第2話 仕事人間


一平にはあまり趣味はありません。

家ではゆっくりお酒を飲みながら、テレビを見たりと家族とゆったりするのが好きです。

働くのは苦ではない為、毎日楽しく仕事をしていました。

むしろ仕事が趣味ではないのか?

っと言わんばかりに。


月曜日…… 。

朝から不機嫌に出社する一平。


( ふざけやがって…… 。

結局あの後にみんなで手巻き寿司やって、折角の休みが丸潰れだよ。

娘は俺に冷たいし…… 。 )


不機嫌に速足で階段を登って行く。


「 おはよう! 皆さん。 」


大きな声で挨拶をする。

みんなも続けて挨拶を返してくれる。


( 最高だ…… ここでだけはみんな俺を親ってくれる。

ママと娘も冷たいんだよ! )


そう思いながら席に着く。

直ぐにお茶を持ってきてくれました。


「 ありがとう! 林さん。 」


林惠子はやしけいこ22歳。

入社してまもない。

優しくいつも笑顔。

気は弱いのが欠点なので、一平が良く面倒を見ている。

そのせいかいつもお茶を入れたりと、優しくしてもらっている。


「 係長。 今日も何イライラしてるんですか? 」


図星である。

動揺しつつお茶を飲んで落ち着こうとする。


「 ズルルーーッ…… 熱いっ!!

火傷したぞ。 あっつ! 」


急いで飲んだせいで舌を火傷してしまいました。

林さんはクスクスと笑う。


「 本当〜 に係長って分かりやすいです。

奥さんにも何にも嘘つけませんね! 」


と笑いながら仕事に戻って行きました。

一平は服に溢したお茶をハンカチで拭きました。


( どいつもこいつもバカにしやがって。 )


一平は気を取り直し仕事へ。

電話でお客さんと話したりして、商品を契約してもらったりと大忙し。

外回りで足を運ぶ事もあります。

みんな嫌がりましたが、一平は違います。

喜んで何処までも行きました。


昼まで電話やデスクワークをこなして、昼食の時間になり休む事に。


「 何食べに行こうかなぁ…… 。 」


迷って居ると部長がやって来ました。


「 田中君。 付き合いなさい。

ご飯奢ってあげるからさ! 」


( 部長かぁ…… 無駄に断って後が怖い。

気に入られて悪い気はしない。 )


「 はい。 喜んで!! 」


一平は基本YESマン。

優しいのではなく、断るのがとてつもなく下手なのだ。

そのせいでいつも厄介事に巻き込まれてしまう。


二人はビルを出て天ぷら屋へ。


「 さぁ食べるか! 」


頼んだのは天ぷらの盛り合わせ。

海老にナスにイカ天。

新鮮な物ばかりで美味しそうだ。


部長の斎藤修一郎さいとうしゅういちろう45歳。

綺麗な怖い奥さんが居て、いつも家に帰りたくない部長。

娘は15歳で今は反抗期でろくに話も出来ていない。


「 全く…… 誰のお蔭でこんなに大きくなったと思ってんだかね。

前までは、パパと結婚するとか言ってたのにさ。」


クチャクチャと音を立てながら食べている。

何ならツバも一平の顔に当たっている。


( 本当に上司との食事って大変だよ。

文句一つ言えないし…… しかも昼に天ぷら?

胃がもたれるよ。 )


とイライラしてもその気持ちを圧し殺し、笑顔で答えました。


「 そんな事ありませんよ。

娘さんも部長が大好きに決まってますよ! 」


そう言うと部長は目を大きくして顔を近付ける。


「 本当かい?? 本当にそう思うかい?

なぁなぁ? 嫌いな訳ないよな!? 」


またツバが顔にかかりまくる。

ハンカチで拭きつつ。


「 部長…… ちょっと近いですよ。

その通りです。 部長は一家の大黒柱。

ドーーンっ! と堂々としていれば良いのです。

だから少し離れて下さい。 」


部長は喜んで一平の肩を叩きました。

その威力は凄まじいもので、バシバシと音を立ててしまう。


「 田中君と話すと元気になるよ。

天丼でもお食べ!

おーーいっ! こっちに特上天丼をもらえるかい?」


天ぷらを散々食べたのにおかわりに、天丼を食べさせようとしている。

一平はお腹がいっぱい…… 。


( 部長っ!! 暴走し過ぎ!

断るのは申し訳ないし…… 。

なら選択肢は一つしかないん! )


「 いただきますっ。 」


また嫌われたくなくて無理をする。

これも世渡り上手故のさがなのかもしれない。

沢山食べて合計3700カロリーも摂取。

一平は間違いなく太った。


昼休みを終えて妊婦と同じくらいのお腹で、デスクに戻ってきました。


「 うっぷ! 気持ち悪い…… 。

部長めい…… あんなに食べさせて。

悪い人ではないんだけど。 」


するといつの間にか胃薬が机に。

それと一枚の置き手紙も。


( 係長。 いつも愛想良く断らないからこんな目にあうんですよ?

これ飲んで反省して下さい! 林。 )


林さんからの胃薬でした。

直ぐに飲んで一息つく。


( 年下のくせして生意気だな。

でも優しいんだよね。

たまには断らないとなぁ…… 。 )


と少し反省しつつ仕事へ。

デスクワークや電話対応をして、近くを訪問販売。

部下の仕事ですが、一平も初心を忘れないようにと部下と二人で販売へ。

ついでに部下に技術を伝授する。


「 ついて来い! 村田丸!! 」


「 はいっ。 先輩! 」


村田市丸むらたいちまる20歳。

太っていて汗っかき。

おどおどしていて営業には不向き。

身長も低くて髪は天パー。

いつも怒られてばかりの新人さん。

皆には村田丸と呼ばれている。


「 村田丸っ! 今日こそは契約取るぞ。

商品を売ったり契約する時は、気合いと忍耐力が必要なんだぞ。

分かったな?? 」


そう言い住宅地へ。

ここら辺は裕福な家が多く、昼間は主婦が暇を持て余している。

営業マンには最高のカモである。


( ふっふっふ…… ここは最高の狩り場。

俺の実力を見せてやるか。 )


と一平はお手本の為、一人で一軒家のチャイムを鳴らせる。


「 はい。 何の用なの?? 」


お昼寝中だった40代主婦が出てきました。

一平は直ぐにニコニコ笑顔で。


「 こんにちはぁ〜 。

お昼時に失礼致します。

今、少しお時間大丈夫ですか?? 」


流れるようなトーク。

相手は直ぐにセールスマンだと感じて、嫌な表情に変わる。


「 ウチはセールスお断りなので帰ってもらえますか? 」


良く聞く嫌な反応。

村田丸はもう駄目だと思いました。

でも一平は違う!!


「 本当にすみません…… あれ?

あそこの花壇のお花綺麗ですね。

ウチの家内も花とか育てるの好きなんです。 」


「 まあ…… 嫌いではないかな。

奥さん居るんだね。 」


と帰らずに喋り始めました。


「 そうなんですよ!

僕には出来た嫁でして。

娘も居て凄い可愛いんですよ。

もしかしてペット飼ってますか?? 」


一平は会話を止めずに話題を沢山振りました。

そしてどの会話に食いつくかによって、売る物を買えたりする高等テクニックを使っていました。


「 ウチのぺー太郎ちゃん見て!

ペルシャ猫で血統書付きで凄い高かったのよ。

毛並みもほらぁ!! 」


鼻息荒くなり自慢話を始めました。

その時ニッコリしながらも心の中では?


( 来た!! コレだ…… 。

これで攻める…… 攻めまくる!! )


相手が何なら買うか?

一平は分かってしまいました。


「 可愛い猫ちゃんですね。

ん?? でもお留守番の時どうしてます?

毎回一緒に出掛けられないだろうし…… 。 」


「 そうなのよ…… 。

その度に預けるとお金ばかりかかって。 」


その悩みにつけ込む!!

それがセールスマン。


「 そうだっ! なら良いのがありますよ。

今僕の所で取り扱っている、猫ちゃん自動餌あげ機。

これが今はバカ売れでして。 」


「 そうなの??

でも高そうじゃない…… ? 」


ペチャクチャペチャクチャ…… 。

話すこと20分。

世間話を合間に入れつつも商品の良さや、高くても元は直ぐに取れてしまうと言って、相手に商品の魅力を伝える。

まるで流れるような口さばき…… 。

まさに…… プロの技。


「 一平ちゃん! 一つ頂くわ。

その代わり色々サービスしてよ? 」


何と! あっという間に友達のように一平ちゃんと呼ばせて、さらには商品をしっかり買わせてしまう。

これが一平の凄さ!


「 ありがとう御座います。

是非とも色々サービスさせて頂きます。

あれ? ここ雑草凄いですね。

ちょっと女性には大変だ。

片付けてから帰りますね! 」


アフターケアも完璧。

嫌な物を無理矢理売り付ける訳でもない。

まるで友達が自分の好きな物を紹介する。

そんな感じな仕事ぶり。

それが好評で営業成績はトップ!


その後、村田丸と一緒に草むしりをする。

小さな声で二人は話をしていました。


「 先輩…… カッコいいっす!

神です。 髪型一緒にしても良いですか?? 」


目を輝かせて興奮しながら話す村田丸。


「 まだまだ早いぜ…… 天パー丸。

一人前になったらこの最高な七三の髪型にするがいい。

ぷっはっはっは!! 」


本当に仕事が大好きで生き甲斐な一平。

その後に村田丸の仕事ぶりを見る事に、次の狙いの一軒家を目指すのでした。

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