第15話 秘策
車は高速を走り続けてどんどん気温も下がっていく。
関東から東北方面だとやはり気温は違ってくる。
朝早くに青森に到着…… したかと思いきや、そこは岩手県でした。
「 ちょっと! ちょっと運転手さん。
ここ岩手ですけど!
何で岩手なのよ? 」
一平は当然運転手に文句を言いました。
「 そりゃ知りませんよね。
先輩は途中寝てましたもんね!
俺達で情報集めしてたら、青森に行く途中の岩手の何件かのデパートで、入荷する情報を手に入れたんですよ。
林さんからの情報でして! 」
一平は直ぐに納得して村田丸の肩に手を置く。
「 林さんに感謝だ。
やったな村田…… うぇっ!? 」
一平は村田丸の顔を見ると、目には大きな熊さんが出来ていました。
驚いて元の席に戻る。
「 お前さん三日くらい寝てないくらいの、デカい熊が出来てるぞ??
大丈夫かよ!? 」
心配して聞くと村田丸は少しヨタヨタしながら
「 大丈夫っ…… す。
俺はまだまだいけます…… 。
負けませんよ。 」
と苦笑いして余裕を見せる。
( 格好つけてるけどもう限界だな。
そう言えば村田丸は夜は0:00前には寝る、健康マンって噂だったなぁ…… 。
そりゃ辛いわな 。)
村田丸のやせ我慢が直ぐ分かり、仕方なく仮眠をさせて休息させようと思う。
「 村田ありがとう。
お前に倒れられても困る。
だから少し寝ていろ。
ここは俺ら大親友コンビでやる。
そうだろ? 健坊っ 。 」
健人を昔からの馴染みある呼称で呼ぶ。
健人もゆっくりうなづき。
「 そうだ。 ゆっくり寝てろ。
行くぞ一平! 」
そう言い二人はデパートに並びに行きました。
その歩く姿を車から眺める。
「 カッコいい…… ってあの人らは、俺が運転してる間にちょこちょこ寝てたじゃないか!
まぁ…… 上手く行くことを願…… う。 」
あっという間に子供のように寝てしまう。
大きなイビキをかきながら、気持ち良さそうに深い眠りへ。
相当疲れていた様子。
二人が開店前のデパートに到着。
既に三十人以上が並んでいる。
その半数以上は大人の男性。
クリスマス前のお父さんがほとんどだろう。
「 これは…… 接戦になりそうだぜ。 」
と一平は深く息をつく。
今までもかなり凄まじい戦いだったが、ここには男ばかりで何でもありの戦場。
待った! 無しの容赦ない戦いの幕が上がろうとしていた。
「 げっ!? あんたまだ懲りずに来てたの?
いい加減諦めなよ…… 。 」
一平に誰か女の子が話をかけて来た。
その声は何処かで聞き覚えのある声…… 。
振り替えって見ると、そこにはいつか見たバイヤーの女の子でした。
「 キミは…… またそっちも来たのかい?
そんなに儲けてどうするんだい? 」
イライラしながらも抑えて、平常心を保ちつつ聞きました。
「 当然でしょ、これで生活してんだから。
あんたもいい加減諦めなよ。
見てて苦しくなるんですけど? 」
ラフな格好でガムを噛みつつ、大人をバカにした態度で話している。
「 キミが思ってる通りの間抜けかもしれないね。
予約もせずにこんなクリスマス前に、やっと必死に買おうともがいている。
笑われても仕方ないよね…… 。 」
女の子はスマホ片手に、フリマアプリの相場を調べつつ話を聞いている。
「 一人娘が居てね。
凄い欲しがってるんだ…… 。
情けない親だけど、絶対に悲しませたくないから。
俺は娘の為ならなんでもする。 」
そう一平は言いました。
その女の子はスマホを止め、一平にまた質問してきました。
「 親の勝手に付きあわされるのは、いつも子供だよ。
いい加減反省してあたしらバイヤーから、高値で買ったらどうなの?
そうすれば娘さん喜ぶんでしょ?」
その女の子はまた交渉してきました。
何度もバカにしていた彼女は、今回は何故か一平にどうにか手に入れてもらいたい。
そんな風に感じました。
「 娘は絶対買えば喜ぶと思う…… 。
だけど俺はどうしても自分の手で手に入れたいんだ。
それが親ってもんだろ? 」
そう言い笑いました。
その女の子は大きく歯ぎしりしました。
「 格好つけんなよ!
いつも期待して裏切られる!
だからお前みたいなクソ嫌いなんだよっ!! 」
いきなり発狂して仲間の元へ戻って行く。
一平はいきなりの事に少しびっくりしてしまうが、自分にはこの戦いがある。
直ぐに戦闘態勢に戻る。
「 一平…… 今の子は? 」
健人が隣でずっと聞いてたので、気になり問い掛けてきました。
「 ん〜 、何度もあってるバイヤーの女の子。 」
そう言うと健人は苛立ちました。
「 なんだよ、あの態度は!!
大人を嘗め腐りやがって。
あんな生き方しといて、偉そうに言ってくんじゃないってのな? 」
健人は苛立ちながら一平に話しました。
でも一平は少し違っていました。
「 うん…… 。 あの子。
ずっと笑ってないんだ。
沢山稼いでいて、お金もあるのに。
俺は何か悲しいと思っちゃったな…… 。 」
一平は少し悲しそうに話しました。
「 あんな生意気なのに可哀想とかあるか?
俺は全く思わなかったけどな。 」
健人は一平の分まで苛立ちを溜め込んでいる。
「 そうなんだけどね…… 。
何かなんとなくだけど俺に似てるからさ。 」
一平は何か自分と似ている部分を感じていました。
そこからまた時間が経ち、遂に店の扉が開く。
みんなは息を止め、走る準備に入る。
「 扉が開いても決して押したりせず、ゆっくりお買い求め下さいませ。
数に限りありますが混雑が予想される為、怪我しないように安全に…… 。 」
店員さんが拡張機でみんなに注意を促す。
でも誰も聞いてるように見えません。
見えているのはただ一つ…… 。
ジェイミー人形のみ。
そして…… ゆっくりと扉が開閉される。
それと同時に、一斉に店内へ乗り込む。
案内をしていた店員は、直ぐに獣達に踏み潰されて見えなくなる。
一平と健人も凄い勢いで店内へ。
大の大人が我先にと、力いっぱい走って行く。
その少し前の事…… 。
車から出る時に村田丸から、ある秘策を聞いていました。
「 おもちゃ売り場は三階。
みんなは通常通りエスカレーターを駆け上がり、おもちゃ売り場に向かうと思います。 」
村田丸はデパートの地図をスマホで出して、作戦会議をしていました。
「 普通にみんなと同じでは、手に入れる事は難しいでしょう…… 。
ただし…… 奥の手を用意しました。 」
そう言いながらある階段を指さしました。
「 ここは入って直ぐの非常階段。
みんなは押し合ったり、引っ張りあって混雑して目的地に着くのは遅いと思います。
なので二人はみんなと違う道を使い、独断で目的地にたどり着いて下さい。
これは僅かですが可能性が高いです。
頑張って下さい…… 。 」
そして現在…… 。
二人は作戦通りに直ぐに非常口から階段を駆け上がり、三階へ上って目的地へ。
二人は勢い良く駆け上がる。
その頃みんなは予想通り、お互いを引っ張りあったりと我先に、揉み合いながらぐだぐたになっていました。
エスカレーターから落ちてしまう者や、吹っ飛ばされて食品売場に突っ込む者も。
店からしたらたまったものではありません。
( はぁはぁはぁ…… 。
負けるか…… 負けてたまるか。
このチャンス…… 絶対に逃さない!! )
一平と健人は目的地へ走る。
息を切らしながら前へ!
遂に…… 目的地が見えてきました。
既に走りが速いと見える筋肉マン達が、ジェイミー人形を手に取っている。
ざっと見ても残り40個…… 。
「 一平〜っ!! 先に行けぇーーっ!
俺はあの獣達を足止めする。
ジェイミーを勝ち取れぇーーっ! 」
そう言いながら健人は曲がって、通常の道から来る大群に向かって行く。
「 健坊ーーっ!! 」
一平は振り向かずおもちゃ売り場へ。
健人は大群の中、一人立ち向かう。
「 ここから先には絶対に、行かせる訳にはいかない!!」
当然ですが絶対危ないので真似しないで下さい。
健人は直ぐに肘打ちされたりと、押されたりして下敷きにされてしまう。
サイの群れのような勢い…… 。
一平は少しだけ群れの来るのが遅くなっている内に、ジェイミーの元へ辿り着く。
「 うおおおぉーーーーっ!! 」
ジェイミーは誰の手に!?
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