第9話 男のプライドの為に
ポンコツ号に乗り隣町のオモチャ屋へ。
車内で一平は朝から料理やらなんやらで疲れてしまい、村田丸に任せて眠っていました。
村田丸は交換条件でもあるので、忠実に従ってオモチャ屋へ車を走らせました。
只今の時刻は9:00。
目的のオモチャ屋に着きました。
営業開始一時間前に到着したのもあり、店の前にはあまり人は居ませんでした。
「 先輩、先輩っ! 全然人居ませんよ。
これは今から並んだら、間違いなく買えますよ。
俺なんか必要なかったんじゃないですか? 」
村田丸は一平の行動力を尊敬しまくりに。
仕事の時と同じく要領良くやっていて、憧れの眼差しで見てしまいます。
「 村田丸…… まだまだ甘い。
もしもだぞ? 入荷数が少なかったら?
腕力の強い女性が割り込んで来たら?
あらゆる可能性を考え、村田丸にも協力してもらいたいんだ。 」
そう話す一平の目は真面目その者…… 。
「 さすがは先輩。
ずっと付いて行きます! 」
そこから少し経って営業時間まで残り10分。
人は集まってきて緊張が走る。
今回は女性6割の男性4割。
ほとんど前に並んでいるのは男性。
お父さん達の意地に懸けても、子供達にプレゼントを渡す。
そんな強い思いを感じました。
( 今回は必ず手に入れる。
その為ならどんなに醜くなろうが、俺は戦う…… 命に懸けても。 )
一平は戦いの前に来て緊張していました。
すると店員さんが一人出てきました。
手持ちの拡張機を使って、遠くまで聞こえるように何かを話し始めました。
「 朝から大変お待たせして申し訳御座いません。
只今より整理券をお配り致します。
大変人気商品の為に混雑が予想されます。
なので平等に抽選での販売になります。
整理券に書いてある番号が当選していたら、商品の購入権利となります。
申し訳ありませんが宜しくお願い致します。 」
一平は頭の中が真っ白に。
また作戦が台無しに…… 。
直ぐに我に返る。
( まだハズレた訳じゃない。
これで当たってたらそれで終了。
さぁ。 抽選始めようぜいっ! )
全員に行き渡りました。
ざっと見積もっても、100人以上。
商品はどれぐらいあるのか?
それすら分かりません。
一平と村田丸は番号確認に行くと…… 。
「 ダメだった…… 。 」
「 右に同じっす…… すいません。 」
また希望が逃げて行きました。
二人は車に戻りぐったりする。
商品が当たって買えた人達がぞろぞろと店から出てきました。
耳をすまして聞いてみる。
「 うん、うん。 買えたよ。
後何店舗か回ってみるよ。 」
「 何とか手に入ったわ。
出品しておいてくれるかしら? 」
「 買えた…… 買えた。
これで今月は結構な儲けに。 」
何処からも子供のお父さんやお母さんの話しではなく、転売ヤー達の欲に溺れた声しか聞こえてきません。
「 うぉーーーーっ!! 」
一平は雄叫びを上げて飛び出しました。
「 お前達は恥ずかしくないのか?
そんなにお金が欲しいのか?
何でこんな酷い事が出来るんだよーーっ!! 」
一平の悲痛な叫びは誰にも相手にされる筈もなく、周りからクスクス笑い声が聞こえて来る。
人によってはスマホで動画にあげる始末。
「 先輩止めて下さい…… 何言っても無駄っすよ。
アイツらには俺達なんか、負け犬にしか見えないんですから。」
一平は息を切らしながらゆっくりと車へ。
少し大声を上げたら気が楽になりました。
ただ悲しみも増えていってしまう。
「 ダサいからやめな。
みっともないから騒がない方がいいよ。 」
一人の若い女性が一平の横を通りすぎながら言いました。
「 だからって何もしないままでは…… ん?
キミは?? 」
その女性は前日に会った転売ヤー軍団の一人。
若い男達の中に一人居た女の子。
また商品を転売する為に来てた様子。
「 この国は平等、平等とか言ってるけど弱肉強食。
弱いヤツはバカ見るように出来てんのよ。
だから大人しく私ら転売ヤーにペコペコ頭下げて買えば良いのよ。」
その女の子は20歳越えてないくらいの若い女の子。
話す言葉は煽っているようではなく、ただ悲しみにしか聞こえてきませんでした。
「 そうなのかもね…… 。
段々と俺も分かってきたよ。
でも俺は諦めない。
ただの頑固もんと思われようと、キミ達からは絶対に買ったりはしない。
それが父親であり男なのだから。 」
そう言った一平は少し笑っていました。
その女の子は舌打ちをする。
「 ダせぇ…… 何が父親だよ。
どんなにあがいても無駄なんだから。 」
女の子がそう言いながら去って行く。
そして仲間達と合流しました。
「 大丈夫か?? 何とか二個手に入れたぜ。
抽選って本当良いよな。
運試しみたいに当たるし! 」
仲間の男達の手にはぬいぐるみが。
一平と村田丸の口は開きっぱなしに。
女の子はこっちを見るなり苦笑い。
そして大きなワゴンに乗って帰って行きました。
男二人はゆっくり車へ。
村田丸はゆっくり口を開きました。
「 俺は先輩の味方っす。
娘さんのプレゼントをどうしても、自分の手で手に入れたい。
全然恥ずかしくないです。 」
一平は鞄から何かを取り出しました。
「 ほいっ! これ食って次行くぞ。
まだまだ始まったばっかりだ。
パクりっ!! …… もぐもぐ。 」
「 先輩…… そうっすね。
ありがとうございます。
…… って何できなこ餅!?
こんなん車で食べないで下さいよ!
すげぇこぼれちゃいますって!! 」
きなこ餅はきなこが餅から離れやすく、床にこぼれやすい食べ物。
一平は気合いを入れる為に、ガツガツと口に入れました。
当然こぼれまくってしまう。
「 先輩っ先輩ーー!
尊敬するの取り消します。
最低です、お願いやめてやめてっ!
俺の大切な車なんですから。 」
村田丸は必死にこぼれたきなこほ拭きました。
シートにこぼれたきなこは落ちにくく、色は全然取れません。
「 負けるかぁーーっ!!
俺はパパなんだぞぉ!
あんなのに負ける筈がっ…… ゲホッ!
ゲホッ!! ゲホッ! 息が出来ない。 」
きなこが喉に詰まり、咳が出て大量のきなこ煙が吹き荒れる。
「 先輩ーっ!! ゲホッ!ゲホッ!
ふざけ過ぎですって。 ゲホッ! 」
手作りきなこ餅を食べ、二人はまた次の店へ向かうのでした。
また一つ二人の友情は強く? なったのでした。
そこから何店舗か行ってみましたが、在庫がある店はほとんどありませんでした。
ナビを頼りにポンコツ号を走らせ、きなこの香りが漂わせながらまた次の店へ。
少しきなこのせいで茶色の二人は、お昼の為にファーストフード店へ。
二人でバーガーを食べながら次の場所を探す。
「 先輩…… 多分奥さんも娘さんも訳を話してみたら分かってくれますよ。
こんな酷い現状で買える方が変なんです。
他のにしませんか? 」
食べるのを止めて一平は一枚の紙をテーブルに。
それは奥さんの記入済みの離婚届。
「 先輩…… これって…… ? 」
「 村田丸くん…… これは俺の人生がかかった戦いなのだよ。 」
そう言いながらここまでの出来事を話しました。
村田丸は何度も声を上げて驚く。
「 ぐすんっ! そんな…… ひっぐ!
そんなんあんまりじゃないっすか!?
こんな仕事頑張って家族の事思ってないだなんて。
先輩は誰よりも家族を思ってるのは、俺だってしってます。
酷過ぎるよーーっ!! ぐすっ! ぐすっ! 」
村田丸は泣きながら聞いてくれました。
一平は自分の悩みを理解してもらい、少し気持ちが楽になっていました。
「 村田丸…… 食ったら行くぞ。
男はなぁ? ぐじぐじしてる暇なんてないんだ。
ばくばくっ!! 俺は諦めない。 」
そう言いながらポテトを大量に口の中へ放り込みました。
そのポテトは少ししょっぱかった…… 。
二人はポンコツ号に乗り次の場所へ。
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