第3話 悲劇


村田丸はやる気満々。

一直線に鼻息を荒くしながら向かう。

本人は今、出来ない事は何もない!

と言わんばかりに、自信に満ち溢れ歩いていく。

そしてチャイムを鳴らせる。


「 はい! どなた? 」


主婦が恐る恐るインターホンで対応して来ました。


「 あっ…… あの、あのぉ〜 そうです。

私はですね。 あのぉーーっ。 」


ぶちっ!! 鈍いインターホンの切断の音が鳴る。

ただの変質者だと思われたのかも。

一平は村田丸の肩に手を乗せる。


「 次っ!! 」


気にしていたら仕事にならない。

数こなすのがこの仕事の向上する近道。

次の家へ…… 。


ピンポーーンッ!!


「 絶対…… 絶対ですね。

得するお話がでして、あのぉ。 」


ぶちっ!!


「 それがでして、本当に凄い物で。

得するお話がでして。 」


ぶちっ!!


「 村田の市丸と申し…… ます。

奥さん。 少しお話を…… 。 」


ぶちっ!!

インターホン越しに連続10回自己紹介すらまともに出来ず、直ぐに切られてしまいました。

村田丸は頭の中真っ白になりながら立っていました。

緊張していると何も伝わらない。

こっちの都合は相手にとってはどうでも良いのです。

村田丸はゆっくりと一粒の涙を流す。


「 村田丸…… 最初は…… 最初はみんなそんなもんだよ。

仕方ない! さぁ。 遅くなったし会社に戻ろう。

こんな日も良くあるさ。 」


励ましつつ会社へ戻りました。

部長に村田丸が仕事の結果を伝える。


「 バカ野郎めいっ!!

この天パーマンめ!!! 」


会社に響く声で叱られてしまう。

沢山罵倒されてヘロヘロに…… 。

自信もやる気も全て失ってしまう。


( 部長は昔の人だからあんな叱り方しか出来ないんだよなぁ…… 。

悪気がなくてもあれは…… 。 )


一平も可哀想で見ていられない…… 。

18:00になり、仕事終わった人からどんどん帰って行く。

村田丸は一人デスクでの仕事をしている。


「 村田丸帰るぞ!

人には息抜きが必要不可欠。

息抜き出来ないやつは仕事出来る訳ない。

さぁ、一杯飲みに行くぞぉーーっ!

付き合えい。 」


「 えっ!? あの…… 僕お酒はちょっと。 」


一平は無理矢理村田丸を居酒屋に連れて行きました。

一平は上司や同僚や部下の誰にでも優しい。

ほっとけない性格なのです。


「 あれ? 係長…… また飲みに行くのかしら。

本当に好きね。 」


女性達は一平を見て笑っていました。

いつものように誰かと飲みに行く。

お酒好きだなぁ…… とみんなは思っていました。


「 違うよ…… 村田丸君を励まそうとしてるのよ。

係長はそう言う人なんだよ! 」


林さんはみんなに言いました。

一平と村田丸が肩を組みながら出る姿を見届けました。


( 係長…… 飲み過ぎないで下さいね。 )


とクスりと笑う。

一平の事を見てくれてる人も居たのでした。


居酒屋に着き三時間…… 。

飲んだ瓶や食べかけのお皿が散乱していました。


「 部長がなんでいっ!!

俺を…… ひっく!! いつも目の敵にするぅ!

俺は出来ない天パーマンなんですよい!! 」


酷い悪酔いをしている村田丸。

飲ませ過ぎたのもあるが、お酒に弱くて自我を保つ事が出来ません。

Yシャツ姿で踊りながら不満をぶちまける。


「 係長ぉうはええですよねい。

綺麗な奥さんも居て。 ひっぐ!!

俺は独り身の冴えないパーマ野郎ですよっと。 」


慣れない酒を飲みつつ愚痴を吐き続ける。

一平はお酒は好きでも、お酒に弱い。

飲んでいると直ぐに顔が赤くなってしまう。


「 パーマでも何でもええやん!

矯正かければ直せるし。

うぷっ! もう飲めない…… んぷ! 」


酔って気持ち悪くなりテーブルの上に倒れる。

村田丸はネクタイを頭に巻きながら踊って、お酒を楽しんでいる。

意識が薄れていく中、一平は村田丸の楽しそうな姿を見ている。


「 村田丸…… そんな感じで笑顔で頑張れ。

お前なら…… 絶対に出来…… 。 」


一平は寝てしまいました。

その後飲み続けて夜中の3時に…… 。

村田丸もベロンベロンに酔い、タクシーで帰りました。

一平は少しでも村田丸の不満を解消させたくて一緒に飲みました。

明日も仕事…… 人によってはダメダメ野郎に見えると思います。

でもこんなストレス発散でも良いのでは??


そんなこんなで一平は帰宅。

当然家は真っ暗。

みんなとっくに寝ている。


( 可愛い俺の家族よ。

パパは今日も1日頑張ったぞ。

気持ち悪い…… 水飲みたい…… うぷっ! )


台所に水を飲みに行くと、急に電気がつきました。


「 んぅ? あぁ…… おはようございまちゅ。

旦那が頑張って仕事から帰って来ました! 」


顔を赤くしてクラゲのようにふらふらしている。

奥さんは呆れてため息をつく。


「 お帰りなさい。

また飲んでるの? 」


「 そうやよ!

可愛い部下の為に悩みを聞いて、元気にするんは先輩の役目なんだわ。

遊んでいた訳ではありましぇん!! 」


上手く喋れなくなりながら、水道から直接水を飲み始める。


「 それは耳タコよ。

ちょっと良いかしら? 」


そう言い一平を椅子に座らせる。

一平は椅子に座りながらゆらゆら体が動いている。

相当酔っているようだ。


「 何だいママ!

もう遅いのよ? 話は明日ではダメかな?? 」


奥さんの表情は真剣な表情。


「 愛菜との約束忘れてたの?

今日は早く帰って来て二人で、ゲームやろう! って言ってたじゃない!

愛菜ずっと待ってたのよ?

テレビでダンスダンスは1人じゃ出来ないのよ? 」


( ヤバイ!! 忘れていた…… 。

途中から村田丸を心配するあまり、約束を忘れていた!

本当にすまない…… 愛菜。 )


反省しながら頭をかきました。


「 ごめん!! ウチの後輩のせいで忘れてた。

明日こそは絶対にやるから!

約束するよ。 」


バァーーンッ!!

奥さんはテーブルを強く叩き立ち上がる。


「 いつもいつもそんな簡単に約束破って!

愛菜がどれだけ寂しがってたか…… 。 」


( ヤバイ…… ママのヤバイスイッチをONにしてしまった。

これは必死に謝ろう!!

俺を誰だと思ってる?

謝りのプロだ…… 頭を下げれば許してもらえる。 )


「 本当にすみませんでした!!

二度としません。 許して下さい! 」


奥さんは黙って立ち上がり寝室へ。


( 本当にすまない…… 明日こそ。

明日こそは真っ直ぐに帰るから。

許してくれたのかな? )


すると奥さんが直ぐに戻って来ました。

そして1枚の紙をテーブルに置きました。

その紙を見てみると…… 。


「 えっ…… えっ!?

離婚届けだって!!?

そんな…… 嘘だろ…… ? 」


一平の酔いは一瞬で覚めてしまう。

怒られるのは覚悟していました。

でも離婚されるまでとは思っていませんでした。

慌てて凄い汗をかいてしまう。


「 本気よ…… 私も愛菜もどれだけ寂しい思いをしてると思ってるのよ…… 。

あなたの安い営業謝りも見飽きました。

直ちにこれにサインして下さい。 」


一平は言葉が出なくなり目の前が真っ暗になり、目が回って倒れてしまう。


( 終わった…… 離婚なんてドラマの話だと思ってた。

まさか…… 俺がこんな事になるなんて…… 。 )


「 あなた!? あなた!! 」


急に倒れた一平を心配して駆け寄り、一平を寝室まで運びました。

この通告は家族大好きな一平には、あまりにも強烈で残酷な事だったのです。


チュンチュン!!

スズメが鳴き朝日が部屋へ射し込む。


「 うっ…… 。 」


頭が痛い…… 全ては夢だったのか?

泣き疲れて頬には涙の跡があり、直ぐに現実に引き戻されてしまう。


( そうか…… あの悲劇は夢じゃなかったのか。

待てよ…… いつ寝たんだ??

…… 美咲!! )


直ぐに飛び起きてリビングへ。


「 美咲ーーっ!! 」


直ぐに大声でリビングに入ると、奥さんがキッチンで朝ごはんを作っていました。


「 シーーっ!!

愛菜の前では昨日話はやめて?

おはよう。 」


と言って直ぐに料理を作り始める。

その背中はいつもは近くに感じたのに、今は凄く遠くに感じました。


( 美咲…… 俺にはお前と愛菜しか居ないんだ。

だから…… 捨てないでくれ…… 捨てないでくれ。)


と思いながらゆっくりと涙を流しました。

愛菜ちゃんはテレビを見ている。

愛菜ちゃんはアニメのぐ〜たらファミリーが大好き。

直ぐに涙を拭いて愛菜の元へ。


「 愛菜ちゃーー ん!

昨日は本当にごめん!!

一緒にゲームやる約束だったのに。 」


愛菜ちゃんはぐうたらファミリーに夢中。


「 約束、約束っていつもあなたは破ってる!

本当ダメ夫のナマケモノ!! 」


テレビでぐ〜たらファミリーのパパのナマケモノが怒られている。

ママのウサギさんはこれでもか!

と言わんばかりに目の敵にしている。


( 何が楽しいんだよこんなアニメ…… 。

見てて何故か心が痛い。 )


「 愛菜ちゃん…… あの、本当に悪いと。 」


「 パパおはよう。

仕事行ってらっしゃい! 」


テレビに釘付けのあまり、一平を見ずに軽く対応されてしまう。

一平の心の支えが全て砕けちる。

一平はソファに倒れてしまう。


( 終わりだ…… 妻の信用を失くし、娘には約束を破ってしまったせいで、動物ファミリーに心を奪われてしまう。

俺も…… 動物ファミリーに入れて…… 。 )


ソファに倒れてまた寝てしまう。

一平の幸せな毎日はいきなり、不幸のどん底に叩き落とされてしまうのでした。

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