第7話 魔物の狩場


扉が開いた瞬間に一平は我先にと、凄いスピードで走り出す。

扉の前に居たのもあり、男なので女性より体力もおるのでどんどんと周りとの距離を放していく。

人形はおもちゃさんの二階にある。

階段を二段ずつ跳ばして登って行く。


( まだまだだな…… 。

俺は昔はハヤブサの一平ちゃんと言われるくらいに、凄い体力には自信があるんだぜい?

そこらのママ友遊びしてたりしてる、甘い日常を過ごしているようじゃ、俺には勝てないぜい? )


一平はママ友への偏見が強かった。


あっという間に売り場に到着。

息は少し荒れていたが、さすがにまだ余裕でした。

そして店員さんがジェイミー人形を売っている場所で、プラカードを持って待っていました。


「 こちらがジェイミー人形の売り場です。

慌てずにゆっくりお願いしまーーすっ! 」


勝ち誇った一平は息を整えつつ、ゆっくりとジェイミー人形の元へ。


「 やっと…… やっと手に入れた。

遂に手に入ったぞぉーーっ! 」


人形を手に取り天へと掲げる。

涙がこぼれそうになりますが、どうにか抑えて喜びを噛み締める。


ドッドッドッド…… ッ。


( ん? …… 何の音だ!? )


何やら遠くから重い足音が勢い良く迫ってくる。

どんどん大きくなっていく。


ドッドッドッド…… ドンドンドンドンッ!!

その音の原因が階段から現れました。

予想通りのママさん達の軍団です。

人形求めて凄い勢いでやってきました。


( うんわぁ…… みんなも必死だよな。

早くレジ持って行こうっと…… 。 )


圧倒されながらもゆっくりと、レジへ向かおうとしました。

すると、一平は軽く足元がフラつきました。

ここまで必死に歩いていた事や、階段を全速力で上った事により疲労していたのです。

さらに…… !!


( ヤバい…… 足がフラつくだけじゃなくて、靴ヒモがほどけてしまった。

このままじゃあの、ママさん軍団に巻き込まれる。

せめて店員さんに助けを求めないと! )


焦ってしまいながら、店員さんに助けを求めました。


「 すみません、すみませんっ!

あの…… 靴ヒモがほどけてしまって、この人形代わりに持っててもらえます? 」


プラカードを地面に置いて、店員さんは優しく対応してくれました。


「 パパさんも大変ですね。

仕方ないですねぇ。 早くして下さいよ?

ん?? …… うわぁっ!! 」


店員さんに人形を手渡した瞬間、ママさんの群れが凄い勢いで迫って来ました。

まるでサイの群れのような勢い…… 。


「 お客様…… まだ在庫が御座います。

急がずに押さないで下さっ…… わぁっ!! 」


店員さんはママさんの群れに飲み込まれてしまう。

あっという間に姿が見えなくなりました。

一平も靴ヒモを結びながら、必死に来ないように手を出しました。


「 ちょっと…… 落ち着いて下さい!

そんな勢いで来たら…… いやぁーーっ!! 」


一平も群れの中に飲み込まれてしまう。

一平は凄い勢いで押されたり、蹴られたり踏み潰されたりしました。


( 痛い…… 痛すぎる…… 。

うぐおっ!! コイツらには人を思いやる気持ちは、もうなくなってしまったのか? )


沢山の人に踏み潰されたりしながらも、どうにかはいはい歩きで外へ出れました。

スーツはぼろぼろで足跡だらけ。

直ぐに店員さんを探しに行く。


「 店員…… さん。 店員さん!

何処に居るんだ? 店員さーーんっ!! 」


店員さんを見失った近くを探しました。

するとおもちゃ売り場に吹き飛ばされて横たわる店員さんが、ボロボロな姿で発見される。


「 店員さぁーーん! 」


直ぐに駆け寄りました。


「 うっ…… お客さん…… 。

私は大丈夫です…… 。 」


意識が薄れながらも答えました。


「 そんな事よりジェイミー人形は!? 」


「 ん?? …… はっ!?

必死に持っていたのに、いつの間にか失くなってしまいました。

申し訳御座いません…… 。 」


なんと! 店員さんは群れに引き跳ばされながら、いつの間にか誰かに取られてしまいました。


「 クソォーーっ! ハイエナ共めいっ!

まだ間に合うっ…… 待てーーいっ。 」


一平は必死に走りました。

残り個数は遠目に見ても、残り5個くらいに見える。


( んふっふっふ…… 。

女なんかに俺が負けると思うか?

男をなめるんじゃ…… ねぇーーぞっ!

力でねじ伏せてくれるわ。 )


何とも非常な考え…… 。

一平の心は必死過ぎて、悪魔のようになっていました。

一平はママさん達の中を掻い潜り、商品の元へ着きました。


「 取った。 取ったぞ!! 」


一平は残り少ない商品へ手が届きました。

するとその商品に後から、他の人が触って来ました。


「 これは私のよ?? 」


体格の良い奥さんお取り合いに。

一平は迷いなく引っ張ろうとする。


「 後で触っておいて何が、私のだよ!

ルールは守れよなって …… あれ? 」


男の力でおもいっきり引っ張っているのに、全くびくともしません。

両手で力強く引っ張っても全然動きません。


「 うるさい男だねぇ…… うぇいっ!! 」


そう言って体格の良い女性に力強く引っ張られてしまい、意図も簡単に箱を取られてしまう。

その反動により一平は地面に叩きつけられてしまいました。

何度も立ち上がり手を伸ばしました。

ですが周りに居るハイエナ…… 奥様方の力には一平は太刀打ち出来ず、肘で顔を殴られたり髪を引っ張られたりとやられたい放題に。

止めにはまた違う体格良い女性に。


「 さっきから私に体くっつけてくんじゃないわよ!

それぇーーいっ!! 」


凄い威力のビンタをくらい、一平の意識は失くなりました。


そこから何分か過ぎると、商品が泣くなってその場所に人が居なくなりました。

散らばった商品や破かれたポスター。

紙くずや切れ端が散乱していました。

そこに一平がゴミくず同然に倒れていました。

一平は先着順の争奪戦に破れ去りました。


「 子供居る親は…… つえーーなぁ。

みんな気持ちは一緒って事だな…… 。 」


そう言いながら倒れて立ち上がろうとしません。


「 お客さん…… お客さん。

こんな所に倒れていたら迷惑ですよ。

お客さぁーー ん! 」


店員の声は一平の耳には入りませんでした。

そしてゆっくりと目を閉じました…… 。


ボロボロな姿で足を引きずりながらの帰宅。

顔はアザが出来て、足腰も痛くて仕方ありません。

情けなくても夜には帰らないといけない。


「 ただいまぁ…… 。 」


小さな声で言うと奥さんと娘が駆け寄って来ました。


「 パパぁお帰りなさい。

今日は早いんだね?

早くご飯食べよう?? 」


そう言い娘が一平の手を引っ張りました。

奥さんは一平の姿を見て驚きました。


「 あなたどうしたのその格好は?

何かあったの?? 」


情けなくて真実は言えません。

一平は謎に男なら…… みたいに考える、昭和人間なとこがあり、弱さを見せないようにする癖があるのです。


「 あぁ…… ウチの後輩がミスしてね。

お客さんカンカンで止めるのに必死でね。

お腹減ったぁ…… 今日は何かな? 」


恥ずかしくて嘘をつきました。

自分は充分頑張った…… プレゼントが買えなかった事を正直に言おう。

こんなに頑張ったのなら、奥さんも娘も絶対許してくれるだろう。

そう思っていました。


みんなでハンバーグを食べながらお話をしました。

何事もなかったように笑い、楽しくご飯を食べたした。


( 最近なんだかんだで遅くなってたから、一緒にご飯食べれてなかったなぁ…… 。

どうしてもっと早くに、何があっても早く帰らなかったんだろうか…… ?

悔いしか残らないなぁ…… 。)


一平は自分に腹が立ちました。


娘はその後に眠ってしまいました。

一平は奥さんに本当の事を話そうと思っていました。

テーブルに出しっぱなしになっていた、愛菜のお絵かきノートを見つける。


( 愛菜のお絵かきノートかぁ。

少し見てみようっと!! )


中を開けて見ると、ぐ〜たらファミリーの絵でいっぱいになっていました。

一生懸命に書いた絵は何とも微笑ましいのだろうか。

そしてページをめくっていると、一枚の絵に目が止まる。


「 これは…… 。 」


その絵はジェイミー人形を持った愛菜と、一平と奥さんの三人一緒に笑っている絵でした。

一平は涙が溢れていました。

娘の誕生日にどうにかジェイミーを買ってあげたい…… 。

そう強く思いました。


涙を拭いて、一平はある決意をしました。

そして会社に一本の電話を入れる。


「 もしもし部長ですか?

実はですね…… あのぉ…… 。 」


一平の決意とは!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る