旅立ち

育ての親であった祖父母が亡くなった。


祖父は俺が中3の時に、祖母は今年に。


元々、他の家庭のように、自分が大人になっても元気で居てくれる等とは思っていなかった為、突然な死ではあったものの、涙は零れなかった。


しかし、これから先どうなるのかは不安だった。


葬式後、うちに集まっていた親戚の人達は、高2の子共を養う余裕など無いとばかりに


「うちで預かるのは無理だ」

「そっちはどうだ?子供は居なかっただろ?」

「もう高校生なんだから、少しのお金を与えれば、後はやっていけるのでは?」


そんな事を仏壇部屋で口々に言っていた。


親戚達の会話を廊下で聞いていた俺は、ここに居る事を悟られない様に蝉の声に隠れて気配を消す。


そして、一人これからの事について考えていた。


そんな中、遠くに就職した為に、なかなか帰省できていなかった姉さんが


「うちで預かります」


と、親戚の前で言った


それを聞いた親戚達は、


「いきなり、地元を離れるのは…」

「姉弟が居るとは言え、慣れない環境だから…」


などと言っていた。


それに対して姉さんは


「歩夢は優しい子です。それに人の心がしっかりと分かる子です。そんな子が貴方達の本心が分からないとでも思いますか?」


そう尻込みせず、親戚の面々を睨み付けるように堂々と言い放った。


それを聞いた親戚達は

黙り込み、1人、また1人と祖父母の家を後にした。


そして俺と姉さんの2人になった時


「さて、準備を始めようか」


まだ涙跡の残る頬を誤魔化す様に、俺に笑顔でそう言った。


「うん」


姉さんの優しさを無駄にできないと、その哀しみの色が消えていない顔に気付いていない振りをして短くそう答えた。


そこからは学校に連絡を入れたり、引越しの準備だったりで、大忙しだった。


高2の新学期には、新しい環境で過ごせる様にしなければならない為、ゆっくりしている暇は無かったのだ。


しかし、今思えば、その忙しさがありがたかったのかもしれない。


涙を零さなかったとはいえ、長年一緒だった祖父母との別れは、とても辛かった。


だからこそ、悲しんでいる暇のなかったあの瞬間は、自分心を切り替える為に必要な時間だったのだろう。


そして、学校での挨拶や引越しなどを済ませた俺は、姉さんと共に、16年過ごした故郷を後にした。

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