新生活

仁中市。この街は、周りが山に囲まれているにも関わらず、歩夢の地元とは違って団地やビル等があり、都会の雰囲気を醸し出していた。


大きな山々のせいで、雨、雪ともにあまりに降らないこの地域は、街に大きなダムがある。少量ながらも流れる川の水を塞き止め、各家庭へと提供している。

足りない部分は隣町からという具合だ。


都会なのに不便、そんな歪さを持った街だった。


そんな仁中市に引っ越して来た歩夢は、スムーズに新学期を迎えるべく、夏休みの間に、編入先である「私立月ノ宮学園高等学校」へ、編入の手続きをする為にやって来た。


何故、この高校を選んだのかというと、姉である白崎花恋しらさきかれんが教師として、勤務しており、更には学校寮がある為である。


玄関の近くにある、事務室へとやって来た歩夢と花恋は、窓口から事務員が持ってきた記入用紙等を受け取ってた。

そして花恋が必要な事を記入していく。


そんな中、あるものが歩夢の目に留まった。


それは、玄関に飾ってあった一枚の絵だった。


校舎を正面から描いてあるその絵は、まるで写真のように綺麗で、それでいてその絵自体が別空間として成立しているかのようだった。


その絵に見とれていると


「綺麗な絵でしょ?」


花恋が歩夢に話しかける。


「この春から入学して来た1年生なんだけどね、学園長がこの絵をいたく気に入ったらしくて飾ってるの」


花恋は、少し残念そうな顔をして言葉を続ける。


「でもこの学校って、美術部が存在しないのよ。

昔はあったみたいなんだけどね、今じゃ部員なし。

だけど、放課後は彼女が美術室を借りて絵を描いてるみたい。」


「そうなんだ。」


話を聞きつつも、その目線は絵に固定されていた歩夢は、花恋の言葉に対する返事が少し雑になってしまった。


そうしているうちに、手続きが終わり、歩夢と花恋は、学校を後にした。


神渡学園に編入するにあたって、花恋が寮長を務める「ながい荘」へ入寮する事になった歩夢は、これから始まる生活の為に、身の回りの整理を行っていた。


思い出の品や、学校に必要になるであろう物は実家から持ってきていた為、問題は無かったが、日用品等はまだ揃っておらず、花恋に手伝ってもらいながら必要な物を揃えて言った。


その中で花恋に聞いた話によると、「ながい荘」には歩夢の他にも生徒が居るらしいが、花恋が地元に帰る為、寮を離れなければならないとの事で、今は全員帰省しているとの事。


そして、残り短かった夏休みが終わり、あっという間に新学期に突入した。

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