第2話 仕事人間
一平にはあまり趣味はありません。
家ではゆっくりお酒を飲みながら、テレビを見たりと家族とゆったりするのが好きです。
働くのは苦ではない為、毎日楽しく仕事をしていました。
むしろ仕事が趣味ではないのか?
っと言わんばかりに。
月曜日…… 。
朝から不機嫌に出社する一平。
( ふざけやがって…… 。
結局あの後にみんなで手巻き寿司やって、折角の休みが丸潰れだよ。
娘は俺に冷たいし…… 。 )
不機嫌に速足で階段を登って行く。
「 おはよう! 皆さん。 」
大きな声で挨拶をする。
みんなも続けて挨拶を返してくれる。
( 最高だ…… ここでだけはみんな俺を親ってくれる。
ママと娘も冷たいんだよ! )
そう思いながら席に着く。
直ぐにお茶を持ってきてくれました。
「 ありがとう! 林さん。 」
入社してまもない。
優しくいつも笑顔。
気は弱いのが欠点なので、一平が良く面倒を見ている。
そのせいかいつもお茶を入れたりと、優しくしてもらっている。
「 係長。 今日も何イライラしてるんですか? 」
図星である。
動揺しつつお茶を飲んで落ち着こうとする。
「 ズルルーーッ…… 熱いっ!!
火傷したぞ。 あっつ! 」
急いで飲んだせいで舌を火傷してしまいました。
林さんはクスクスと笑う。
「 本当〜 に係長って分かりやすいです。
奥さんにも何にも嘘つけませんね! 」
と笑いながら仕事に戻って行きました。
一平は服に溢したお茶をハンカチで拭きました。
( どいつもこいつもバカにしやがって。 )
一平は気を取り直し仕事へ。
電話でお客さんと話したりして、商品を契約してもらったりと大忙し。
外回りで足を運ぶ事もあります。
みんな嫌がりましたが、一平は違います。
喜んで何処までも行きました。
昼まで電話やデスクワークをこなして、昼食の時間になり休む事に。
「 何食べに行こうかなぁ…… 。 」
迷って居ると部長がやって来ました。
「 田中君。 付き合いなさい。
ご飯奢ってあげるからさ! 」
( 部長かぁ…… 無駄に断って後が怖い。
気に入られて悪い気はしない。 )
「 はい。 喜んで!! 」
一平は基本YESマン。
優しいのではなく、断るのがとてつもなく下手なのだ。
そのせいでいつも厄介事に巻き込まれてしまう。
二人はビルを出て天ぷら屋へ。
「 さぁ食べるか! 」
頼んだのは天ぷらの盛り合わせ。
海老にナスにイカ天。
新鮮な物ばかりで美味しそうだ。
部長の
綺麗な怖い奥さんが居て、いつも家に帰りたくない部長。
娘は15歳で今は反抗期でろくに話も出来ていない。
「 全く…… 誰のお蔭でこんなに大きくなったと思ってんだかね。
前までは、パパと結婚するとか言ってたのにさ。」
クチャクチャと音を立てながら食べている。
何ならツバも一平の顔に当たっている。
( 本当に上司との食事って大変だよ。
文句一つ言えないし…… しかも昼に天ぷら?
胃がもたれるよ。 )
とイライラしてもその気持ちを圧し殺し、笑顔で答えました。
「 そんな事ありませんよ。
娘さんも部長が大好きに決まってますよ! 」
そう言うと部長は目を大きくして顔を近付ける。
「 本当かい?? 本当にそう思うかい?
なぁなぁ? 嫌いな訳ないよな!? 」
またツバが顔にかかりまくる。
ハンカチで拭きつつ。
「 部長…… ちょっと近いですよ。
その通りです。 部長は一家の大黒柱。
ドーーンっ! と堂々としていれば良いのです。
だから少し離れて下さい。 」
部長は喜んで一平の肩を叩きました。
その威力は凄まじいもので、バシバシと音を立ててしまう。
「 田中君と話すと元気になるよ。
天丼でもお食べ!
おーーいっ! こっちに特上天丼をもらえるかい?」
天ぷらを散々食べたのにおかわりに、天丼を食べさせようとしている。
一平はお腹がいっぱい…… 。
( 部長っ!! 暴走し過ぎ!
断るのは申し訳ないし…… 。
なら選択肢は一つしかないん! )
「 いただきますっ。 」
また嫌われたくなくて無理をする。
これも世渡り上手故のさがなのかもしれない。
沢山食べて合計3700カロリーも摂取。
一平は間違いなく太った。
昼休みを終えて妊婦と同じくらいのお腹で、デスクに戻ってきました。
「 うっぷ! 気持ち悪い…… 。
部長めい…… あんなに食べさせて。
悪い人ではないんだけど。 」
するといつの間にか胃薬が机に。
それと一枚の置き手紙も。
( 係長。 いつも愛想良く断らないからこんな目にあうんですよ?
これ飲んで反省して下さい! 林。 )
林さんからの胃薬でした。
直ぐに飲んで一息つく。
( 年下のくせして生意気だな。
でも優しいんだよね。
たまには断らないとなぁ…… 。 )
と少し反省しつつ仕事へ。
デスクワークや電話対応をして、近くを訪問販売。
部下の仕事ですが、一平も初心を忘れないようにと部下と二人で販売へ。
ついでに部下に技術を伝授する。
「 ついて来い! 村田丸!! 」
「 はいっ。 先輩! 」
太っていて汗っかき。
おどおどしていて営業には不向き。
身長も低くて髪は天パー。
いつも怒られてばかりの新人さん。
皆には村田丸と呼ばれている。
「 村田丸っ! 今日こそは契約取るぞ。
商品を売ったり契約する時は、気合いと忍耐力が必要なんだぞ。
分かったな?? 」
そう言い住宅地へ。
ここら辺は裕福な家が多く、昼間は主婦が暇を持て余している。
営業マンには最高のカモである。
( ふっふっふ…… ここは最高の狩り場。
俺の実力を見せてやるか。 )
と一平はお手本の為、一人で一軒家のチャイムを鳴らせる。
「 はい。 何の用なの?? 」
お昼寝中だった40代主婦が出てきました。
一平は直ぐにニコニコ笑顔で。
「 こんにちはぁ〜 。
お昼時に失礼致します。
今、少しお時間大丈夫ですか?? 」
流れるようなトーク。
相手は直ぐにセールスマンだと感じて、嫌な表情に変わる。
「 ウチはセールスお断りなので帰ってもらえますか? 」
良く聞く嫌な反応。
村田丸はもう駄目だと思いました。
でも一平は違う!!
「 本当にすみません…… あれ?
あそこの花壇のお花綺麗ですね。
ウチの家内も花とか育てるの好きなんです。 」
「 まあ…… 嫌いではないかな。
奥さん居るんだね。 」
と帰らずに喋り始めました。
「 そうなんですよ!
僕には出来た嫁でして。
娘も居て凄い可愛いんですよ。
もしかしてペット飼ってますか?? 」
一平は会話を止めずに話題を沢山振りました。
そしてどの会話に食いつくかによって、売る物を買えたりする高等テクニックを使っていました。
「 ウチのぺー太郎ちゃん見て!
ペルシャ猫で血統書付きで凄い高かったのよ。
毛並みもほらぁ!! 」
鼻息荒くなり自慢話を始めました。
その時ニッコリしながらも心の中では?
( 来た!! コレだ…… 。
これで攻める…… 攻めまくる!! )
相手が何なら買うか?
一平は分かってしまいました。
「 可愛い猫ちゃんですね。
ん?? でもお留守番の時どうしてます?
毎回一緒に出掛けられないだろうし…… 。 」
「 そうなのよ…… 。
その度に預けるとお金ばかりかかって。 」
その悩みにつけ込む!!
それがセールスマン。
「 そうだっ! なら良いのがありますよ。
今僕の所で取り扱っている、猫ちゃん自動餌あげ機。
これが今はバカ売れでして。 」
「 そうなの??
でも高そうじゃない…… ? 」
ペチャクチャペチャクチャ…… 。
話すこと20分。
世間話を合間に入れつつも商品の良さや、高くても元は直ぐに取れてしまうと言って、相手に商品の魅力を伝える。
まるで流れるような口さばき…… 。
まさに…… プロの技。
「 一平ちゃん! 一つ頂くわ。
その代わり色々サービスしてよ? 」
何と! あっという間に友達のように一平ちゃんと呼ばせて、さらには商品をしっかり買わせてしまう。
これが一平の凄さ!
「 ありがとう御座います。
是非とも色々サービスさせて頂きます。
あれ? ここ雑草凄いですね。
ちょっと女性には大変だ。
片付けてから帰りますね! 」
アフターケアも完璧。
嫌な物を無理矢理売り付ける訳でもない。
まるで友達が自分の好きな物を紹介する。
そんな感じな仕事ぶり。
それが好評で営業成績はトップ!
その後、村田丸と一緒に草むしりをする。
小さな声で二人は話をしていました。
「 先輩…… カッコいいっす!
神です。 髪型一緒にしても良いですか?? 」
目を輝かせて興奮しながら話す村田丸。
「 まだまだ早いぜ…… 天パー丸。
一人前になったらこの最高な七三の髪型にするがいい。
ぷっはっはっは!! 」
本当に仕事が大好きで生き甲斐な一平。
その後に村田丸の仕事ぶりを見る事に、次の狙いの一軒家を目指すのでした。
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