出会い(1)
緊張と不安、それから少しの楽しみな気持ちで迎えた登校初日。
長期休暇明けの、全校生徒による集会を終えた後、担任である花恋に連れられ、これから1年半、勉学に励む教室に着いた。
「少し待っててね」
そう言い残すと、花恋は教室へと入って行った。
「ガラガラ」という扉の開く音に、それまで、ざわついていた教室は、少し静かになり
「はい、静かに〜」
という、少し間延びした言葉を境に、徐々にその静けさは広がっていった。
「うん、それじゃおはようございます。
夏休みはどうでしたか?全員出席しているという事は、大きな怪我もなく過ごせたのでしょう、先生は安心しました。
これから課題の提出を…と、本来はする筈ですが、その前に、転校生を紹介します。」
花恋のその言葉に、教室が再度ざわめき始める
「はいはい、静かにね〜、それじゃ入って」
花恋の言葉を聞いた歩夢は、小さく呼吸を整えた後、教室へ入って行った。
そして花恋の隣に立つと、姉さんは歩夢に向かって小さく頷いた。
その仕草を合図に、歩夢には緊張しながらも、クラスメイトへの挨拶を行った。
「えっと、
すると、教室から1つ、また1つと拍手の音が広がっていった。
そして、その拍手が静まるのを待ってから花恋は
「片伯部君は、家庭の事情で、新学期からこの学校に通う事になりました。皆さん、仲良くして下さいね」
決まり文句に近い言葉を、花恋は他の生徒に向けて言う。
そして、歩夢の方を向き直し、空席を指差しながら「あそこが君の席だよ」と、伝えた。
歩夢が席に着いたのを確認した後、花恋の合図で、課題の提出が行われた。その後は、問題なく1〜4限目までの授業が行われ、そして、12:30分のチャイムと共に昼休みへと突入した。
お昼は、花恋が用意してくれていたお弁当を、自分の席で食べた歩夢は、残りの時間をどう過ごすか考えながら、中庭へと足を運ぶことにした。
校舎の3階に届きそうな程の大きさをしている楓の木がある中庭は、持参した弁当を友人と食べている人、読書をしている人等、それなりに賑わいをみせていた。
その様子を横目に、レッドとグレーのコンクリートレンガで舗装された道を歩いていると、誰も座って居ないベンチを発見した。
そして時間まで、ここで仮眠でも取ろうと考え、歩夢は腰を下ろし瞼を閉じる。
「ここまでチャイムの音は届くのだろうか」などと考えていると
「貴方が、噂の転校生ですか?」
という声が、暗闇の向こう側から飛んできた。
瞼を開けるとそこには、眼鏡をかけている女子生徒が立っていた。
肩甲骨辺りまでの髪の長さをした彼女は、第一印象からして大人しそう、というよりかは硬派な学級委員長、そんなイメージを感じ取る事が出来る。
「転校生なのは間違いないですが…そんな噂になってます?」
「えぇ、このタイミングでの転校生なんて、かなり珍しいですから」
「それなら、もう少し話し掛けてくれるとありがたいんですけどね、休み時間なんて気まずい事この上無いですよ」
「それは、しょうが無いと思いますよ?最近の若者は特に、他人に対する警戒心が強いですから」
彼女はクスッと笑いながらそう答える。
「すみません。私、
先程まで崩していた表情を戻し、彼女は、先輩は自己紹介をした。
この時のお休みという意味は、休憩ではなく、睡眠という意味合いだろう。
「いえ、全然大丈夫です。俺は、片伯部歩夢と言います。」
「片伯部歩夢君、歩夢君と呼ばせて貰っても良いですか?片伯部君だと少し言いずらくて…。」
少し申し訳なさそうに、苦笑いをした。
「あっ、その代わり私の事も麗奈で構いません。苗字で呼ぶ人も居ますが、皆さん殆ど名前で呼びますので」
胸に手を当て麗奈は、歩夢に提案をした。
何ともあざとい仕草だったが、それにドキッとしたのは歩夢が、女性慣れしていないからではないだろう。
「問題ないです。じゃあよろしくお願いします。麗奈先輩」
麗奈先輩は満足そうにうなずく。
「そうだ、放課後時間はありますか?」
「放課後、ですか?これといって用事はないですね。真っ直ぐ寮に帰るつもりでした。」
「だったら、学校内を案内しましょう。細かな場所はまだ、知らないでしょうから」
確かに、トイレや職員室などは、花恋に聞いて覚えたものの、移動教室先などは、他の生徒の後を付いて行く事で解決していたから、知らない所は沢山ある。
歩夢にとって、麗奈の提案は魅力的なものだった。
「ご迷惑でなければ、お願いします」
歩夢は少し、考えた末そう答えた。
「じゃあ決まりですね、放課後…そうですね。この場所にもう一度集まりましょうか。」
麗奈が場所を指定する。
「時間はどうします?」
「それぞれのクラスごとに微妙に違ったりもしますので、終わったらすぐにということで」
「分かりました、なるべく早く来ることにします」
そう言って放課後の約束をし終わった時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「時間のようですね、それではまた放課後に」
そう言って花恋は自分の教室であろう方向へ歩いていく。
そして歩夢も「はい、おねがいします」と、返事をした後、初日から授業に遅れる事があってはならないと、教室へ急いだ。
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