?

今でも何度も後悔してしまう。


おばあちゃんは元々が病気で、そのあと少しして亡くなってしまいました。

一平はずっとずっとおばあちゃんに謝りたくても、二度と謝る事が出来ませんでした。

大きくなるにつれて後悔の念は強くなるばかり。

あの時どうしてもっと思いやれなかったのか?

一平はおばあちゃんが大好きでした。


そんな過去を思い出していました。

急に一平は立ち上がりました。


「 んにゃ…… おばあさんのお孫さん。

おばあさんが絶対大好きですよ。

おもちゃが欲しくて酷い事言っても、絶対にその気持ちが変わる事ありません。

俺には分かります。 」


そう言いました。

おばあさんも一平と話して気が晴れていました。


「 ありがとう…… 。

お兄さんはどうして私なんかの話を? 」


おばあさんが尋ねると、一平は言いました。


「 ただの自分の自己満足でして。

そろそろ失礼しますよ。

お体を大切に…… 。

っとこれ良かったらどうぞ、それでは!! 」


そう言い大きな箱を置いて立ち去ってしまいました。

おばあさんは一平が手を振ってるのを見届けました。


「 良い若者でしたね…… にしても、何でしょうか?

この大きな箱は? 」


そう言いながら袋の中を覗き込む。

するとおばあさんは驚いて、地面にしりもちをついてしまう。

直ぐに一平を止めようと思うと、すでにその姿はなくなっていました。


「 お兄さーーんっ!

何で…… 何でこんな…… 。 」


泣きながらベンチに座り込む。

そして袋からはみ出て見えていたのは、あのジェイミー人形でした。

おばあさんは嬉しくて嬉しくて涙が止まりません。

あのどうしても手に入らなかった物が、やっと手に入りました。

お礼を言おうにも一平は居なくなっていました。

なんでこんな事をしてくれたのか?

全く分かりませんでした。

おばあさんはそこで少し泣き続けました…… 。


一平は清々しい気持ちでデパートを出ていく。

そして空を眺めて笑い。


「 おばあちゃん…… 俺間違ってないよね?

少しは良いことしたかな? 」


そう言いながら笑顔で車の元へ。

その姿を一人のおばあちゃんが見ている。


「 一平ちゃん…… 本当に大きくなったね。

それで良いんだよ。 」


直ぐにその姿はゆっくりと消えてしまいました。

一平のおばあちゃんが見て居たのかもしれません。


( 昔の自分の過ちを少しでも償いたい。

自己満足だけどやってしまった。 )


ゆっくりと車へ歩いて行きました。

一平にはどうしても他人事には考えられなかったのでした。

清々しく、男らしく車へ戻るとそこには二人が待っていました。

そして訳を話しました。

一平は二人にぼこぼこにされてしまいました。

分かってもらえるはずもなく…… 。


( お孫さん喜ぶと良いなぁ。

また買えば良い…… ね。 おばあちゃん。 )


ぼこぼこになりながら車に乗り、また次のデパートへ向かいました。

一平は少し満足そうでした。

するとバイヤー軍団が車に、大量のジェイミー人形をトランクに積めているの所に遭遇する。

そして男達はこっちに気付き煽って踊っている。

直ぐに一平は怒り、窓を開けて騒ぐ。


「 お前ら!! またそんなに買って!

絶対にいつか痛い目見るからな?

分かったなぁーーっ!! 」


負け犬の遠吠えのようにしか聞こえず、相手は笑っているだけでした。

ぼろぼろの健人とイライラの村田丸は、無言で次の場所へと車を走らせる。

後何件かデパートを巡りますが、手に入れる事は出来るのでしょうか?

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