第8話 一平の決断と旅立ち
12月21日の朝…… 。
誕生日まで残り2日。
奥さんはいつものようにみんなの朝食を作ろうと、目覚ましを止めてから起き上がりました。
隣をみると一平の姿がありません。
「 あれ…… もう仕事なのかしら? 」
そう言いながらゆっくりキッチンへ。
そこにはYシャツ姿のきっちり決まった、一平の姿がありました。
「 おはよう美咲。 」
一平は笑いながら言いました。
奥さんも直ぐに返すと、目の前に広がっていた料理に目を奪われてしまう。
「 これ…… ちらし寿司じゃない?
朝からあなたの得意料理。
熱でもあるの? 大丈夫?? 」
そう言いながら一平のおでこに手を当てる。
「 全然大丈夫だから安心して!
俺は問題なく最高の気分だ。
美咲…… 実は大切な話がある。 」
遂に一平は真実を話す気になったのでしょうか?
改まって話されると奥さんも緊張してしまう。
「 どうしたの?? 」
「 実は…… 急な出張が入って二日間帰って来れないんだ。
すまない…… でも絶対愛菜の誕生日には間に合わせる。
だから心配しないでくれ? 」
何が何だか分かりませんでしたが、仕事だから仕方ないと思いました。
一平はまた嘘をついてしまいました。
そして嘘をついたからには、目的を達成しなければいけませんでした。
ジェイミー人形を手に入れる為の、最大のミッションでした。
一平は昨日のうちに部長に連絡して、三日間の有給休暇を取得していたのです。
溜まっていたので、何処かで消費しなければいけなかったので丁度良かったのかもしれません。
「 パパぁ…… おはよう。 」
眠そうな顔して起きてきた愛菜。
一平は直ぐに駆け寄り、強く抱き締めました。
「 おはよう愛菜…… パパ。
パパは頑張って来るからね。
絶対に帰って来る…… だから心配しないでおくれよ?
朝ご飯にパパ特製のちらし寿司作ったから、沢山食べるんだよ。 」
「 うん。 パパお仕事頑張ってっ! 」
愛菜に励まされると、一平の目から涙が溢れる。
( えっ!? 大げさ過ぎじゃない?? )
奥さんは一平のいつもと違う姿に、ただ、ただ動揺してしまう。
そして二人で玄関まで見送りに。
「 二人共、行ってくるよ。 」
奥さんは少し怖くなってしまい。
「 あなた…… 帰って来るのよね? 」
まるで戦いに行くかのような別れに、奥さんは心配で仕方がありませんでした。
「 当然だろ? ここは俺の家だ。
ローンだってまだ沢山残ってる。
愛する家族の為に頑張って来るから!
行ってきまーーすっ。 」
そう言い玄関から出ていきました。
二人はゆっくり手を振りました。
そして愛菜は、奥さんの手を引っ張りました。
「 パパの作った美味しいちらし寿司食べよう。
私大好きなんだぁ。 」
満面の笑みを浮かべていました。
奥さんも笑いキッチンへ。
「 そうだね、パパの美味しいもんね。
って…… 言うか、朝からちらし寿司?? 」
一平の作れるレパートリーは少ないのでした。
一平は外に出て眩しい朝日を浴びる。
「 何て眩しいんだ…… ド派手な戦いになりそうな予感がするぜ。 」
そう言いながら一台の軽自動車に乗りました。
「 よし…… 行くぜい!! 」
「 行くぜいじゃないですよ先輩! 」
その声の主は村田丸でした。
村田丸は一平を激しく問い詰め始める。
「 先輩! 何でいきなり休まないといけないんですか?
折角の有給休暇使ってまで…… 。 」
なんと! 一平は村田丸に頼み、一緒に有給休暇を取得させようとしていたのです。
「 ふっふっふ…… 甘いよ村田丸。
有給なんてあって無いもんなんだわ。
早く消費しようと、後で消費しようと同じなんだってば。
なら一緒に旅行出来る方が幸せじゃないか? 」
自分勝手な理由で休みにさせる一平。
当然、村田丸も怒ってしまう。
「 冗談じゃないっすよ。
勝手にもほどがあるんじゃないっすか?
しかもアッシーみたいにして、俺をこき使う気満々じゃないっすか?
俺だってプライベートはあります。
早く降りて下さい…… 今から会社に出社します。」
当然の反応…… 。
やっぱり有給を使ってまで休んでくれるはずもなく、一平を降ろそうとしました。
「 村田丸…… 俺達の仲じゃないか?
どうにか考え直してくれないか? 」
「 無理っす! イヤっす!
俺達はプライベートまで仲良くないです。
さぁ。 早く降りて下さい。 」
全く聞き入れて貰えません。
村田丸もそこは上下関係なく、強く断りました。
「 そうか…… そうだよな。
俺が悪かった…… すまなかったな。
朝早くに呼びつけたりして。 」
やっとこりたのか? 申し訳なさそうに言いました。
村田丸も大きくうなづきながら。
「 そうっすよ。 当然です。
それじゃ俺はそろそろ…… 。 」
その時一平は、一枚の紙を村田丸に見せました。
「 ん? これはなんですか? 」
その紙には何やら誰かの電話番号と、ラインIDが書いてありました。
「 これは林さんの番号とラインIDだ。
俺は仲良くしてるから知ってる。 」
「 えっ?? 林惠子さんの!? 」
村田丸は激しく動揺しました。
それもそのはず。
村田丸は林さんの事が気になっていたのです。
セールスマンの観察眼により、簡単に分かっていたのです。
一平はそれを見て見ぬふりをしていました。
そう…… この日のように、どうしても助けて欲しいときに絶対に言う事を聞かせられる最強の武器なので、今まで使わずにいました。
一平は上司でもあり、林さんと接する機会が多い。
なので当然のように番号も、ラインIDも知っていました。
逆に村田丸は林さんに話をかける勇気もなく、話しかけて貰ったら返答する。
そんな毎日でした。
「 村田丸くん…… 俺達は最強の友達だろ?
考え直して貰えないだろうか? 」
そう言いながらニヤリと笑う。
その時、互いに頭の中で静かに戦いが始まる。
( 村田丸くんどうだ?
お前さんには断る理由はないだろ。
林さんの番号なんて、お前には国宝級のお宝。
欲しくてヨダレが出ちゃうだろ?
さぁ…… 俺の下部になれいっ!!)
一平は村田丸の弱味を握り、断れない事を良いことに強気でいました。
( なんて言う先輩だ…… ゴミ野郎だ…… 。
こっちが好きなの知っていやがる。
にしても欲しい…… ヨダレが出そう。 )
村田丸も悩みまくりました。
でも知っていました。
もしもこの悪魔の誘いに乗れば、何か嫌な予感がする。
そんな気持ちに。
( ダメだ…… ダメだ…… 。
俺の有給はそんな安くない!
無駄にしてたまるか……たまるか。
アッシーにはならんぞ。
絶対に…… 絶対に!! )
心の中で何度もそう叫びました。
村田丸の決心が固まりました。
「 良く考えれば先輩とこんな風に出掛けたいと思ってたんです。
だって俺達は仕事仲間を越えた、最強の親友なんですもんね。 」
村田丸…… 敗れる。
完全に女に釣られてしまいました。
そして一平も笑う。
「 やっぱりそうか!?
大親友は違うなぁ〜 っ。
さぁ行くぞぉ! ポンコツ村田丸号! 」
「 ポンコツ言わないで下さいよ。
まだ走行距離200万キロぐらいなんですから。」
意外に走り過ぎなポンコツな軽でした。
そして二人を乗せておもちゃ屋へ。
( 待ってろよ愛菜…… パパはどんな手段を使おうが、お前を泣かせたりなんかしない。
美咲…… 寂しい思いばかりさせてごめん。
俺は変わるんだ…… ここから新たな一歩を踏み出す。
待っててくれよ。
直ぐに離婚届けなんて破り捨ててやる。 )
一平は固い決意を持ち、ポンコツ村田丸号で二人は旅に出掛けるのでした。
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