第4話 1枚の紙切れ


一平と奥さんは夜話し合う事に。

重大な事の為、子供の前では話せないとの事。

一平は二日酔いで足はふらつき、精神的にも参ってしまいました。

仕事どころではありません。

一平は初めて遅刻しました。


「 皆さん…… おはようございます…… 。 」


一瞬で分かるぐらいのテンションの低さ。

顔は青ざめていて足はふらついている。

ただ事ではない事をみんなは悟りました。


「 係長?? 本当に大丈夫ですか?

お休みしても良かったんですよ? 」


周りから心配されても上の空。

右から左に流れていきます。


「 んんっ? あぁ…… 大丈夫。

仕事…… 仕事しなければ…… 。 」


一平はそう言い仕事を始めました。

周りからは心配する眼差しを感じる。

でも一平にはどうでも良かった。

今は何も考えられなかったのです…… 。


( 離婚かぁ…… もう駄目だ…… 。

俺は生きていけない。 1人で生きる??

考えた事なかったなぁ。

俺にはもう…… 生きる理由もなくなって…… 。 )


パソコンを動かす指は止まり、不意に涙が流れ落ちました。

一平は死人同然…… 。

仕事も全然手につかないくらいに。


ぶぅーーんっ!! ぶぅーーーーんっ!

スマホのバイブが鳴っている。


「 はい…… もし…… もし。 」


声も全然出ずゆっくりと声を出す。


「 一平どうした!? 何かあったのか?? 」


電話口から聞こえたのは一平の大親友。

荒川健人あらかわけんと

小学校の頃からの友達であり、今でも付き合いのある相棒。

互いにケンカしたり助け合い。

いつも二人はどんな事でも話し合う仲。


「 健人…… 俺…… 。

離婚されてしまうかもしれない。 」


「 なに!? 美咲ちゃんに??

とりあえず話をしよう。

昼に待ち合わせして会わないか?

近くのハードボイルドカフェに13:00に!

早まるんじゃねぇぞ?? 」


何だかんだでお昼に…… 。

一平はゆらゆらとふらつきながらカフェへ。

にしてもふざけた名前のカフェ。

一平はゆっくり店内へ。


「 ここだ。 一平!!

早く座れよ。 さぁ早く!! 」


優しい親友の健人。

体格も一平とほとんど同じ。

髪型は何故かツーブロック。

本人はイケてると思っているが、似合わなくて部下には裏で笑われている。


「 健人…… 俺は何を間違っていたのかもしれない。

少し無理し過ぎたのかもしれない…… 。 」


全ての経緯を話しました。

相棒の健人は真剣に聞いてくれました。

ビール飲み過ぎなのか、Yシャツ姿でも分かるくらいにズボンにお腹が乗っている。

一平と違い少し体型はだらしない。

独り身なので食生活が悪い。


「 美咲ちゃんがそんな事を言うなんて…… 。

俺達の学校ではマドンナだったよな。

何故かお前みたいなイケメンでもなく、頭も良い訳でもない凡人好きになって。

付き合えただけでも不思議だったのに、結婚なんて夢みたいなもんだったもんな。 」


そう言うと一平は健人の胸ぐらを強く掴む。


「 何だとぉーーっ!?

何で…… 何でこんな事に…… 。

俺はもうダメだ…… 。 」


怒る気力もなく、直ぐに放して落ち着く。

健人は乱れた髪を整えてコーヒーを飲みました。


「 すまない…… 信じられなくてな。

離婚届けなんて出すなんて。

俺もお前らには幸せで居て欲しかったのに、こんな事になるなんて…… 。 」


そう言いながら健人は頼んどいたパフェを食べ始める。


( コイツ…… 何パフェ食べてんだ!?

こっちは不幸のドン底に居るって言うのに。

そう言えば昔からだな。

健人のパフェ食べるのは。 )


少し話して落ち着き、また会社へ行きました。

一平は食事も喉を通りません。

仕方なく仕事を続けました。


村田丸が気にして一平の元へ。


「 先輩…… どうしたんですか?

今日は朝から死人みたいに。

俺なら何でも相談乗りますよ?? 」


一平は黙ってパソコンを打っていました。


「 お前は何も気にしないで良いんだよ。

気にする余裕あるなら仕事しろよ…… 。 」


そう言われて村田丸は引き下がりました。

でも気になって仕方がありません。

これも一平の日頃の行いが良いから、みんなは気にしてくれるのでしょう。


その日、一平は真っ直ぐ帰りました。

久しぶりに早く帰り、20:00に帰って来てました。


「 ただいまぁーーっ! 」


( ここからが戦いだ…… 絶対に負けない。

この勝負だけは負けられない…… 。

俺には美咲が必要なんだ。

愛菜が必要なんだ!

その想いを伝えよう…… 。 )


そう決心して部屋へ入る。

いつもと変わりなくご飯を食べて、お風呂に入って奥さんは娘を寝かしつけに。


遂に…… 遂に昨日の続きが始まる。

一平の額には汗を流しながら唾を飲み込む。

そして奥さんがやって来る。


「 遅くなっちゃったね。

愛菜寝るまで大変で。 」


「 いつもお疲れ様…… 。

それでこれなんだけど。 」


そう言い離婚届けをテーブルへ。


「 あなたはいつも私達を寂しくさせる。

仕事は大変なのかも知れないわ。

でも愛菜も私よ寂しいの。

これ以上あの子の悲しい顔見たくないの…… 。 」


奥さんはそう告げました。

一平がいつも遅く帰って来ていたので、沢山寂しい思いをさせてしまっていました。

直ぐに一平は土下座しました。


「 本当にすまない…… 何も気にしないで。

俺は変わる! もう変わるんだ!!

毎日早く帰って来る。

みんなと過ごすんだ…… 家族三人で過ごすんだ。

だから許してくれ。 」


奥さんは少し考えていました。


「 じゃあ一つだけ条件があります。

これが出来たら離婚はしません。 」


奥さんから一つの条件が出されました。

一平はどんな条件でも飲める自信がありました。


「 何だい?? 何でもやるよ。

だから絶対離婚だけは…… 。 」


一平は緊張して汗が止まりません。

そして奥さんからその条件が?


「 四日後の愛菜の誕生日。

必ず参加する事!! そして絶対に悲しませない事。

これだけ守ってくれるなら離婚しません。

愛菜は誕生日はパパと過ごしたいの。

あなたが大好きなのよ。 」


むくっ!! 一平は下を向きながら目を見開きました。


( えっ…… そんな事で?

なら絶対大丈夫だ!!

神よ…… 俺を救ってくれたんだね。

本当にありがとうございます!! )


一平は一筋の光を見ました。

暗闇に包まれて居たのに、やっと暗闇から出て来られた。

そんな気持ちになりました。


「 約束するよ、絶対に誕生日みんなでやろう!

愛菜を悲しませたりするもんか。

俺は美咲も愛菜も大好きなんだ。 」


「 絶対よ? 約束だからね?? 」


と言い指切りしました。


( その時俺は安心してしまっていた。

そこには大きな落とし穴があるとも知らずに。

その約束から俺の戦いが始まる事を…… 。 )


その次の日…… 。

奥さんが起きると一平の姿はありませんでした。

もう仕事に行ったのかと思い、キッチンへ行くと美味しそうな匂いが漂っている。


「 美咲。 おはよう! 気持ちの良い朝だね。

さぁ早く顔を洗ってご飯を食べようじゃあ〜ないか?

あっはっはっは!! 」


一平は離婚の危機が避けられた為、超ご機嫌モードになっていました。

喜怒哀楽が激しいのも一平の特徴の一つ。


「 ありがとう…… 仕事なのに大丈夫?

こんな早くから起きて料理して。 」


奥さんが一平の頑張りを少しやりすぎに感じ、気にしました。

一平は鼻歌を歌いながら料理を作っていました。

でも作れるのはカレーのみ…… 。


「 パパぁ…… おはよう。 」


愛菜ちゃんが良い匂いに誘われて起きてきました。


「 はぁ〜〜いっ! 愛菜ちゃんおはよう!

さぁ。 美味しいご飯沢山作ったから、顔を洗ってらっしゃいな。

おっほっほっほぉ!! 」


一平は幸せいっぱい!

今なら何でも出来る。

そんな気持ちになっていました。


みんなでテーブル着き、朝からカレーを食べる事になりました。

奥さんは朝からなので気が進みません。

愛菜ちゃんは直ぐにスプーンを持ち口に運ぶ。


「 いただきまぁす…… もぐもぐ。

パパのカレーだいしゅき!! 」


( ずぅ〜〜 んっ!!!!

俺はその瞬間、こんな大切な事まで見落としてしまっていたのだと気付いた。

仕事は大切だ…… だからと言って家族との時間が、少なくなっていたのではないか?

それでは本末転倒ではないか?

こんな可愛い娘に、綺麗な奥さん…… 。

もう…… 手放すものか…… 。

絶対になぁ…… 。 )


としみじみと涙目になりながら感じていました。

もぐもぐさせながら愛菜ちゃんは言いました。


「 パパぁ? 誕生日プレゼント買ってくれたぁ? 」


( ん!? 誕生日プレゼント?

抜かりはないぜい! 前から欲しがってた、物忘れパンダのぬいぐるみ。

屋根裏部屋に閉まってあるぜい。 )


一平は自信満々に言いました。


「 パパだぞ? 当然じゃないか。

誕生日楽しみにしてなさい。 」


そう言うと愛菜ちゃんは大はしゃぎ!

一平も笑って見ていました。

奥さんが耳元でこっそりと話す。


「 あなたちゃんと覚えて予約してたのね。

ぐ〜たらファミリーのぬいぐるみ、今じゃもう絶対買えないからね。 」


( えっ…… ぐ〜たらファミリー…… ?

物忘れパンダじゃない!? )


その瞬間に一平は感じました。

心の奥で何か嫌な音が鳴るのを…… 。

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